ビッグ3


「ご迷惑おかけしました!!」
「デクくんオツトメごくろうさま!!」
「おつかれさまー!」
「オツトメって……つか何息巻いてんの?」
「飯田くん!! ごめんね!!! 失望させてしまって!!」
「うむ……反省してくれればいいが……しかしどうした?」
「この三日間でついた差を取り戻すんだ!」
「あ、良いな。そういうの好き俺!」

爆豪より一日早く緑谷は謹慎から復帰した。三日間で授業内容といいみんなと差が開いたように感じて焦りもあったのだ。緑谷も復帰したことで本格的にインターンの説明が始まろうとしてた。
相澤が扉に向かって入ってくるように声をかける。インターンを直に体験している在校生に話を聞くらしい。


「多忙な中都合を合わせてくれたんだ。心して聞くように。現雄英生の中でもトップに君臨する3年生3名――通称ビッグ3の皆だ」
「あ、ねじれちゃんたちだー!」
「イブちゃんやっほー」
「え、イブ知り合い!?」
「うん! イブ雄英ここでの暮らし長いし、リカバリーガールのお手伝いしてるからヒーロー科なら大体の人はしってるよー!」
「ああ、そういう……」

ふりふりと手を振ると波動と通形が同じように手を振り返してくれた。天喰も控えめながら少し手を振ってくれたのだった。
ビッグ3とはいうものの、昨年の体育祭では3人ともこれといった成績を残していなかった。けれど今やビッグ3と呼ばれるほどである。その成長の訳はインターンであった。


「じゃ手短に自己紹介よろしいか? 天喰から」
「(一瞥だけでこの迫力――!! おおおおお!!)」
「駄目だミリオ……波動さん……ジャガイモだと思って臨んでも……頭部以外が人間のままで依然人間にしか見えない。どうしたらいい。言葉が……出てこない」
「!?」
「頭が真っ白だ……辛いっ……! 帰りたい……!」

天喰はあまりにメンタルが弱かった。その様子に思わず尾白が雄英ヒーロー科のトップですよねと確認するが、紛れもなく事実である。けれどとても繊細でネガティブなのだ……。


「あ、聞いて天喰くん! そういうのノミの心臓って言うんだって! ね! 人間なのにね! 不思議! 彼はノミの「天喰環」それで私が「波動ねじれ」今日は郊外活動インターンについて皆にお話してほしいと頼まれてきました。けどしかし、ねえねえところで君は何でマスクを? 風邪? オシャレ?」
「! これは昔に……」
「あら、あとあなた轟くんだよね!? ね!? 何でそんなところを火傷したの!?」
「……!? それは――」
「え!? 轟くんそれ火傷だったの!? イブてっきりそういうお顔なのかと思ってた! イブ治してみようか!? たぶんいけると思うよ!」
「え、いや……大丈夫だ」
「そっか! イブ火傷も似合ってると思うよ! かっこいい!!」
「……ありがとな」

新発見だった。だって轟あまりにイケメンなのだもの。精神年齢が幼いイブですらかっこいいと思っちゃうくらいなので。火傷も違和感がないくらい綺麗な顔だったし、そういうお顔だと思っていたのだ。普通に火傷だった。
イブが轟とそんなやり取りをしている間も波動の不思議好奇心ワールドは広がっていた。聞くわりに返答を聞いていない。あまりに自由過ぎる空間に相澤がピクリと青筋を立てた。


「合理性に欠くね?」
「イレイザーヘッド安心してください!! 大トリは俺なんだよね! 前途ーー!!?」
「!?」
「えっとえっと、棚ーー!!」
「惜しい! 多難ー! っつってね! よォしツカミは大失敗だ」

ビッグ3というわりに風格が感じられないそれに徐々に不信感のようなものが集まっていた。校外学習の説明にきたというが、その内容もちゃんと伝わっていない。正直何の時間だこれといった感じであった。
それを感じ取った通形は身をもって知ってもらうことにした。全員まとめて自分と戦おうというもの。イブはちょっと嫌そうな顔をした。







「ミリオやめた方がいい。形式的にこういう具合でとても有意義ですと語るだけで充分だ。皆が皆上昇志向に満ち満ちているわけじゃない。立ち直れなくなる子が出てはいけない」
「あ。聞いて知ってる。昔挫折しちゃってヒーロー諦めちゃって問題起こしちゃった子がいたんだよ。知ってた!? 大変だよねえ。通形。ちゃんと考えないと辛いよ。これは辛いよー」
「待ってください……我々はハンデありとはいえプロとも戦っている」
「そしてヴィランとの戦いも経験しています! そんな心配されるほど俺らザコに見えますか……?」
「うん。いつどっから来てもいいよね。一番手は誰だ!?」
「おれ――」
「僕……行きます!」
「意外な緑谷!!」
「問題児!! いいね君やっぱり元気があるなあ!」
「近接隊は一斉に囲んだろぜ!! よっしゃ先輩そいじゃあご指導ぉーよろしくお願いしまーっす!!」

それから、まさに瞬殺であった。相澤にして自分が知る限りプロも含めて最もNO.1に近い男と言わしめるだけはある。イブは通形の個性を知っていたため、上空に耳郎をなんとか抱えて避難していたが、それだけだった。
ちなみに轟は仮免を取っていないからといった理由で辞退した。丸くなった。


「みんな〜! だいじょうぶ〜!」
「いってぇ……無事なのイブと……耳郎だけかよ」
「ウチはイブに抱えられてただけ、悔しいけどなんもできなかったわ……」
「イブちょっと筋肉着いた!」
「爆豪、筋トレもやらせてるもんね」
「かっちゃんのおかげ〜!」
「ほんと見かけによらず教育熱心だよね、爆豪」

その後通形の個性の答え合わせと、その個性を強くするために行ったこと、そしてインターンの経験の重要性を身をもって教えてくれた。インターンは職場体験と違って一人のサイドキックとして扱われる。時には人の死にも立ち合う。怖い思いも辛い思いもする。けれどこれらは学校じゃ手に入らない一線級の経験なのだ。
プロを目指し、プロとして活動しようと思うならやるべきだというのもよくわかった。

イブも真剣に考える。お勉強は大変。インターンをしたらさらに時間がなくなるだろう。けれどその経験は何にも代えがたい。イブは謹慎明けの爆豪に相談してみようと決めるのだった。


戻る top