思ってたのと違う


――思ってたのと違う。

てっきりイブは職場体験と同じようについてこれるものならついておいでみたいな感じだと思っていた。けれど予想に反してホークスはわりと甲斐甲斐しくイブに接した。本人曰く「羽落とされたって聞いて心配してたんだけど、まさか俺と同じ羽とわね! いやぁ、そんなに慕われてたとは思わなかったなぁ……!」とデレたのだ。
鳥仲間同士翼をはためかせ、イブに速く駆けるための飛び方を教えてくれた上に、おやつにはあまおうという福岡県産の美味しい苺を出してくれた。正直至れり尽くせりであったが、常闇に関しては職場体験と変わりなく、イブはそれがずっと気がかりだった。


「ねぇ、ホークス。とこやみくんとダークシャドウにも教えてくれないの?」
「うーん、来たいっていうから受け入れただけだし。俺、後進育成とか興味ないんだよね」
「え……?」
「君とはちょっと事情・・が違ってね。君は俺が招いたお客さん。で、あの子たちは俺が受け入れてあげたって感じかな」
「わかんない……でもイブだけなんか……」
「あはは。居心地悪い? そりゃそうか。特別扱い・・・・だもんね」
「それしってる。よくないんだよ。ホークスそれダメなんだよ……」
「そうかな? 俺は別にいいと思うけど。でもま、これで常闇くんと仲悪くなるのも嫌だよね。大丈夫、割とすぐ解決するよ」
「……?」

実際のところ常闇は大層出来た人間だったのでイブに冷たい態度をとったとかはなかった、ただホークスが割とイブにべったりなのであまり接触がなかった。それは常闇よりずいぶん素直な黒影が不満を漏らすのを聞く機会もなかったため、幸か不幸か判断しかねた。
鳥仲間。それは羽のあるイブだけでなく常闇も示す言葉。空を駆けれる者と駆けれない者の差。けれど常闇の諦めない心がホークスの心を動かし、同じように空を駆けれる鳥仲間になるのはすぐそこの話だった。







「わー!! すごいっ! すごいよとこやみくん! ダークシャドウ! 飛んでるー!!」
「ホークスが教授してくれた。俺もこれで飛べる鳥仲間だ」
「うん! うん!!」

にこにこと嬉しそうに一緒に空を駆けるイブに、黒影がおずおずとしおらしい様子で話しかけてきた。


「ゴメンイブ……俺、オマエに嫉妬してた……」
「え?」
「フミカゲも頑張ってるのに、オマエばっかりホークスに優遇されて……ムカついてた、オマエのせいじゃないのに……ゴメン」
「そんなのいいよ……! だってそれ当たり前の気持ちだもん、イブも逆だったら面白くなかったよ……!」
「でもオマエ俺たちのことホークスに言ってくれてたんだろ……なのに……オレ、裏切られたみたいに思って……ごめんなぁ……!」
「いいんだよダークシャドォ……!」

二人そろってぽろぽろ泣くものだから常闇がぎょっとした。
ホークスが常闇に教えを説いた夜、ホークスは常闇の反応がみたくてわざとやったとなんでもない風に零した。でも予想に反して常闇は黒影を諭し、イブだけでもちゃんと教えを施されているのを見て安心していたのだから驚いたとも。「君たちの絆は深いね。あの子が懐くわけだ」といったホークスに前々から感じていた「知り合いなのか?」と聞くと「昔のね。でもあの子は覚えてないよ。昔のことほとんど忘れてるから」と口にする姿が印象的だった。なぜかほっとしたような、晴れ晴れしいそれに常闇は深くは聞くまいと心にしまったのだった。


「まぁ、何はともあれ。これで俺もお前たちに追いつける。共に空を駆ける天空の覇者となろう」
「なるー!!」
「オウヨッ!」

その後二人は新技も生み出すことに成功した。
常闇の黒の堕天使に影響され、イブも元々は天使だったのだから堕天使っぽいことができないかと模索した結果、イブもそれっぽい技を生み出すことに成功したのだった。







「みてみてホークス! 見ててね!」
「うんうん、見てる見てる」
「じゃーんっ! 黒夜こくやの天使!!」
「!! 驚いた。こりゃすごか……色変わっとるばい」
「スゴイだろ! オレたちで生み出したんだ!」
「名づけは俺がした」
「あーやっぱり。常闇くんっぽいもんな。にしても成長したねぇ……俺が教えるよりパワーアップしてから。なんか悔しか。ってね、冗談だよ」
「んー? ホークスのおかげだよ。常闇くんたちに飛べるってホークスが教えてくれて、そこから生まれた黒の堕天使に影響されてできた技だもん! えへへ、なんだかイブたち弟子っぽいね!!」
「弟子……」
「左様。あなたは俺たちのせんせいだろう。ホークス」
「……そうか、そうだなぁ……師か……」

ホークスはなんとも言えない気持ちになった。純粋に慕ってくれる常闇とイブが眩しい。イブに至っては公安から命令されてインターンに来るよう仕向けたし、インターン中もデータをとっていた。
それでも真っ直ぐ慕ってくれる、羽も再構築するにあたり自分をモデルにしたというのだからなおさら。信頼を裏切っている。けれどホークスの中に二人を大事に思う気持ちもちゃんと育っていた。

空が青い。飛ぶには絶好のお散歩日和である。4人で駆ける空は今日もホークスの手で平和に満ちていた。


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