学級委員長を決めましょー


登校早々、イブはマスコミに捕まってしまっていた。オールマイトについて聞きたかったようだが、イブが天使の個性を持っているとわかるとその話を聞く方向にチェンジしてしまったのだ。


「あなたの個性は天使エンジェルよね!? 超希少個性の子が15年前生まれたって話題になったけどあなたのことだったのね!」
「え……それは……ちょっとわかんな――」
「もしかしてオールマイトが今年から雄英の教師になったのはあなたの存在があったからかしら!?」

あまりの勢いにしどろもどろになってしまっていた。物凄く圧が強い。逃げ出したいがすっかり囲まれてしまっていた。逃げたくても逃げられないイブがとうとう泣きだそうとしてしまったとき、救世主が現れた。


「おいどけや! 邪魔なんだよ!!」
「あっちょっと! 君もヒーロー科ね! オールマイトについて話を!」
「どけマスゴミ!!」
「すごく口悪いわね!? あれ……って君「ヘドロ」の!」
「やめろ!!」

マスコミの中心にいたイブを見るとちっ、と舌打ちをしてずんずん進んでいく。爆豪が放つ拒絶の圧力に道が開けていく。イブがぼーっとみてると爆豪が立ち止まり、苛立たし気にイブを振り返って「おい羽っ子遅刻しても俺ァ知らねぇかンな!!」と言うと再び歩き出した。イブははっとして追いかける。


「かっちゃんイブのこと助けてくれたの……?」
「あ゛!? 誰がかっちゃんだ! 別に助けてねぇ! お前が邪魔なとこいただけだわ!」
「イブ困ってたんだ。助けてくれてありがとうかっちゃん、かっちゃん怖い人だと思ってたけど、優しいんだね。ちゃんとヒーローだぁ」

ぽやっとしたイブの笑顔に爆豪は何とも言えなくなった。イブを助けたのはたまたま通行の邪魔だったのもあるが、爆豪もヘドロの件でマスコミには辟易としたこともある。イブが個性のことであれこれ嗅ぎまわられて、泣きそうになっているのが少し哀れだと感じただけだった。


「かっちゃん何が好き? イブねいちごとピクニックが好き。天気のいいところでご飯食べるの美味しいの」
「かっちゃんやめろ。あと馴れ馴れしく話しかけてくんな」
「かっちゃんはかっちゃんだよ。クラスメイトなんだから仲良くしようよ。イブみんなとお友達になりたいんだぁ」
「ああ! もううっせぇ!」

イブはクリーム脳である。学習能力が低いというか、切り替えが早いのだ。昨日まであれほど恐れていた爆豪だというのに、ちょっと助けてもらっただけでこの懐きようだった。
小さい子供が懐いてくるかのような感覚に爆豪は身に覚えがあった。爆豪なぜか小さい子供に懐かれやすいのだ。おそらく精神年齢的な問題であった。







「学級委員長かぁ……イブはいーや。そんなに頭良くないし、みんなをまとめるなんて無理だなぁ」

学級委員長決めでみんなが立候補する中、イブは大変後ろ向きだった。自分のことをよく理解している。入学してからも授業のレベルについていけていないイブは毎日勉強漬けでそれどころではないのだった。
飯田の提案で多数決を取ることになり、イブは大変迷った末飯田に入れることにした。八百万と迷ったのだが飯田はイブに一番最初にわかるまでものを教えてくれた人だった。あの緑谷の蔑称の件である。そうしていざ開示すると飯田にはイブの一票しか入っておらず、緑谷が三票獲得し委員長に。八百万が二票で副委員長になった。


「いざ委員長やるとなると務まるか不安だよ……」
「ツトマル」
「大丈夫さ。緑谷くんのここぞという時の胆力や判断力は多≠牽引するに値する。だから君に投票したのだ」
「でも飯田くんも委員長やりたかったんじゃないの? メガネだし!」
「やりたい≠ニ相応しいか否かは別の話……俺は俺の正しいという判断をしたまでだ。だかしかし、俺に一票をいれてくれた人には申し訳ないことをした……」
「あ、それね。イブだよ入れたの」
「なんと! 君だったのか……! しかしなぜ俺に」
「んーとね、イブあんまり頭良くなくて、難しい言葉とか全然わかんなくて、いっぱい聞いちゃうんだけど……いーだくんがここで最初にイブに教えてくれたんだよ。だから嬉しくて……イブはそういう人にやってもらいたいなって思ったの」
「イブくん……! 期待に応えられずすまない。だがいつでも聞いてくれ。委員長ではなくとも僕は君の力になると約束しよう」
「ありがとー!」

そこで緑谷と麗日が僕という飯田の一人称に反応した。飯田が坊ちゃんなのかと切り込んだ麗日に、実はヒーロー一家の息子なのだと話してくれた。中でも兄であるインゲニウムを語る飯田はとても生き生きとしていて、心の底から尊敬しているのが伝わってきた。
その瞬間警報が鳴る。セキュリティ3が突破されたというアナウンスに食堂がパニックになり、人が雪崩のように出入口へと押しかけた。それにイブも流され押しつぶされてしまう。


「ふぇええっ痛いよぉっ」
「イブ!? 待ってろ今行くから!!」
「ちょっと切島無理あるって! 俺らも身動きとれねぇ!」

羽が押しつぶされて飛ぶこともできない。むしろ痛くてたまらない。切島がイブが押しつぶされているのを見て駆け寄ろうとするが人混みがそれを許さない。それは上鳴も同様で危険な状態と言えた。正直将棋倒しの危険性がある。
その瞬間、飯田が非常口のポーズをして出入口の扉の上へ立った。


「皆さん……大丈ーーーー夫!! ただのマスコミです! 何もパニックになることはありません大丈ー夫!! ここは雄英!! 最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!!」

飯田の言葉を聞いて押し合いがやんだ。イブも解放され、あたりは落ち着きを取り戻していくのだった。








「ホラ委員長始めて」
「でっでは他の委員決めを執り行って参ります! ……けどその前にいいですか! 委員長はやっぱり飯田くんが良いと……思います! あんな風にかっこよく人をまとめられるんだ。僕は……飯田くんがやるのが正しい・・・と思うよ」
「あ! 良いんじゃね!! 飯田食堂で超活躍してたし!! 緑谷でも別にいいけどさ!」
「非常口の標識みてぇになってたよな」
「委員長の指名ならば仕方あるまい!!」
「任せたぜ非常口!!」
「非常口飯田!! しっかりやれよー!!」

委員長はこうして飯田に代わった。けれどこれがただのマスコミが起こした騒動ではなかったと知るのは……そう遠くない日であった。


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