代償


イブはホークスが手配してくれたホテルで用意してもらった苺のケーキに舌鼓を打ちながら夜を過ごした。とんでもなく悪いことをした気分になった。ホークスはたまには悪いことをしてもいいと笑ってくれたけれど、爆豪がもしこれを知ったら「こんな時間に甘ぇもん食ってんじゃねえ!!」と怒るだろうと思い、ホークスに内緒にしてねというとそれはもう笑われた。
脳内で爆豪が「ちゃんと歯ぁ磨けよ!!」と爆ギレしていたのでちゃんと念入りに磨いた。

朝を迎えるとホークスが「あまり馴染みがないだろうから」といろんなところに連れて行ってくれた。水族館に遊園地、動物園にショッピングモール。一気に周ったため疲れたが、ものすごく充実していた「あんなに楽しいのがあるなんてしらなかったぁ〜!」というと、ホークスは「また来よう。今度は常闇くんも連れて」と笑った。

その次の日の朝、ホークスは再び抱えて雄英まで送ってくれた。福岡から病院まで来た時と違い、速くはあるものの十分楽しいと感じるくらいに調節されていたためイブも大はしゃぎしたのだった。


「それじゃイブちゃん。お疲れ様。今回のでインターンは中止になると思うけど、再開されたらまた常闇くんとおいで」
「うん! 一緒にいくー! ホークスまたねー!」
「うん。またね」

ホークスが飛んでいくのを見てイブも学校の中に入る。寮へ帰ると常闇が真っ先に駆けつけてきてくれた。


「イブ、帰ったのか」
「ただいまー! あれ、これどうしたの!? いちごがいっぱい!」
「それは――」
「イブちゃんおかえり! もう大丈夫なの!? 昨日あんなにぐったりしてたから……!」
「デクくんたちもただいま! ちょっと疲れてただけでなんともないんだよ。ホークスがご褒美くれたの! 苺のケーキいっぱい食べちゃった! ……あ、これかっちゃんに内緒にしててね、イブ遅くまで食べて――」
「だーれに内緒だってぇええ?」
「ぴゃ!! でたー!!」
「何が出ただ!! おまえ遅くまでって言ったよなぁ? 俺いつも言ってんだろ20時以降は甘ぇもん禁止だって!」
「だってぇええ! 美味しそうだったんだもんんん」
「おい爆豪その辺で……! 今回イブお手柄だったんだ。だからほら、これ……」
「ケッ」
「? このいちごイブと関係ある……?」
「ナイトアイ事務所からだよ。イブちゃんの好きなもの聞かれて……いちごって言ったらこんなに……」
「!! じゃあこれイブに!?」
「うん、イブちゃんのだよ」

苺のパックがたくさん入ったダンボールがこれまたたくさんあった。それらがすべてイブのだという。正直夢みたいだった。嬉しくてくるくる飛び回るとまたしても「室内で飛ぶなって言ってんだろうが!!」と爆豪にキレられた。


「でも苺のケーキたくさん食べたなら被ったね……」
「そうね。それにこんなにたくさん……消費するより先に腐らないか心配だわ」
「? なんで? みんなで食べたらすぐだよ! さとーくんにお願いしていちごパーティーしようよ!」
「ええ!? 俺らクラス全員で食べたらほんとにすぐだぞ!? いいのかよ、イブいちご好きだろー?」
「みんなで食べたらもっとおいしいよ。イブ寮になってね、ランチラッシュのご飯は前からおいしいけど、みんなで食べると前よりもっとおいしいって思うもん! このいちごもそうだよ。みんなで食べよー!」
「イブちゃん……ええこや……!」
「私ちょっと妹たちを思い出しちゃったわ」
「そうだろう、俺の妹は心根の優しい奴だ」
「え、そこまた増えたん。パパの次はお兄ちゃんかぁ……広がるね」
「おい麗日。そのパパっての俺じゃねぇだろうな……?」
「あ、あはは……いやでもそんな感じやん!?」
「開き直りかクソが!!」

そんなこんなで砂藤の協力を無事に得ることができ、八百万もせっかくだからと苺をブレンドした紅茶を淹れてくれるという。まさに苺尽くしである。
たくさん苺があるおかげでいつものケーキより贅沢に苺を重ねたり、いちごミルクやストロベリーアイスやらと実にバラエティ豊かであった。







「それじゃあ、いっただっきまーす!」
「ふぁああ……! おいしい! さとーくんのケーキが一番おいしい!」
「ホークスにいいとこのケーキ買ってもらったんだろ? さすがにそれには負けるぜ」
「えー? イブさとーくんのケーキのが好きだよ。ホークスにもどれが一番おいしいって聞かれたから、さとーくんのっていったもん!」
「イブ……!! 俺これからももっと美味しいケーキ作れるように精進するわ……!!」
「しょーじん?」
「一生懸命がんばるってことさ」
「おー! がんばってさとーくん! 応援してる!」
「おう!」

砂藤の作るお菓子は絶品である。あっという間に消費してしまう。甘いものが好きじゃない爆豪もイブが頑張ったということもあってか参加していた。参加していたというか、参加させられた。切島とイブによって。それでもまぁ、さすがプロのお礼というだけあってか、最高級品である。素直にうまかった。
そして週末の仮免の補講について切島が話を振ったとき、異変が起きた。


「補講? かっちゃん何かあるの?」
「あ? 仮免のだろ」
「仮免……なんで? かっちゃん補講……?」
「イブどうした?」
「(……ホークスの危惧していた通りになったということか)イブ。落ち着いて聞け。お前は少し頑張りすぎて記憶が曖昧になっているんだ。爆豪と轟は仮免試験で色々あってな……補講を受けて仮免を取ることになったんだ」
「そうなの? じゃあかっちゃんととどろきくんには週末会えない……?」
「全く会えないわけじゃないが、補講の時間は別行動だな。相澤先生が送り迎えしているんだ」
「そうなんだ……じゃあちょっと寂しいねぇ」
「そうだな。寂しいな」

常闇とのやりとりで周りも大体のことを察した。ナイトアイは正直絶望的な状態だった。それを回復させるという奇跡を起こしたのである。その代償は今までのお願いより大きいことは明白で、でも今まで無事だった思い出に影響が出たというのは少し衝撃だった。
その後しゅんとしてしまったイブを元気づけようと、あとで一緒に空を飛ぼうというと「とこやみくん飛べるの?」とまた返ってきたので、常闇と黒影は少し寂しい気持ちを感じながらも、それならばまた思い出を作り直そうと行動した。黒の堕天使と黒夜の天使。忘れてしまったのならまた重ねればいいのだ。

常闇のその姿勢は1年A組にも影響を与え、変に悲観せず、勉強と同じで忘れてしまったのならまた作ればいいと前向きな姿勢に変えるのであった。
可愛いもの好きでイブとも比較的趣味の合う葉隠がデザインした図鑑のように分厚い日記帳を八百万が創造で創る。世界に一冊だけのその日記帳をイブの日記帳にしようと提案した。イブはこれを大層喜び、いつでも振り返られるように覚えている限りの古い記憶から書き出していった。
幸いにもイブに火伊那お姉ちゃんの記憶はあったらしい。所々忘れているところはみんなの記憶を頼りにしながら書き足していった。この日記帳がイブの宝物になったことは想像に容易かった。


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