ミスコンなんて聞いてないよ


いちごパーティーが開かれる数時間前、イブの出迎えをすると爆豪は轟と一緒に仮免補講に行った。イブは爆豪と轟が制服姿でどこかに行くのを不思議がっていたが、インターンというものに自分も行っているのだから、2人ともてっきりそうだと思い込んでいたのであった。

爆豪と轟たち補講組、それも士傑の夜嵐と現見を合わせた4人は問題児と思われており、4人だけ別の課題が与えられたのであった。市立間瀬垣小学校の悪ガキどもの更生である。


「爆豪、おまえこういうの得意じゃないか?」
「あ゛!? んで俺が!?」
「だっておまえイブに一番懐かれてるだろ。一番子供に近い感性持ってるイブに懐かれてんなら得意だろ」
「あいつとこいつら一緒くたにしてんじゃねぇよ……!! あいつは特殊ケースだわ!!」
「そうなのか……」
「爆豪はイブと仲がいいのか! いい子だよな、そういえばあの子羽が復活したらしいな! 肉倉先輩が無茶苦茶絶賛してたぞ!」
「ああ゛!? 肉ぅ!!?」

そう、まさかの肉倉、改心していた。改心というか改宗に近いかもしれない。
土壇場で羽化したイブの輝きに浄化されていた。散々爆豪とイブを扱き下ろしておきながら、羽を取り戻したイブの眩い光にすっかりあてられていたのだった。実に流されやすい。


「あいつは何でこうめんどくせぇの惹きつけんのか……!!」
「イブってあの天廻イブ? マジ見たかったんですけどー、体育祭で見てから実物見るの楽しみだったんだよねぇ〜、イケメンも美少女もマジ眼福って感じ」
「あ……? びしょうじょぉ……?」

爆豪にとってイブは手のかかるペット……とはちょっと違うが似たようなものである。イブの容姿が褒められることはちょくちょくあったが、A組は総じて贔屓目があるというもの。だが部外者からこうもストレートに美少女と言われるとピンとこなかった。
爆豪の苦虫を嚙み潰したような顔に現見が呆れた。曰く天廻イブでも美少女認定しないとか爆豪人類みんな同じ顔に見えてるんじゃねといった感じであった。
現見の言ってる言葉は独特すぎるが軽くディスられたことだけはしっかり伝わった。しっかりキレた。







「わー! たのしそー! 全部たのしそー! イブ全部やるー!!」
「さすがに全部は難しいな。だが候補を絞って同時にできそうなものを合わせればイブくんの希望は叶うか……?」
「その件だが天廻。おまえに参加資格はないぞ」
「!? なんで!!?」
「相澤先生!? そんな! イブさんだけ参加できないとはどういう……!?」
「天廻には――これに出てもらう」
「ミ、ミスコンきたああああああ!!!」
「?? なにそれ」

文化祭の出し物決めをしている最中、まさかのイブに参加権がなかった。相澤がぴらっと出した紙にはミスコンの案内なるものが書いてあった。
それを見た瞬間峰田が大興奮だった。クラスメイトも騒ぎ出し、当事者のイブは何が何だかわからなかった。


「ねぇ、ミスコンってなに? イブなにするの?」
「いいか! ミスコンってのはなぁ……!! 己の美しさを競い合う女の聖戦!! ここでグランプリに輝いた者が栄光を掴むんだーー!!」
「競い合う……? え、イブ戦うの!?」
「あんま物騒なもんじゃねぇけどな。平たく言うと自分の可愛さとかをアピールして観客に投票してもらうんだよ」
「観客……目立つ……?」
「そりゃあもう……!!」
「あ、ばかっ」
「……イブ、出ない」
「ええ!? なんでだよおお!?」
「ばっかもう……イブは目立つの嫌いなんだからそう言いだすに決まってんじゃん……」

耳郎の言うとおりである。峰田と上鳴の説明でさらにやる気をなくしたイブが「あいざわせんせー、イブでたくない」という。けれど相澤は静かに諭した。


「プロになったら今以上に注目を浴びることになる。天廻、おまえは今からそれに慣れておかなきゃならない」
「うう……」
「目立たないのはおまえには無理だ。どうしたって注目を浴びる。だったらそれすら力に変えてみせろ」
「力に……?」
「ラグドールが暴いてくれた個性の性質の一つに、強い願いが形になるってあっただろう。それはなにもお前だけの意志に反映されるわけじゃない。おまえに魅せられた者たちの願いが、気持ちがさらにおまえの力になる」
「(合宿んときに信仰集まったって言ったのあながち間違いじゃなかったんだなぁ)」
「もっと、強くなるため……?」
「まぁそうだ。どうしても出たくないってんなら強制はしない。けど得られるものは多いと思うよ。どうする?」
「…………やる」
「おおおおお!! それでこそだぜーー!!! イブが出んなら歴史に残るミスコンになるぜーー!! ぎゃっ!!」
「プレッシャーかけんな!!」

耳郎のイヤホンジャックが火を噴いた。
出し物決めはまだ決まらなかったが、イブのミスコン出場は決まった。付添人がいるというがまだ出し物を何に阿するか決まっていないため、決まり次第大丈夫そうな女子がなってくれるとのことだった。


戻る top