やるからには優勝を


クラスの出し物は轟の発言が決定打となり生演奏とダンスでパリピ空間の提供、つまりバンドとダンスをやることになった。イブはみんなが役割を決める傍ら、共有スペースで勉強をしながら聞いていた。
肝心のバンドのメンバー決めになったとき、バンドの骨子のドラムについての話になった。爆豪が昔、音楽教室に行かされていたときいていた上鳴がそれを口に出し、瀬呂がかなり難しいぞと焚きつけた。


「か……完ペキ」
「すげェ」
「才能マンキタコレ」
「かっちゃんすごーい! てんさい!」
「爆豪ドラム決定だな!」
「あ? ……そんな下らねーことやんねェよ俺ァ」

爆豪がやってくれたら必ずいいものになるという耳郎の言葉にも、「なるハズねェだろ!」と返す。他科のストレス発散みたいなお題目で、ストレスの原因にされている自分たちがやったところで、ムカツクやつから素直に受け取るはずがないというのは確かに一理あった。


「ムカツクだろうが。俺たちだって好きで敵に転がされてんじゃねェ……!!」
「……」
「なンでこっちが顔色伺わなきゃなんねェ!! てめェらご機嫌取りのつもりならやめちまえ。殴るンだよ……! 馴れ合いじゃなく殴り合い……!! やるならガチで――雄英全員音で殺るぞ!!」
「バァクゴォオオ!!」

イブがぽかーんとしていると爆豪がわしわしとイブの頭を乱暴に撫でた。


「かっちゃぁ……?」
「おまえも! やるからには優勝しろ!! 完膚なきまでの1位とってこい!!」
「わわわっ」
「ガチでやれガチで!! 圧倒的なもん見せつけてやンだよ!!」
「あ、あっとうてきぃ〜?」
「ウチの看板背負うンだから当たり前だろーが! 俺がゴーサイン出すまで構成練らせるからなァ……!!」
「!! かっちゃんがみてくれるの?」
「当たりめェの事聞いてンな!」
「そっか〜!」

にこにこしだしたイブにみんながよかったなぁという面持ちだった。
文化祭自体の参加も初めてあるのに、自分だけクラスの出し物に参加できないというのは疎外感のようなものがあり、仲間外れのような気持ちだったのだ。
けれど爆豪がみてくれるというし、とっても安心したのであった。

その後、バンドのメンバーはスムーズに決まった。
幼少の頃からピアノを嗜んでいた八百万がキーボード。ベース兼ボーカルの耳郎。やりたいと強く主張した上鳴と、Fコードで一度手放したという常闇。そしてドラムの爆豪と決まった。
演出隊やダンス隊も決まり、それでイブの付添人も葉隠に決まるのだった。
麗日と蛙吹はインターンの補習があるし、芦戸はダンス指導。八百万と耳郎はバンドということで自然と葉隠に決まった。


「とーるちゃんよろしくねー!」
「任せて! イブちゃんを優勝に導いちゃう!!」

そうして文化祭に向けて各々練習に励んでいった。
イブは葉隠とドレスのデザインや演出について話合いながら時に爆豪に叱咤され、乱暴なアドバイスを受け修正するなどしていた。







「やっぱイブも歌うことにしたんだー!」
「うんうん、イブお歌が一番得意だし……」
「イブがミスコン出てなかったら絶対ボーカルに欲しかったもん。良いと思うよ」
「ありがとー!」
「ふふ、あのね。実はイブちゃんみんなと少しでも同じことしたくて歌うって言い出したんだよ。可愛いよねぇ」
「ととと、とーるちゃんっ」
「まぁイブさんそんな風に思ってましたの? 私たち同じことを考えていたのですね……」
「? 同じこと……?」

女子たちが頷いて、蛙吹と麗日、芦戸がそばにあった紙袋から服を取り出した。一つはオレンジのTシャツ。Aと大きくプリントされている。二つ目はオレンジのワンピース。ちょっとファンシー。最後に出てきたのはオレンジのドレス。シフォンのワンピースに大きなお花とリボンがついていた。


「かっかわいい! なになに? これみんな着るの?」
「そうだけど、このドレスはイブちゃんの! 一緒に出し物はできないけど、心はいつも一緒! ってイブちゃん!? な、泣いとる!?」
「う、うえーんっ……お、おそろい〜!」
「私たち何かイブちゃんにできないかしらって透ちゃんからドレスのデザインの事きいて準備してたの。気に入ってくれたかしら?」
「す、すっごく……! イブこれ着て優勝するよ、絶対……!」
「やる気や!」
「その意気ですわ!」
「頑張ろうねイブちゃんっ!」

闘志を燃やして優勝を誓うイブであった。おそろいのオレンジはなんだかみんなと一緒にいる気分になる。ミスコンでのアピールタイムは一人でやるものだけれど、このドレスなら頑張れる気がした。







「それでねー、イブのドレスとってもかわいいんだよー!」
「そーかよ。おら、大人しくしろ。やりにきぃだろーが」
「はーいっ」

共有スペースに珍しく爆豪がいるのを見つけたイブは今日のブラッシングの相手に爆豪を選んだのだった。文句を言いつつもやってくれるのはミスコンに合わせて羽艶をよくするためである。オイルを塗ったりとそれはもう甲斐甲斐しかった。
何やら髪が引っ張られるような感覚があるが、気にせずおしゃべりを続けていた。返事はあまり返ってこなかったが、イブはドレスをもらったことで大変興奮していたためあまり気にしていなかった。


「っし、出来たぞ」
「もう終わり? イブまだしてもらいたい気分」
「あんまやると羽痛めんだろーが」
「はーい……んんっ! ……ん? なに? なんか……頭にある?」
「部屋戻って鏡見たら外して寝ろ」
「んー? わかったー!」
「俺はもう寝る。起こしに来ンなよ」
「? はーい」

爆豪の起こしにくんなの意味を知ったのは部屋で鏡をみてからだった。すれ違うクラスメイトたちが「よかったな」とか「お、似合うじゃん!」とか言ってくるのがよくわからなかったが、すべてを理解した。
髪飾りがある。天使の羽を模したかわいい髪飾り。思わず「かっちゃあああんっ!」と爆豪の部屋まで突撃した。当然「起こしに来ンなって言っただろーが!!」とキレられたのだった。


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