髪飾りが奪われた!?


「あれ? ものまくんだー!」
「!? 君っ……」

落ち着かなくてドレスにだけ着替え、髪は綺麗な状態で見せれるように直前に葉隠が整えてくれるとのことで髪飾りを控室に置いて、イブは1年B組のミスコン準備室にお邪魔していた。
お互い落ち着かないから話でもして気を紛らわせようと拳藤が提案してくれたのだった。
そこに物間と泡瀬、鉄哲が現れたのだった。だがイブを見た瞬間、物間は顔を赤くして何もしゃべらなくなってしまった。


「おー! 天廻も似合ってんなー!」
「そういやA組揃ってオレンジの衣装だったわ。おそろいなんだな」
「そうなのそうなの! みんながこれ作ってくれたんだー!」

くるりと可憐に回るイブに「いや可愛いわぁ」「うん」と素直に感想を口にする二人とは逆に物間は口をぱくぱくと開けるだけで言葉を発することは叶わなかった。
それを泡瀬が仕方ないなとばかりに腕で小突き「なんか言ってやれよ」と小声で口にした。物間はごくりと息をのむと口を開いた。


「その……馬子にも衣裳ってやつだね! ぐはっ」
「いや、そりゃないだろ」

拳藤の手刀が炸裂した。合宿での女子会の一件から拳藤は全面的にイブの味方だった。


「まごにもいしょうってなに?」
「んーと……物間のはな、ものすごく可愛いよってことなんだ。こいつ素直じゃないからさ、うまく口に出せないんだよ。まったく困ったやつだよなぁ……!」
「イブ、かわいい……?」
「聞くまでもなく可愛いよ。ほんとに可愛い」
「……一佳、この子好きだよね……」

目が真剣だった。イブは照れた様子で「ありがとう」とはにかむ。それにまた拳藤は可愛いと内心で思うのだった。物間は拳藤の手刀から復活したものの、拳藤が男じゃなくてよかったと心底思うのだった。どんなつもりかは知らないがああもストレートに可愛いと言われては強力なライバルである……まぁ、まず物間は認めることからだが。

そうしてB組が帰ってしばらくした後、事件が起きた。







「わーんっ! ないよぉ……!」
「ええ!? ここに置いてたのに!?」
「……どうしたの? なんか騒いでるみたいだけど」
「いつかちゃん! ないの! イブの髪飾りがなくなっちゃったああああ!!」
「ええ!?」

わんわん泣き出すイブに葉隠が慰めるように頭を撫でるが、あまりのショックにイブの涙はとまらなかった。葉隠が代わりに状況を説明すると、拳藤も柳も一緒に探してくれると言う。


「髪飾りってまだ備品あるけどさ、それじゃないとだめなんだろ?」
「だめだよ! だってこれ……かっちゃんがくれた大事な髪飾りなんだもんんっ」
「爆豪が? どういう関係?」
「爆豪くんイブちゃんのパパなんだよ。物凄く教育熱心なの」
「爆豪がパパとか教育熱心とか想像つかないんだけど……」
「意外だよね。でもイブちゃんが一番懐いてるの爆豪くんなんだよ」
「ええ……ま、それはそうとそんな大事なものならなおさら見つけないとな。手分けして探そう」

そうして探していくうちに、なんと波動のハイヒールに釘が入っていたり、絢爛崎のジュエリーもなくなっていた。
柳がぽつりとミスコンによくあるいやがらせみたいだと呟いた。
拳藤も思わずそれで色々考えて、物間がもしかして応援として嫌がらせを行った可能性を考えてしまった。けれどそれはイブの髪飾りがなくなっている時点でそれはないな――好きな子が傷つくとわかっててやるようなやつではないので――と思いつつ、いやでもあれは爆豪から贈られたものだったなと思い、もしかして嫉妬でやったのではないかとほんの少し疑ってしまったのだった。

その後発目もやってきて発目も作ったリモコンが見当たらないと探していた。そうして事情を知った者たちが一緒に各々の探し物を探すのだった。







「あ! イブの髪飾り!」
「あれです!! 私のベイビーリモコン!!」
「私のジュエリーも!!」

探し物は見つかった。なんとカラスが持って行っていたのだった。
どれも確かにきらきらしている。イブの天使の羽を模した髪飾りもキラキラと光沢のあるものだったから狙われたのだろう。天喰が最初は頑張ってくれたが、至近距離で見るカラスが恐ろしくだめだった。
波動が代わりに全部回収したのだが、カラスもよっぽど気に入ったようで奪われまいとすさまじい抵抗だった。やがて仲間も集まり、ピンチに陥ったところ、絢爛崎がミスコンでお披露目するはずだった装甲車を使い見事場を収めてくれた。


「わー!! センパイ! みんなありがとおお!」
「あらイブ、涙をお拭きなさい。せっかくの麗しのかんばせが台無しですよ」
「びびみセンパイー!」
「ちゃんと先輩と言えるようになったのは偉くてよ。特別に私が涙を拭いて差し上げましょうね」
「んんんっ」

無事にイブの手に髪飾りが戻ってきた。
拳藤は物間をわずかに疑ったことを申し訳なく思いながら、それでもカラスとの格闘で裂けたドレスと先輩方の勇姿から自分がアピールすべきポイントを今一度見直すのだった。
波動のハイヒールに入っていた釘もこれは発目が絢爛崎に自分が来たとわかるように印のつもりでおいていったものらしく、ただ部屋を間違えたために誤解を与えてしまったのだった。

ミスコンにありそうな嫌がらせなどどこにもなかったのだ。ここにいたのは時間が迫る中後輩の為に立ち上がってくれた先輩と、先輩のジュエリーとイブの髪飾りを共に探してくれた優しい人たちだけだったのだ。
イブはカラスとの格闘で傷を負ったみんなの治癒をした。


「さ、あまり時間もありません。お化粧を直して、髪飾りをつけてもらって準備をなさいね」
「はーいっ!」
「治してくれてありがとう。おかげで私の可愛い後輩が行き倒れずにすみましたわ」
「いやぁお恥ずかしい。徹夜続きだったので正直やばかったです! 助かりました!」
「えへへ、どーいたしまして!」

真っ黒な発目を見た時は驚いたが、何日も寝てないのだと言う。あとお風呂にも入っていなかった。正直綺麗好きなイブにとっては別世界のようだったが、いかにもパワフルである。まぁそれはそれとして疲労はどうにかできても黒いのはイブにはどうしようもない。
絢爛崎がお風呂には入りなさいと口を酸っぱくいうのをくすりと聞いていた。なんだか爆豪を思い出したのであった。


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