響け!天使の歌声!


「あわわわわ、もうすぐ出番になってしまう……!!」
「わー! イブちゃんド緊張だね!!」

A組のAバンドも終わった頃だろう。イブは迫る順番にガチガチに緊張していた。
葉隠はあまりのイブの緊張具合に笑ってしまうほどだったが、丁寧に髪飾りをつけて声をかけた。


「大丈夫だよ、みんないる。うちには峰田くんもいるからさ、きっといい席取ってるよー」
「……うん」

みんながいる、それはイブにとって魔法の言葉だった。そして実際ミスコンを目当てに覚醒した峰田主導の下片付けは順調に行われ、A組はそろっていい席を取ることができたのだった。
落ち着いたイブに葉隠は「ハイ笑ってー!」と写真をとる。


「うん! 一番かわいい!! 優勝間違いなしだよ! 自信もって練習通りにね!」
「うんっ! 練習通りに!」
「爆豪くんがゴーサイン出したんだから絶対大丈夫!」
「かっちゃん! 絶対大丈夫!」
「あはは、混じってるかわいい〜!」

そんなやり取りを続けているとイブの番がやってくるのだった。







『さぁさぁ! お次は優勝最有力候補!! 彼女を目当てに見に来た方も多いのでは!? 1年A組! 天廻イブの登場です!!』
「随分持ち上げるじゃねぇか」
「いやそーでもないぞ? イブ、他所じゃすげぇ人気だし……ほら!」

響き渡るイブコールに爆豪はマジかといった顔をした。爆豪にとってはイブは良くも悪くもガキでしかないのだ。常闇もイブの縁戚のよしみとしてとかなんとかで爆豪の隣に来ていた。爆豪は依然親ではないと認めていなかったがそんなものはA組では流されるのである。

そうしておそろいのオレンジのドレスを身に纏い、爆豪が贈った天使の羽を模した髪飾りをつけ、登場したイブが天を舞った。


「……いい声だ」
「綺麗……」
「なんだかとても胸に響く……」
「天使の歌声……」

響き渡る歌声に観客の心は引き込まれていた。観客の中には涙するものさえおり、まさに圧巻だった。


『ブ、ブラボー!! まさに天使の歌声!! 会場中が魅了されました!! 天廻イブに拍手を!!』
「え、えへへ……! ありがとー!!」

アピールが終わるとイブも目立っていることに対して緊張を見せたが、最後まで笑顔で会場に立つことができた。
その後投票時間となり、発表は文化祭が終わる直前に行われるとのことでイブも着替えて文化祭を回ることにした。







「かっちゃーん! みんなー!」
「イブちゃんおつかれー!」
「最高だったぞ! きっと優勝だ!」
「きっとじゃねぇ! 優勝すンだよ!!」
「ああ、イブなら間違いなく優勝だ」
「パパとお兄ちゃん二人合わせて聞くとすごい強火オタクに聞こえてウケるー!」
「誰がオタクだ! つかなんだ強火オタクって! オタクに強火も弱火もねぇわ!」
「(爆豪意外とこういう知識はないよねぇ)」

その後最初は爆豪について回ろうとしたのだが、爆豪がオールマイトが学生時代に記録を残したというアトラクションでその記録を塗り替えるのに必死になり、そこでしか時間を潰さなかったため、せっかく色々ある文化祭だからと気を遣った尾白が常闇に連絡し、迎えに来てくれた常闇と一緒にいたという飯田、轟、口田と一緒にミニ遊園地を堪能するのだった。


「わー! たのしー!!」
「イブが楽しそうで何よりだ」
「最初からこっちに誘えばよかったな」

昔のデパートにあったようなパンダの乗り物を得意げに乗り回す様子はまさに幼女だった。完全に保護者と化した四人はイブが求めるがままにミニ遊園地を堪能したのだった。実に有意義であった。たまには童心にかえるものいい。
常闇が途中で買ってきてくれたセメントスジュースも美味しかった。器も可愛く、思い出に持って帰ろうと決めたのだった。







「で、お前はまだ投票してないのか」
「け、拳藤……!」
「名前もう書いてんだからあと入れるだけだろー? さっさと入れなよ」
「……ほっといてくれないか」

物間はミスコンの投票を済ませていなかった。誰に入れるかと名前はもうちゃんと書いているのに投票できないのだ。拳藤は呆れていた。


「ここまでやっといて投票しないとか逆にかっこ悪くない? 名前書くのが一番緊張するだろ」
「…………しょうがないだろ、可愛いって思えるのはあの子だけなんだから……」
「じゃあ投票しろよ」
「それとこれとは別さ!!」

体育祭でファーストコンタクトを決めてから物間の可愛いはイブにしか反応しなくなっている。けれど頑なに投票しようとしない物間に拳藤が訝しんだ。なんか変だ。


「物間もしかして……もしかしてだけどさ、私に気を遣ってたりする?」
「……………………別に」
「いや図星かい!」

まさかの図星である。ものすごく間があった。


「なんで気なんか遣うんだよ。あんたがイブ好きなのは今更だろ?」
「……好きだから入れるんじゃないだろ」
「まぁミスコンって趣旨ならそうかもだけどさ、それ抜きにしてもイブすごかったじゃん。多分優勝あの子か波動先輩のどっちかだよ」
「…………わかってるよそんなの」
「じゃあなおさら入れなきゃ! あの子に優勝してほしくないの!?」
「それはしてほしくない! 出るなんて思わなかった! あーもうこれであの子が可愛いってみんな気づいてしま――」
「(うわぁめんどくさ)イブは優勝したいって言ってたけどね」

拳藤の一言で物間もぐうっと黙ってしまった。拳藤は本当に呆れた。やっと好きを認めだしたかと思ったらやっぱり踏ん切りがついていないんだから。
物間、と促すと物間が絞り出すように口を開いた。


「だって……僕が拳藤を推薦したんだぞ……B組のために優勝しろってけしかけた。それなのに他の子に入れるなんて裏切りだ……」
「はぁ!? あんたそんなこと思ってたの!?」
「……なんだよ」
「あっきれた! そんなん私よりあの子がすごかっただけの話だろ? それにそんなことに気を遣われて入れるの躊躇われる方が心外なんだけど。私そんなちっさい女じゃないんですけど」
「拳藤……」
「男みせろよ物間。このままだとほんとに他の誰かに搔っ攫われるかもね」
「!! 勝手に言ってなよ」
「…………全く世話がやけるなぁ」

他の誰かに搔っ攫われるというのが効いたのか物間はやっと投票した。時間ギリギリであった。







そして結果発表となったとき、なんと一票差という激戦の果てにイブが優勝を果たしたのだった。A組の面々に囲まれてもみくちゃにされるイブを見て「ほら、投票してよかったろ? あんなに笑ってる」「…………うん」と笑うのだった。


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