ビルボードチャート


「へっちょい」
「風邪? 大丈夫?」
「イブ治癒しようか?」
「いや……! 息災! 我が粘膜が仕事をしたまで」
「何それ」
「噂されてんじゃね!? ファン出来たんじゃね!? ヤオヨロズー! イブちゃーん! みたいな」
「茶化さないで下さいまし! 有難いことです!」
「おー、ありがたやー!」

ありがたやーと手を合わせるイブに上鳴が笑った。ミスコンで優勝したといってもイブは相変わらずだった。相変わらず無邪気で無垢であったし、ミスコンから声を掛けられる機会がまた急増したものの、爆豪に引っ付いているということもありあまりこれといって変わったことはなかった。


「常闇くんはとっくにおるんやない? だってあのホークスのとこインターン行っとったんやし」
「いいやないだろうな。あそこははやすぎるから」
「そうだねー! ホークスとってもはやい!」
「そういやイブちゃん、ホークスに抱えられて県跨いだんやったよね」
「もうね、すごかったんだよー! ホークスが遊園地に連れてってくれたんだけどね、ジェットコースターよりはやかったんだよー!」
「うわぁそれはすごい。イブちゃん壮絶な大移動やったんやね」
「それはもう!」

大きく身振り手振りで大変だったと訴えるイブに周りもそりゃ大変だったなと同情した。けれどそのおかげで間に合ったのだ。ナイトアイを直接救ったのはイブであるが、イブがちゃんと治癒できるように間に合わせたのはホークスである。
その後も治癒で疲れたイブをホテルまで届けて、ケーキ屋さんをはしごして回って、最後には遊園地だの水族館だの動物園だのと、イブの憧れを全部叶えてくれたのだ。やっぱりすごいヒーローなのだ。

そんなことを話しているとお客さんが到着した。


「煌めく眼でロックオン!」
「猫の手手助けやって来る!」
「どこからともなくやってくる」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「「「ワイルド・ワイルド・プッシ―キャッツ」」」」

お客さんというのは合宿でお世話になったワイルド・ワイルド・プッシ―キャッツの面々だった。
ラグドールが個性をなくしたため、活動を見合わせていたのだがこの度活動を再開することになり、復帰のご挨拶にきたらしい。


「あん時ゃ守りきってやれずすまなんだ」
「ほじくり返すんじゃねェ」
「気にしてないよ! あの時救けにきてくれてありがとう!」

虎が申し訳なさそうにしつつ、イブにみんなへのお土産を渡した。美味しいお菓子である。イブはもうるんるんで「お土産もありがとー!」とくるりと回った。
ラグドールの個性はやはり戻っていないそうだが、それでも全く活動していなかったにも関わらず今回の下半期ビルボードチャートで三桁にランクインしたこともあり、待ってくれている人がいるから立ち止まってなんかいられないとプッシ―キャッツは再び走り出したのだった。







「わぁ……! ホークスが2番だって! ホークスすごーいっ!」
「ああ、そうだな」
「スゴイ! ホークススゴイ!」

ビルボードチャートの発表を共有スペースのテレビでみていたイブは、ホークスが2位だと発表されると隣にいる常闇にみてみてすごいと話しかけた。当然見ている。
その後十位以内のヒーローたちが下の順位からコメントしていくのだが、NO.4のエッジショットのコメントを遮り、ホークスが水を差してしまった。


「ホークス……」
「ホークス結構切り込んでいくよなぁ」
「不遜」
「イブが懐くのこんなんばっかだな」
「う?」

言わずもがな爆豪である。どちらも種類は違うが不遜なのは似ているかもしれない。
けれどホークスの言ってることも確かに間違ってはいなかった。その後ホークスからマイクを渡されたNO.1のエンデヴァーは一言「俺を見ていてくれ」とだけ口にしたのだった。


「エンデヴァー見ててっていったねー! 見なくちゃだね!」
「ああ。名実共にNO.1になったはいいが、やはりオールマイトの印象が強いからな……エンデヴァーもまだ色々大変だろう」
「なんで? オールマイトとエンデヴァーは違うのに?」
「違うからだよ。オールマイトの平和の象徴時代が長かったからなぁ……ありゃこれからも比べられるだろうな」
「ふーん、変なの」
「さ、もう遅いですしイブさんも寝る準備をしましょうか。今日のブラッシングはぜひ私にお任せください!」
「わーいっ、ももちゃんだー!」

よくわかってない感じのイブを八百万が上手く意識をそらした。ずっと雄英内で制限された生活を送っているイブにはオールマイトの抑止力がよくわかっていないのだ。良くも悪くもイブは個人を見ている。故にこの話は分かりようがなかった。強いて言うならばオールマイトは先生、エンデヴァーはとどろきくんのお父さん、みたいな認識である。どちらがすごいとか、すごくないとかの話ではないのだ。


「ん……んぅ……すぴ……」
「あら、寝てしまいましたわ」
「いつもよりちょっと遅い時間まで起きてたもんな」
「ここは俺が運ぼう」
「いや俺が運ぶよ。ビルボードチャート見ようって誘ったの俺だし」
「左様か……」
「では切島さん、お願いしますわ」
「おう」

艶々になった羽を巻き込まないように気をつけてイブを抱き上げた。イブがブラッシングの途中で寝落ちるのは珍しいことではないためみんなも慣れた様子だった。
爆豪はいつまでも甘やかすなと言ってはいるが、爆豪はいつも早寝なので知らないことも多かった。大抵後から聞いて怒られるのである。もう諦めた方が早いのは火を見るよりも明らかだったが……それは誰も言わなかった。賢明である。


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