始まりのスタンディング


「かっちゃーん! みてみて! 靴箱になんかお手紙入ってたー!」
「お前それ……貸せ」
「はーい」

爆豪はイブから手紙を受け取ると、中身を確認した。案の定ラブレターというやつである。古典的な告白に爆豪はマジか、と思いつつ読み進めると、どれもこれもイブの容姿と歌声だけを褒めたたえ、付き合いたいという旨が記してあった。爆豪はそれに論外、と結論付けると爆破して消し炭にしてしまった。


「あー! かっちゃんイブまだ読んでないのにー! イブのお手紙じゃなかったのー!?」
「人違いだわ」
「え? 間違えてイブの靴箱に入れちゃったの? え、でもかっちゃん爆破してたよね? なんで?」
「俺宛てだったんだよ。いらねぇから燃やした」
「えーそうだったのー? でもお手紙は燃やしちゃいけないんだよー」

イブを適当にあしらいながら平気で嘘を吐く爆豪に後からきた面々は微妙な顔をした。みんなに対して過保護だなんだと爆豪の苦言が絶えないが、その実一番の過保護はおそらく爆豪である。
イブに集る虫に情け容赦がない。まず正面切って告白できないなよっちさに減点、そして内容に対してイブの上っ面しか見てないくせに愛を語るのに論外と採点が下された。これでイブのことは結構可愛がっているのだった。







「ももちゃん、お勉強教えてー!」
「ええ、もちろんですわ!」
「俺も相席させてもらっても?」
「俺も俺も! わかんないとこだらけでさー!」
「常闇さん、上鳴さん。いいですとも!」
「あ、なに勉強会やんの? じゃあ俺も参加させてくれ!」
「僕もいいかな?」
「もちろんですわ!」

こうしてちょっとしたお勉強会が開催された。部屋でやるには人数が多いため、共有スペースで勉強をすることにする。イブはちょっとわくわくしながら意欲的に取り組んだ。一緒に勉強するというのは一人でやるよりずっと楽しいのだ。


「あ、もうノートなくなっちゃった……ももちゃん、お願いしていい?」
「もちろんですとも! イブさん毎日頑張ってらしてとても感心ですわ」
「イブよく頑張ってるよなぁ……勉強しても大半が願い事のストックに回るんだろ? 俺だったら早々に挫けてるね!」
「でも、こうやってイブちゃんが毎日頑張ってるからお願い事で助かる人がたくさんいるんだよね」
「あー……うー、うん。そうかも」
「イブ? どうした?」
「……この間翌日の夕飯を変えようと願い事をしていたんだ」
「とこやみくんっ!」
「あー、でもどうしてもこれが食べたいってときあるよね! 頻繁にじゃないならたまにはいいんじゃないかな、なんて……」
「デクくん……!」
「ああ、俺もそう言ったんだが……爆豪は厳しかった」
「あー……爆豪はなぁ……」

一様に納得する。本人がストイックであるためこういう個性の乱用はダメだという考えなのである。一度くらいならとも思うが、こういうのは一度やってしまうと二度、三度と繰り返すものである。初めが肝心だとイブはこってり絞られたのだった。
ちなみにイブが頼もうとしたのはいちごをたくさんというやつである。どこまでも欲に忠実だった。

そんなことを話していると、そろそろテレビでも見ようとつけることにした。息抜きは大事である。けれどそこに映っていたのは……エンデヴァーとホークスが脳無と戦う姿だった。


「え、脳無!? なんで!?」
「また連合か!?」
「ホークスもいる!」

勉強どころじゃなかった。皆がテレビに釘付けになっていた。この脳無は特別に強いようで、エンデヴァーの左目付近に大怪我を負わせた。倒れたエンデヴァーに息をのむと、そこに轟が現れた。


「轟……!」
「轟くん……!」
「パニックだ……! マズいぞ」
「轟さん……!」
「TVつけたら……エンデヴァーが!」
「あわわ! イブお願いしてみる!」

続々と共有スペースに人が集まってきた。轟も動揺していた。相澤も轟に情報共有するために駆けつけてきた。イブは慌てながらもエンデヴァーとホークスの傷が癒えるようにお願いをしてみた。降りてきた爆豪が近くに来てイブの頭をやや乱暴に撫でた。
その時、テレビから怒声が聞こえた。TVにどこ見て喋ってるんだと訴えかけた。まだ炎が上がってる。エンデヴァーが生きて戦っている。今自分たちのために身体張って戦っている男が誰なのかちゃんと見ろやと発破をかけた。

エンデヴァーは動かない身体を火力で押し出し無理やり動いた。ホークスの羽でさらにスピードを出し、建物も火とも気にしなくていい上空へと押し出した。
そこで決めたプロミネンスバーンはまるで太陽のようだった。


『立っています!! エンデヴァースタンディング!! 勝利の!! いえ!! 始まり・・・のスタンディングですっ!!!』

思わず轟は座り込んだ。憎かったはずの父親が生きて勝ったことにきっと確かに安堵していた。
その後敵連合の荼毘が現れたが、ミルコの救援もあり彼はすぐ退散した。


「イブ、エンデヴァーとホークス治しにいこうか? イブもう仮免あるからお外でも個性使えるよ!」
「いや、おまえはここにいろ。連合が出たんだ。おまえがまた狙われないとも限らない」
「あう……」
「心配しなくても婆さんが行ってくれるそうだ。それにまぁ、あの分じゃ大丈夫だろう」

そういってテレビを見る相澤につられ視線を向けると、そこには徐々に回復しているエンデヴァーとホークスの姿があった。そういえばイブの輪っかはまだ光り輝いている。
今までのお願いの効果ではイブの治癒が届かない場合、治癒できる誰かが通りかかったりなどして治してくれたものであるがこれは間違いなくイブの治癒の個性が働いている。


「え!? どういうこと!?」
「文化祭を経て神格が上がったんだろう。良い個性に仕上がってるな」
「つまり……イブ、プルスウルトラした……?」
「そういうこった」
「わーいっ! イブ強くなったー!!」

嬉しくて飛ぼうとしたイブを爆豪が寸でで抑えた。画面の向こうではエンデヴァーが驚いた様子をみせているが、ホークスが笑いながら何かを言ってテレビに向かって手を振った。それは間違いなくイブに向けたありがとうのサインであった。


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