黒き天使が微笑むとき


「まさかイブと当たるとはなー。ちょっとやりにくいや」
「? なんでー?」
「イブみたいに可愛い女の子を平手打ちなんてできればしたくないからね……ま、試合だからやりますけども」
「!! イブも当たらないように飛ぶから大丈夫!」
「そっかそっか、じゃあ手加減なしで!」
「うん!」

イブは拳藤の大拳で平手打ちされるのを想像して恐ろしくなったが、ホークスがどんな攻撃も当たらなきゃ意味がないとイブが速く駆けれるようにしてくれた。強気に持ち直すイブに少し驚きながらも、拳藤も手加減なしで挑むと宣言したのだった。


「ま、でも八百万と当たったのは嬉しいよ。職場体験からCM出演しちゃってなーんか私たち同列に見られてるんだよね。ハコ推しみたいな」
「箱」
「押し?」
「まるごと好きーってことでしょ!? 文化祭でも同じ人がヤオヨロズー! ケンドー! って叫んでたよ」
「イドラ、偶像崇拝」

拳藤は八百万の方が成績も個性も上なのに一緒くたにされるのが地味に嫌だったのだと言う。個人的にちゃんと戦ってみたかったという拳藤に、八百万も誠心誠意受けたのだった。


「……とこやみ、おまえは……俺と同類だ」
「黒色支配……個性は黒に溶け込み黒の中を自在に移動できる……だったな」
「俺とおまえは……宿命の存在」
「ホホウ。貴様も深淵の理解者」
「ヒヒ……常しえの黒に住む」
「わぁー」
「?? 前世で兄妹だったとこやみくんがしゅくめいの存在……ならイブのなに……?」
「(混じっちゃったかぁ)イブちゃんの遠い親戚じゃない? わかんないけど」
「とおいしんせき……! おにーちゃん?」
「……うん!」

葉隠も諦めた。中二病というのは奥が深いのだ。
遠い親戚といった手前お兄ちゃんというのも否定し辛くなった。まぁ、なんとかなるだろう。中二病の設定って生えるものだから。







試合が始まってすぐ、黒影を送り込んだ。リスクが低く与えられるダメージが大きい手だった。けれど戻ってきた黒影の様子がおかしい、常闇とつながっている黒影が断片的な情報を渡したのを受け、常闇はイブに指示を出した。


「イブ! 灯りを!!」
「タスケテ!!」
「ちょっと眩しいけど我慢してね!」

光の種の調節。インターンで常闇と黒影と行動を共にするにつれイブが覚えた黒影にダメージがない光。けれど確実に黒影の闇を抑えられる光。
ぴかっと一瞬光ると同時に黒色が「ちっ」と舌打ちをして黒影の中から追い出されるように出てきた。


「あ! おにーちゃん!」
「!? 俺がお兄ちゃん?」
「イブ!?」
「あーごめん、私がイブちゃんに黒色くんは親戚みたいなものだと思うって言っちゃって……」
「そうか……」
「……神に愛された光の子よ、俺たちとおまえの道は交わらない」
「! だが俺は妹と共に歩むことを決めた。たとえその道が茨の道とて……!」
「(つ、続いたぁあああ!!)」
「お、おにいちゃんっ!」

なんかそれっぽく続いた。やはり中二病に設定は生えるものなのだ。八百万は何が何だかわからないやり取りに戸惑ってはいたが、頭の中ではしっかりオペレーションを組み立てていた。


「常闇踏陰。おまえは俺が穿つ」
「良いだろう。ホークスのもとで編み出した技黒の堕天使≠ナ受けて立つ」
「だてんし……!? ケヒヒ黒の堕天使!? 良いじゃねぇか見せてみろ!」
「影の中を移動しています!」
「また単騎突撃ってこれは想定外!」
「イブぴかってしようか!? だめ!?」
「いえ、イブさんは常闇さんから離れないで!」
「はーいっ!」

なるべく常闇の近くを飛ぶイブに常闇は「イブ、準備を」と声をかける。それで理解したイブは集中した。常闇をきっと狙ってくる。だって散々常闇に注目していたから。けれど予想に反して黒色は青山のマントを掴み離脱した。
それを常闇とイブが追いかける。二人には追いつける翼があった。


「黒影、黒の堕天使」
「それが……!!」
「青山さんネビル・ビュッフェを! 常闇さんは自由飛行!! そしてイブさん! 出番ですわ!!」
「はーいっ! エンジェリング! メタモルフォーゼ!! 黒夜こくやの天使!!」
「!!? 黒い……天使……!? まさか彼女は……リリス……!!」

黒髪に赤い瞳、どういう原理かヒーローコスチュームまで黒いドレスに姿を変えたイブがネビル・ビュッフェで弱まった黒影の闇を補填する。イブから闇の力を受け取った黒影は眩いネビル・ビュッフェの中でも、生き生きと本来の力を発揮していた。

モニター越しに見ていたみんなはイブのまさに変身のような必殺技に度肝を抜かれていた。「いやこんなんありかよ!?」「ほんとにプリキュアじゃん!?」「…………元のが好きだな」「金髪フェチめ」そんなことを言われていたなどイブたちは知らないが。


「黒影!! やっちゃって!!」
「任せろ!!!」

あと一歩というところで異変が起きた。皆の身体にキノコがいきなり生えだしたのだ。「わあああ! 気持ち悪い! やだあああ!!」とわんわんイブが泣き出すのを常闇が宥めつつ黒色を捕らえようとしたが、逃げられてしまったのだった。


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