救助訓練のはずだった


今日のヒーロー基礎学は少し特殊で、災害水難なんでもござれ、レスキュー訓練だった。広大な敷地内にいくつもの施設を構える雄英は、バスで移動することになった。
飯田がスムーズに乗れるように番号順に並ばせようとしたが、バスの座席タイプが予想と違ったため無駄に終わった。
イブはきょろっと見回して、轟の隣に座った。


「俺の隣か」
「うん、だってイブとろろきくんと話したことないもん」
「とろろ……轟だ」
「とどろきくん!」

イブがとろろとか言ったせいで轟は密かにとろろそばが食べたくなってしまった。だが「俺は寝る」と轟は目をつぶって寝る体勢に入ってしまう。イブもさすがにこれを起きて起きてとは出来ず、しょうがないので大人しく座っていることにしたがふと思いつき、イブの真っ白な羽を広げ、轟にかけてやろうとしたが思ったより面積がなく轟がなんだこれと見てきた。


「……お布団代わりにならないかなと思ったんだけど……イブの羽思ってたよりちっちゃかった」
「……そうか」

会話が終了した。ついでに前の席の耳郎がイブの思ってたよりちっちゃかった発言に笑った。自分の羽のサイズわからんのかいといったところである。わかってなかった。
そうしていると目的地につき、まるでUSJのような施設は本当に名前がUSJであった。嘘の災害や事故ルームである。








「おいおいおまえら、あんま調子乗ってんじゃねぇぞ」
「台詞までザコだなおい」
「そんなこと言えるのも今の内だ。おい、アレ持ってこい」

敵の襲撃に遭いモヤ男によって散り散りになって飛ばされた生徒たちは各々戦っていた。ここ倒壊ゾーンには爆豪と切島が飛ばされており、二人の他になんと――イブの姿があった。


「ひっく、ぐすっ……!」
「!! イブ!!」
「羽っ子……!」

イブは飛ばされた時点で二人と少し離れた場所におり、そのせいか飛ばされた時もイブだけ少し地点がずれていた。現状イブは攻撃手段や自衛手段をもっておらず、為すすべなく人質にされていた。


「まずいぞ爆豪。イブは戦えねぇ……! なんとかして救けねぇと!」
「っち、余計な手間かけやがって」
「そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ! 怖くて泣いてんだ、早く救けてやろうぜ!」
「おい。少しでも反撃してみろ。こいつのお綺麗な顔が見るも無残なものに変わるかんな」
「くっ、汚ぇ……!!」

イブの安全を考え従おうとする切島とは逆に爆豪が爆速で駆け出した。切島がぎょっとするも爆豪は敵がイブの顔を切り裂くより早く、イブを拘束する腕を爆破して奪還した。


「爆豪ぉおおお!! すげぇけど! すげぇけど!! 無茶苦茶だって!!」
「あ゛!? 別に無茶じゃねぇわ! 俺のが速いってわかってンのに仕掛けねーわけねーだろ」
「うわ〜〜〜ん! 怖かったよ〜〜!!」

びゃーびゃー泣くイブに爆豪が「おめーも簡単に捕まってんじゃねぇ!!」と説教をする。切島が「爆豪怒んなって! それより無事でよかった」とイブのフォローをした。
泣き止む気配のないイブに爆豪は早々に見切りをつけ、念のため出来ることを聞いた。おそらくなんの役にも立たないだろうが。


「おまえ個性で何ができる」
「ひっく、飛べて……傷治して……ひっく、お願いすると叶えてくれる……」
「? 願うと叶う……? それつまり何だ、お前俺が救けてやらなくてもお前が「放せ」って願えば済んだんか!?」
「ちがうよおおっイブ「救けて」ってお願いしたぁあ。そしたらあの人がひっく、かっちゃんたちのとこつれてきたぁああ」
「なるほど……つまりお前のお願いで救けられるやつがいるところまで移動させたってことか……お前もうちょっと内容考えろや!? 手間でしかねぇ!!」
「わぁあああんっかっちゃんが怒ったあああ」
「爆豪!! イブ泣かすな!!」

こうしてる間も数だけは多い敵が攻撃をしかけてきている。相変わらずイブは非戦闘員なので爆豪と切島で守りながらの戦いだった。弱いが数が多い分面倒である。そこで爆豪はひらめいた。こいつら全員一気にイブなら片づけられるのではないかと。


「おい羽っ子!」
「イブ羽っ子じゃないよおおイブだよおお」
「おめーもかっちゃんって直さねーだろうが!!」
「かっちゃんはかっちゃんだもんん」
「あーもうっ! とにかくだな!! お前今からこう願え。「敵が皆眠りますように」だ! いいな!?」
「爆豪それ……!」
「わかったぁああ! 「敵がみーーんな眠ってくれますよーに!!」」

その瞬間イブの天使の輪っかが眩く光り輝いた。目を開けていられないそれがやむと、爆豪の思った通り雑魚敵たちが一斉に眠っていた。


「はっ……すげーな。チートじゃねェか」
「これイブがやったのか!? やっべぇ! イブすげぇよ!!」
「う……? イブすごい……?」
「ああ、すごい! めちゃくちゃすごいぞ!!」
「わーい! 褒められたー!」

その後敵の出入口であるモヤ男を潰しに行くという爆豪に切島と一緒についていくことになった。イブの頭がクリーム脳なのはもうわかっていたので、一人置いていく方が危険と判断されたのだ。







「えええなにあれ気持ち悪いのがいるぅ……」
「イブちゃんも来てたんだ……! よかった! 相澤先生がひどい怪我なんだ……!!」
「ええ!? 治すよ治すよ! 見せて見せて!」

びゅんと飛んで相澤の下へ向かう。イブが見た相澤は本当にひどい怪我で、イブが個性を使った人間の中で一番ひどかった。


「あ、あいざわせんせ〜死なないで〜!」

泣きべそをかきながらイブが光を放って治していく。その光景を見た顔を手のオブジェで覆った主犯格とみられる男が「いいなぁ……激レア個性……ほしいなぁ」と薄気味悪く呟いていたのは聞こえなかった。

そうしてイブがぎゃんぎゃん泣きながら治療を続けている間に事態は収束していた。あの気持ち悪いのはオールマイトが撃破し、飯田が応援を呼んだプロヒーローたちが来て主犯格とみられる敵は逃亡したのだ。
ここまで酷い怪我を治したことがなかったためか、相澤を完治させることはできなかった。それでも大体回復させたあとはリカバリーガールが引き継いでくれたのだった。





後から聞いたことなのだが、他のクラスメイトたちのところに現れた敵たちも突然眠気に襲われ自滅したらしい。なかでも八百万たちのところは上鳴が人質にとられて危なかったらしく、危機一髪の状況でのその奇跡を訝しんでいた。イブのお願いの効果だと切島が説明すると物凄く驚いて、「イブ! お前は俺の命の恩人だ! ありがとうな!」と上鳴に偉く感謝された。「同じ人質だってのにこうも違うとはねぇ」と瀬呂が茶化し、「うるせぇなぁ! 俺だって最初は人間スタンガンで活躍したんだぜ!」と反論していた。だがあほになって人質である。落ちがしっかりついていたのだった。


「うーんでもねぇ、イブじゃこういうお願い事思いつかなかったよ。かっちゃんが教えてくれたんだー」

ぽやぽやしながらいうイブに上鳴が今度は爆豪に熱烈な感謝を告げた。爆豪は意外と爆豪周りの事考えてるじゃんと言わんばかりのこの感じが気持ち悪くて、「うっせぇ!! 余計なこというンじゃねぇ!!」と爆発的怒鳴り声をあげるのだった。


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