イブはリリス


払っても払っても全身いたるところにキノコが生えてきてイブはギャン泣きしていた。しかも巨大なオノマトペが現れて八百万と分断されてしまった。


「っももちゃん!!」
「ボクのレーザーでも傷一つつかない」

ジメジメというオノマトペが加湿器の役割を果たし、小森のキノコがどんどん育っていく。広範囲攻撃ができる個性の持ち主が二人。黒色、吹出、小森の個性のコンボが強すぎる。三者の場所を補足できなければこのまま終わってしまう。


「とこやみくん! あれ・・使おう!! ももちゃんと合流しないと……!」
「いやダメだ! 場所が補足できない。いたずらに破壊しては仲間にも被害が及ぶ……! !? あれは……!」

常闇が八百万が打ち上げた荷物を見つけた。黒影に取らせるとその中には、
YAOYOROZU' LUCKY BAGヤオヨロズラッキーバッグの名に相応しい、今この場に必要なものが入っていた。

サーモグラフゴーグルが二つとエタノール滅菌スプレー。デザイン的にサーモグラフゴーグルはイブと常闇のものだった。八百万が言葉がなくともちゃんと意図が伝わるように創ってくれたのだ。


「行くぞイブ。深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いていると知らしめてやろう」
「知らしめる!!」

常闇とイブは小森と黒色のもとへ向かった。葉隠は吹出のもとへ。滅菌してキノコの生えなくなった葉隠は個性の利を生かしどこからくるかわからない猛攻を仕掛けるのだった。







「居所さえわかればこちらの間合い。逃れ潜むことすら許されぬ疾風怒濤。ホークス曰く、疾さは力に勝るという」
「ホークスが言ってた。イブたちほんとの兄妹みたいだって!」
「これは俺たちが前世のえにしを手繰り寄せ、導き出した答え……」
「「深淵暗躯ブラックアンク」」
極夜ノワール!」
夜宴サバト

イブが全てを飲み込むかのような闇を放ち、その力を受けた黒影が目にもとまらぬ速さで小森を捕らえた。黒色は小森を案じつつ、やはりと理解した。黒に潜もうとして常闇の外套に捕まってそれでも言わずにはいられないと口に出した。


「やはりリリスだったか……!! 前の前の世での俺の妹……!! 常闇、おまえはまたしても俺の妹を奪うのか……!!」
「奪ったのではない。俺たちは運命に導かれ巡り合ったのだ。お前もそうだ。こうして俺たちが揃って英雄を志し邂逅したということは、今度こそ運命のいたずらに振り回されぬためではないのか……!!」
「!! ケヒヒ、その通りだ……今世では今度こそ……」
「…………おにーちゃん??」
「ああ、そうだ! そうだリリス……! 妹よ……!!」

こうしてイブの兄が正式に増えた。正式にと言っていいのか謎だが、とにかく増えた。だが長々と話していたのがよくなかった。小森がやってしまったのだ。肺攻めスエヒロダケちゃん。えげつない技である。
けれどここにはイブがいる。治癒のスペシャリストである。


「ゴホッゴホッ、ガハッ」
「ゲホゴホッ! 治って……!!」

治癒をかけて治ったは良いが、先ほど常闇が咳き込んだ時に拘束が緩み、小森と黒色が逃れてしまった。小森も肺攻めスエヒロダケちゃんをどんどん出しているようで、イブの治癒も続けるしかなくなる。治癒をしながら戦うしかない。それに一つ黒夜の天使には弱点がある。闇の力を司るこのモードのときは治癒の性能が数段劣るのだ。
常闇はイブに元に戻ってサポートに回るよう指示を出した。イブの治癒が切れた瞬間負けが確定してしまう。


「とこやみくん、イブやれるよ! 治癒しながら戦える!」
「……ならば任せるぞ、イブ!」

やれると言ったイブの目は輝いていた。常闇は守りたい兄心を置いて妹を信じることにした。大丈夫だ。イブができるというのなら信じるのが兄である。常闇に迷いはなかった。
イブが上昇する。思いを、意志を、願いを歌に乗せる。きっと出来る。だってお歌はみんな褒めてくれるから。


天使の揺り籠エンジェルクレイドル!!」
「……な、に……急に……眠く……」
「ああ、リリス……おまえは……天使に……」
「……イブ」

まるで天使の揺り籠のような子守歌だった。羊水に揺蕩うようにあらゆるものを浄化し、対象を戦意喪失させ、眠りへといざなう。小森と黒色を完全に無力化したのはイブだった。
モニターを見ていた爆豪が不敵に笑った「並行処理、できるようになったんじゃねーか」体育祭で爆豪に言われていたことを土壇場で仕上げてきた。イブの成長にはやはりA組のピンチが必要なのだろう。


「すごいぞイブ。頑張ったな」
「えへへ! エクトプラズムせんせーの言うこと覚えてたんだよ。イブはやりたいことぐげんか? できるって! えらい?」
「ああ、助かった」
「イブの歌、俺スキ!」
「ありがとー! ももちゃんととーるちゃん助けに行こう! あおやまくんは捕まっちゃったけど……二人は――わきゃああ!!」
「イブ!!」

イブが拳藤の大拳に掴まれてしまった。拳藤は「手荒になるけどごめんな!!」というとぐるぐる回してイブを投げ飛ばした。常闇が助けに入ろうとすると吹出がオノマトペでそのままイブを激カワ据え置きプリズンにinしてしまった。本当に手荒である。
そしてその瞬間、4人捕まえるという条件が達成されたようで第二セットは4ー0でA組の負けとなったのだった。なんとも一瞬のできごとであった。イブは激カワ据え置きプリズンでぐるぐると目を回していた。


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