よかったね!


「かっちゃんんんっ負けちゃったあああ! びえーんっ!!」
「おうおう、おめーは緊張感が足りねぇんだよ。調子乗って浮かれてたから気づかなかったんだろうが」
「そうだけどー! そうだけどー!! うわーんっ!」
「だぁああっ! うるせえ!」

試合が終わると泣きべそをかきながらイブは爆豪に文字通り飛んで来た。体当たりされた。よっぽど悔しかったのだろうびゃんびゃん泣くイブに常闇も沈んだ表情を見せていた。
倒すことはできたものの、黒色と小森は激カワ据え置きプリズンに入れられなかったため、こちらだけカウントされた4−0というのがまたくるものがあった。


「でもイブすごかったぞー! 黒夜の天使だっけ? しかも常闇専用の合わせ技まで仕上げてんだもんよ。俺たち驚いたぞ」
「プリキュアだよプリキュア! イブちゃん実写のお仕事とか来るんちゃう!?」
「ふぇ」
「最後のエンジェルクレイドルー! ってやつ! ほんとよかった!! あれだとたくさんの人を治しながら敵を一気に無力化できるじゃん!? もうすごいよイブ! 成長しすぎー!!」
「…………イブ、成長した……?」
「ああ! もちろんさ。前に君に兄の事をお願いしただろう? 兄さんの足はもう動かないと言われていたのに、この間少し動いたんだ! この調子でいけばもしかしたら少しの歩行が出来るかもしれないらしい。君が祈ってくれたおかげだ。ありがとう!」
「……よ、よかったね〜!!」

飯田がお兄さんのことをとても慕っているのを知っていた。イブも常闇のことをお兄ちゃんと思う感情ができていた。お兄さんになにかあったらとても悲しいし、どうにかしたいと思うのも。だから前より少しだけ近いところで飯田の喜びを一緒に分かち合うことが出来た。


「それはそうとイブ、黒色はお兄ちゃんなのに俺はとこやみくんなのか?」
「おっと、拗ね闇くんじゃん」
「拗ね闇くんだね。イブ、呼んだげなよ」
「お、おにーちゃん?」
「ああ」
「嬉闇くんじゃん」
「嬉闇くんだね」

こうして常闇がとこやみくん改めおにーちゃんとなったのである。起きて話を聞いていた黒色は「俺が先……」とそれはもう嬉しそうにしていた。設定とは生えるものである。ノリとその場の雰囲気で出来た妹に対してうきうきしていた。まぁ、イブと繋がるということは面倒なものもついてくるのを失念していたが。







「黒色……おにーちゃんとか言われて随分浮かれてるみたいだね」
「も、物間……!」
「拳藤も、吹出も、随分と手荒だったじゃないか。拳藤はあの子のことずいぶん気に入ってたと思ってたんだけどなぁ……僕の勘違いだったかなぁ……!!」
「うっわ……お前中途半端に認めてめんどくさくなったな。しょうがないだろ、八百万っていうブレーンがいなくなればどうしていいかわからなくなって簡単に無力化できると思ってたんだよ……まさか、みんなのピンチを察知して土壇場で仕上げてくるとはね……気を遣う余裕なんてなかったんだって。手強すぎた」
「手荒だったけどちゃんと気を付けたよ。ドカーンってしたけど、ちゃんと当たっても痛くないように表面もこもこにしといた!」
「そういう問題じゃないんだよそういう問題じゃ……!!」
「…………おまえ、さては常闇とめちゃくちゃ仲良しな感じ見て嫉妬してんな……」
「アハハハハ! 誰が嫉妬だって!? その通りだよ!!」
「ほんっとこれはこれでめんどくさい……」

ほんとうにめんどくさかった。一緒にモニターで見ていた面々はもううんざりしていた。不運にも一緒のチームだった心操はヒーロー科って……と少し幻滅していた。だがまぁこの印象は第五セットで物間が責任を持って払拭するのでよしとしよう。
中でも必殺技、天使の揺り籠を発動したイブの神々しさ、可憐さについては語り足りないようで、間近で受けた黒色と小森を捕まえてあれこれ聞いていた。二人はもううんざりしていた。







第三セットは接戦で引き分けだった。最後は角取が角で上空に避難し、絶対届かない高さで勝てないけど、負けることもないように頭を使っていた。
そして第四セット、第四セットはすごかった、本当にすごかった。


「あっれぇ、僕の目が変なのかなァ? 彼耳郎さんを庇ったようにみえたなァ」
「庇ってたな! 足蹴で!」
「かっちゃん? かっちゃんはいつもなんだかんだ言うけど助けてくれるよ! イブの包丁使いもてーぶるまなーもかっちゃん仕込み!」
「…………ほんとに親子じゃないか!?」
「だからそう言ってるでしょー! イブちゃんたちはそうなんだって!」
「物間! 大丈夫だ! あいつは意外とそういう奴だ! 目変じゃないよ」
「仮免のときもフォローしてくれたしな」
「うんうん!」
「キャラを変えたっていうのか!!」
「……うんまァ身を挺すようなわかりやしーのは確かに初めて見るかもな!」

そして本当に爆豪を軸とした素晴らしいチームワークで4−0で勝利した。


「かっちゃーんっ! すごい! かっちゃんかっこいい!!」
「わーったから纏わりつくな!」
「じゃあおんぶ!」
「しねェわ!」
「(とか言って跳ね除けないんだよね)」
「(パパ……)」
「(もう板についてやんの)」

もうA組では慣れたその光景を物間はいつもとは違った顔で見ていた。
イブのA組愛は今に始まったことではないが、それでもイブを取り巻くA組には強い絆があることを嫌でも感じた。中でも爆豪……ヒーローにお誂え向きの個性を持ち、とびぬけた戦闘センスと才能を持つ。欠点と言えばその言動の粗暴さくらいだったのに彼はキャラチェンなるものをしたようで大分なんだか丸くなっている。イブの隣に当たり前のようにいる。それが物間の柔らかい部分に触れていた。

第五セットが始まる。好きだと嫌でも自覚せざるを得ない物間がそれでもまだ足掻いているのは……自分ではイブの隣に立てないと自分が一番わかっているからかもしれない。


戻る top