対抗戦の後


「ね。ホークスの写真ないの? プライベート!」
「ム……今丁度……」
「あるよあるよー! ホークスね、いっぱい送ってくれるんだー!」
「見せて見せて!」

対抗戦後、交流も兼ねてB組の生徒が何人かA組の寮に来ていた。お客さんに浮かれたイブのテンションは高く、あっちにこっちにととにかくB組の生徒に話しかけて回っていた。


「お茶が入りましたわ。よかったらどうぞ」
「ありがとーももちゃん、いつかちゃん、きょーかちゃん!」
「おお……見事にお兄ちゃんサンドじゃん。すっかり懐いて……」
「おにーちゃんたちやさしーの! イブおしゃべりになっちゃう!」
「かまわない。俺も黒色も話を聞くのは好きだ。好きなだけ話してくれ」
「ああ。なにせ俺たちはお兄ちゃんだからな」
「(今日の今日できた妹だってのにすっかり板についてる……)」
「黒色、妹出来て嬉しいんだよねー」
「う、うん」

小森が話しかけると途端に恥ずかしそうにするものだから耳郎たちはピンときてしまった。お茶を飲んで、食事もしてご機嫌で主に小森と話を振り合う。聞けば小森はロリータファッションに精通しているらしく、イブの部屋もあからさまではないがそっち系であるため、部屋を見に行くという話にもなった。とても仲良しである。
常闇は妹がはしゃぐ姿を微笑ましく見ていたし、黒色は妹と想い人が仲良く過ごしているものだからほっこりしていた。


「そーいえばね、ものまくんは来てないの?」
「物間ぁ? 見てないノコね」
「ああ。確かこっちには来てないんじゃないか?」
「そっかぁ……」
「気になるのか? ならB組の寮にお邪魔するか?」
「うちは大歓迎よ! イブに私の部屋も見てほしいし!」
「来たいなら来ればいい。物間も寮にいるはずだ」

ふと思い立って言ってみたら寮にお邪魔していいとのことだった。イブはお家にお招きされることも初めてのためそわっとしてしまった。「行きたい……」と口にすると小森と黒色は歓迎してくれたし、常闇も一緒に行ってくれると言ってくれたのだった。







「あれ……? 黒色たちもう帰って来たの? 随分早かったね……って。え!? 何で君がここに!?」
「おじゃましまーす! やっぱりものまくんこっちにいたんだねー! うちに来ればよかったのに!」
「邪魔する」

予想外の来客に物間は驚いていた。B組がA組に行くと約束したわけではないが、そういう感じだったのだ。まさかB組の寮にA組が来るとは思わなかった。それもA組大好きなイブである。常闇は兄と名乗るだけあり、付添だろうとは思っていた。


「どうしたの? 向こうにはたくさん人が来たんじゃないの?」
「うん、いっぱい来てたよ! いろんな人とおしゃべりできて楽しかった!」
「じゃあどうしてこっちに……うちの寮は今ほとんど人いないよ」
「なんでって……ものまくんいなかったから」
「え……?」
「ものまくん探しに来たんだよ!」

物間はぽかーんと固まってしまった。今何て言った。僕がいなかったから探しに来たと言ったか。何で。ぎぎぎと音がしそうなくらい首をロボットのように動かして、黒色と小森を見た。
黒色もなんだか聞いてはいけないものを聞いてしまったみたいに顔を心なしか赤くしているし、小森の目は輝いていた。最後に常闇をなんとなくみると、ふむ、といったように冷静だった。

物間はいや多くは期待すまい、なにせこの子のことだからどうせしょうもない理由だと息をついて話しかけた。


「……寂しかったの?」
「うーん……うん、そうかも」
「……なんで」
「B組の人と会うときね、ほとんどものまくんもいたからかなぁ……なんかいないと落ち着かない」
「あーうん……そういう。そうかもね、僕はよくA組に話しかけてた・・・・・・から」

物は言いようである。話しかけてたというか絡んでいたの間違いである。
けれどここには小森がいた。少女趣味である彼女は当たり前のようにそっちの事情をうまく察知していたのだった。


「でもイブ、物間に会いたくなるくらい寂しかったんでしょ?」
「ん?」
「会えないならまた今度会えばいいってならなかったノコ。イブは今、物間に会えてうれしい?」
「うん! うれしい!」
「ならそういうこと! よかったね物間。脈はあるノコ」
「〜〜〜〜っ、んん゛っ」

ファインプレーである。物間は密かに今度キノコグッズでもお礼に贈ろうと思った。
少しだけ素直になった物間が「僕も……会いに来てくれて嬉しいよ」と伝える。にこにこ嬉しそうにイブが笑うと、そうだとばかりに小森が「私たちイブと連絡先交換したの。二人も交換したらどう?」と援護射撃までしてくれた。物間はもう小森ーー!! と内心泣いて感謝した。無事に交換した。
物間に愛飲しているという紅茶を淹れてもらって「ももちゃんのお紅茶もおいしいけど、ものまくんがいれてくれたお紅茶もすき!」「……また淹れてあげるから飲みにおいで」としばらく穏やかな会話が続いた。

黒色が常闇に「いいのか、お兄ちゃん」と尋ねると「そういうものを縛る気はない。だが、イブを傷つけるのなら容赦はしない。兄とはそういうものだ」とイブを優しく見守っていた。かっこいいお兄ちゃんである。対して黒色はちょっと過保護なのでそわそわしていた。性格が出る。
もう遅いから帰ろうと常闇が促し、帰ることになるとイブは「また来るね」と言って物間も「うん、またおいで」と手を振るのだった。
二人が見えなくなった途端「小森! いや小森様! ありがとう……!!」と勢いよく小森を崇め称えるのだった。「お礼はキノコでいいノコ」「もちろん!!」これぞギブアンドテイクである。


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