ようやく解禁!


「ゆうえいの……ふのめん……」
「アハハハ、何言ってんのかなこの子ォ! 何言ってんのこの子ォ!?」
「文化祭の時君のこと「雄英の負の面」と教えたんだ」
「僕こそ正道を征く男ですけどォ!?」
「あの……一体何が始まるのでしょうか」
「おう、緑谷、通形。悪いな呼びつけて。物間に頼みたいことがあったんだが、如何せんエリちゃんの精神と物間の食い合わせが悪すぎるんでな」
「僕を何だと思ってるんですかぁアハハハハ」

A組とB組の対抗戦の次の日、エリちゃんのところに来るようにと言われていた物間だったが、出合頭に負の面呼ばわりされたうえ、まさかの緑谷と通形の同伴だった。もう最初から散々である。
そうして相澤が頼みたいことというのは、エリちゃんの個性をコピーしてその個性の使い方を教えてほしいというものだった。


「うーん……スカ≠ナすね。残念ながらご期待には添えられません。イレイザー」
「……そうか。残念だ」
「エリちゃんの個性をコピー……!? 一体何を?」
「それに物間くんスカ≠チて……」
「君と同じタイプってこと。君も溜めこむ系の個性なんだろ? 僕は個性の性質そのものをコピーする。何かしらを蓄積してエネルギーに変えるような個性だった場合、その蓄積まではコピーできないんだよ。たまにいるんだよね。僕が君をコピーしたのに力が出せなかったのはそういう理屈」
「(そういう理屈じゃなかったら物間くんを爆散させてしまうところだった……)イブちゃんの治癒はコピーできても、お願い事はできないって……そういう理屈だったんだ」
「……まぁ、そういうこと」

二人の脳裏に神野で救出に赴いたときのことが浮かんだ。絶体絶命の局面で道を切り拓いた仲間・・。羽を捥がれ、ぐったりと血の気の失せたイブを見た時は本当にどうにかなりそうだった。


「正直意外だよ。天廻と上手く交流してるとはな」
「……あの子が特別善良なだけですよ。何言ったってケロッとしてる」
「そうか? 俺が知ってる天廻はすぐ泣きべそかくけどな。おかげでエリちゃんと交流させるのも慎重になってるくらいだ」
「それこそ杞憂では? A組みんなを取られたって癇癪起こすような子じゃないですよ。むしろ妹分ができたってあの子は喜ぶんじゃないかな」
「ふむ……まぁ、一理あるな」
「それはそれとして……エリちゃんを雄英で預かるんなら情操教育とマナーには力入れてくださいよ……あの子の二の舞は踏まないように」
「ああ、そこは俺たちもしっかり考えてるよ。天廻はほとんど校長が育てたようなものでな……ちょっとかなり動物寄りになってしまった」
「ハハ、結構な言われようだねイブちゃん!」
「(校長先生って確か……ネズミ……)」

意外な事実が発覚した。そりゃ箸の持ち方もおかしかったわけである。ただ例外としてティーセットは綺麗に使ってたなと思うが、それも根津がお茶をよく淹れていたからだろう。
相澤もA組によくひっついて甘えているのを脳裏に浮かべ、根津がよく自身の捕縛布を巻いた首元に暖をとりにきたりするのを思い出し、ああ、やはり校長の影響が強いなとため息が出るのだった。

幸いと言っていいのかなんなのか、寮生活になってA組で過ごすうちに爆豪やら八百万、蛙吹といった面々が色々教えているためイブの人間レベルは上がってきている。爆豪に至ってはつい甘やかしがちなA組の中で唯一スパルタで扱いていた。爆豪がパパというのは相澤的にもまぁ、そうだなと思わせるものがあった。本人はキレるだろうが。


「イブさんって……ナイトアイさんをたすけてくれた……?」
「そう! 文化祭で綺麗なドレス着て歌ってた子だよ。エリちゃんがかわいいおねーさんって言ってた子!」
「! あのかわいいおねーさん!」
「ほほう、エリちゃんは見る目があるね! そう! あの子は本当に可愛い!! あの子より可愛い子がこの世に存在すると思う!? 僕はいないと……ぐえっ」
「うるさい。……物間、こんな感じだったのか」
「(相澤先生の捕縛布が火を噴いた……!!)」
「い、いいんですかイレイザー……エリちゃんにこんなところ見せて……情操教育に悪いのでは……!?」
「お前の荒ぶりっぷりのが教育に悪いよ」
「結局こんな扱いか……!」

気を取り直すかのように乾いた笑いをこぼした通形がどうして物間にコピーを頼んだのかと聞いた。エリちゃんが個性の使い方をわからない以上、また暴走する可能性がある。だから物間にコピーをしてもらい、使い方を物間が教えられたら楽かと思ったのだが、そう上手くはいかなかった。
エリちゃんはそれを聞いてみんなに自分が迷惑をかけていると落ち込んでしまった。


「……ごめんなさい。私のせいで困らせちゃって。私の力……皆を困らせちゃう…………こんな力無ければよかったなぁ」
「エリちゃん……」
「困らせてばかりじゃないよ。忘れないで。僕を救けてくれた。使い方だと思うんだ。ホラ……例えば包丁だってさ、危ないけどよく切れるものほどおいしい料理が作れるんだ。だから君の力は素晴らしい力だよ!」
「私、やっぱりがんばる」

緑谷の言葉が、使ってよかったと思える個性の経験がエリちゃんに再び前を向かせた。
エリちゃんの力は素敵な力だ。頑張るという前向きな意志は必ず結果に結びつくだろう。無敵の男復活もそう遠くはないかもしれない。


「そういえば緑谷。もう天廻の治癒受けていいぞ」
「え!? いいんですか!?」
「ああ。個性のコントロールも出来ているし、おまえは正規の活躍をしたからね。その後も見てはいたが、今回の個性の暴走もまぁ、一応は収まったからな。もういいだろうと判断した」
「た、助かります……!! イブちゃんの治癒本当にすごくて! いやリカバリーガールにもすごく助けてもらってるんですけど……!」
「まぁ、だからと言って無茶はするなよ。出来なくなりゃまた禁止するからな」
「はいっ!」

解散後にイブにこのことを伝えるとイブは大層喜んだ。「これでしょうしんしょーめー! イブがA組の守護天使!!」とドヤっていた。守護天使とはおそらく常闇の受け売りだろう。仲が良くて何よりである。


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