仮免取得のお祝い


「おはよー」
「雪だー!!!」
「わーいっ! 雪だーー!!」
「心頭滅却乾布で摩擦」
「布濡れますわよ」
「転ばないようにな!」
「ドア閉めてー梅雨ちゃん動かんくなった」
「わーごめん梅雨ちゃん」
「積雪情報見よーぜ。好きなんだよねー俺ー」

12月初旬、日曜日の朝だった。今日は仮免補講最終日、爆豪と轟は今日の試験に合格すれば仮免を取得でき、晴れてA組全員が仮免持ちとなるのだった。


「イブは雪だるまか?」
「うんっ! みんなの雪だるま作るの! 22人! あいざーせんせーも!」
「そりゃいい! 俺も手伝うよ!」
「オイラもー!」
「ありがとー!」

イブは玄関からちょっとだけ離れたところに雪玉をたくさん転がしていた。乾布摩擦していた切島と雪にはしゃいで出てきた峰田が手伝ってくれ、そのうち人数も集まり人数分の雪だるまを作ることが出来たのだった。

そうやってできた雪だるまは、みんなの特徴を出すために八百万が張り切ってパーツを創造してくれたためえらくクオリティが高かった。


「ふふっ、かっちゃーん!」
「ぶはっ!! その凶悪なまでに釣った目は間違いなくかっちゃんだわ……!!」
「いやぁ似てるわ! 爆豪感動して泣くんじゃね!?」
「ブフォッ、爆豪が感動して泣くとか……!!」
「こっちはとどろきくん!」
「すっげイチゴのかき氷じゃん……!? 半分掛けの……!」
「ただの着色料ですわ。さすがに食べ物を使うのは……」
「だよな。それにしても火傷っぽいあともちゃんとあんのな! イブ工作得意だったかあ」
「えっへん!」

みんなの分ができたところで寒いから寮に戻ろうと言う話になった。戻ったら砂藤が爆豪と轟の仮免取得を祝う為にケーキを焼こうとしていた。イブはぱたぱたと駆け寄ると「イブも手伝う!」と声をかけるのだった。


「おー! じゃあイブはデコレーションしてくれ。生クリーム絞るの得意だろ?」
「とくいー! しぼる!」
「それまで時間あるから風呂にでも入って来いよ。外は冷えたろ?」
「うん! 寒かった!」
「イブー! 一緒いこー! あんた雪触りまくって手冷たくなってるでしょー!」
「う? ……ほんとだ冷たい! 行くー!」
「いや気づかんかったんかいっ!」

耳郎が思わず突っ込んだ。砂藤もプッと思わず吹き出してしまった。イブはちょっと抜けているのだ。この手ではうまく器具が扱えなかっただろう。お風呂であったまって出直してくるのだった。







お風呂から上がってテレビを見たり、おしゃべりをしたりしていると砂藤に出番だと呼ばれるんるんで向かった。デコレーション、ケーキを可愛く美味しく彩る大仕事が待っているのだ。
イブは甘いもの好きであるのと爆豪のなるべく手伝えという言葉通りに砂藤をよく手伝っており、可愛いもの好きの小森と連絡を交換してからは可愛いケーキの話になったり、写真が送られてきたりして生クリームのデコレーションに幅が広がっていた。


「なーイブー! イブはこの中でどれが好――」
「今話しかけないで! 大事なところなの!」
「おっ、悪ぃ!」
「バ上鳴。デコレーション中はイブに話しかけちゃダメって言ってるじゃん」
「うっかりしちまったんだって! イブの異性の好みとか気になるじゃん?」
「まぁ、それは……うん」
「だろぉ!?」

デコレーション中のイブに話しかけるべからず。デコレーション係はイブというのが定着してから新たに加わったルールである。
繊細な生クリームのフリルを生み出し、リボンだ薔薇だとそれはもう芸術品である。ただそれに一生懸命になるあまり普段あまり怒ったりしないイブが邪魔をされると怒るのである。集中力が大事なのだ。集中力を養うのにも役に立っているため、爆豪がいるときはイブの集中を途切れさせてなるものかと鬼のように目を光らせていたのだった。


「ふぅ……」
「おお、回を追うごとに上達していく……すげぇ高そうなケーキに見えるぜイブ!」
「たかそうじゃなくてたかいんだよー! お値段付けたらいちおくえんなんだから!」
「い、1億円……!?」
「さとーくんのケーキはそれくらいするもん!」
「イブ……!!」
「ふふ、まだ完成じゃないよ! いちご今日はハートにするんだー!」
「おう! 俺に任せろ!」

そうして出来たいちごの生クリームのケーキは今までで一番豪華で可愛かった。ハートに飾り切りされたいちごというのも女性陣のうけが良く、あとは爆豪と轟が帰ってくるのを待つだけであった。







帰ってくる時間が近くなるとイブは外に出て爆豪たちを待っていた。予定の時間になっても帰ってこず、何かあったのではないかと心配した。みんなが中に入るように声をかけるがイブは「ここで待ってる」の一点張りで。心配した八百万が「せめてこれを」と持たせてくれた毛布に包まっていた。ようやく二人が帰って来たのはそれからさらに30分後のことであった。


「かっちゃーー! とどろきくーーんっ!」
「は!? おまっ」
「イブ……俺たちのこと待ってたのか?」
「(冷てぇ……)待つなら中で待ってろ! 風邪ひくだろうが!!」
「だってえええ! 待ちきれなかったあああ!」

爆豪にどかーんと突撃し、怒られてぴいいっと泣くイブに轟が「あんま怒ってやんなよ」と口を出した。「ああ゛!?」と声を荒げる爆豪に轟が「あれ見ろ」と指さした先にはA組の面々を模した雪だるまがいた。


「……雪だるま見てほしかったんか」
「だってえええ! 素通りはかなしいよおおお」
「お前素通りって言葉知ってたんか。そっちに驚きだわ」
「ありがとな、イブ。よく出来てるじゃねぇか。この目の角度とかいかにも爆豪って感じだ」
「おい、そりゃどういう意味だ轟ぃ?」
「? 特に深い意味はねぇぞ?」
「えへへ、自信作なんだよ。みてみて、とどろきくんのも! ももちゃんにちゃくしょくりょーだしてもらったの!」
「お。俺だ」
「着色料だけ出してもらったみたいに言うけどな、これほとんどポニーテールのだろうがよ……ったく、おまえに甘すぎるわ」

当然のように爆豪がイブを抱きかかえて寮に入ろうとするのを突っこむ者はいなかった。帰ってきてみんなが「おかえりー! どうだったー!?」と声をかけ「余裕だわ!」「受かったぞ」と二人が短く返答する。
爆豪は心配して近くで様子をうかがっていただろう八百万に「冷えてやがるからさっさと風呂入れろ」と押し付ける。イブが慌てて「ケーキ! ケーキ作った!」というので「風呂入ってからな」と「お」と言う轟を無理やり風呂へ連行したのだった。







「かっちゃー! とどろきくん! かりめんおめでとーーー!」

イブのお祝いに続くように皆が「おめでとーーー!!」と声をそろえた。
えらく気合の入ったケーキに轟が目をぱちぱちとさせ「買ってきたのか……?」と言うと砂藤が得意げに「俺とイブの合作だぜ!」と笑った「イブ! ちょー気合いれた!!」ドヤ顔である。「すげぇな」と轟が素直に感心するのだった。


「……まぁ、よくできてンじゃねェの」
「!! かっちゃんが褒めてくれたーー! わーーいっ!!」
「おー! よかったなぁ!」

お味ももちろんパーフェクトに美味しかった。
そして二人の帰りが遅れた理由が、なんと仮免取得からわずか30分後に敵を退治したからだと知るとそれはもうイブは「すごいすごい!! かっちゃんとどろきくんかっこいーー!!」と大はしゃぎするのであった。


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