クリスマス・イブ


『イブちゃん、お誕生日おめでとう!』
「ありがとー!」
『寮の方にいちご送っといたからあとで確認してね』
「ほんと!? ありがとう! 大事に食べるねー!」
『うんうん。それじゃいい誕生日を』
「ありがとうホークス! またねー!」

もうありがとうしか言っていない通話が終わった。今日はクリスマス・イブ。イブの誕生日である。それもあってクリスマス会の方を次の日のクリスマスにずらし、イブの今日はイブの誕生日会兼クリスマス前祝いが行われようとしていた。


「イブー! 誕生日おめでとー!」
「お。おめでとーイブ!」
「ありがとー!」
「クリスマスイブが誕生日ってなんかすげぇよな。そりゃ個性女神なわけだわ」
「えへへ……! ちょっと照れちゃう」
「葉隠がなんか張り切ってたよ。髪とかいろいろしたいんだって。あとで葉隠のとこ行ってやんな」
「え、嬉しい! すぐ行くーー!」
「おお、速ぇ。もう行っちまった。一つ年を取ったからって落ち着きはでねェなァ……」
「まぁイブだし。急に落ち着かれてもそれはそれでなんか嫌じゃね?」
「言えてる」

上鳴たちはイブが落ち着いた姿を想像していやなんかやっぱ違うなという結論に達した。無邪気だからいいのだ。というか落ち着いてしまったらなんだか雲の上の存在になったような気がして寂しい。女神様らしくいられるのもちょっとな、って感じである。







「イブ、いいところに来た。誕生日おめでとう。俺と黒影からだ」
「! ありがとー! おにーちゃん、ダークシャドウ! 開けてみてもいい?」
「かまわん」
「何かな何かな……ふぉ!! かわいい!!」
「お前も今や闇の力を宿せし者だ。こういったものを持っていてもいいだろう」
「うん! とってもお気に入り! ありがとー!!」
「気に入ったのであれば何よりだ」
「イイってことヨ!」

常闇と黒影からもらったのは細身のブレスレットだった。宝石を模しているのか赤いものがキラキラと小さくいくつかついている。なんだかとってもおしゃれだった。







「とーるちゃ〜! 来たよ〜!」
「いらっしゃいイブちゃん! さ、座って座って!」
「おじゃましまーす!」

葉隠はイブの手につけてあるブレスレットのデザインから察して「お兄ちゃんから?」というと「うん!」と嬉しそうな返事が返ってきた。「よかったね〜!」と言いながら自身も誕生日プレゼントと称してクッキー缶を出すのだった。


「わぁあありがとー! 一緒に食べよ!」
「え〜! それイブちゃんのプレゼントだよ〜!」
「一緒に食べたがおいしいよ〜!」
「もう、しかたないなぁ。じゃあお言葉に甘えて!」

そうやってお茶をしている間に誰から何をもらったとか、何を言ってもらったという話になった。イブはA組の末っ子兼マスコットであるからかプレゼントを何かしら用意してくれていたのだ。中でも八百万のプレゼント量はすごかった。あれもこれもと決めきれず、結局全部と結論を出し可愛いお洋服だ、ヘアオイルだ羽専用のブラシだお化粧品だとたくさんであった。幸い、イブの実家のようなものである雄英には以前住んでいた部屋も好きに使うことができるため収納には困らなかった。
轟は十割そばというものをくれた。「これうめぇから」という轟の顔はなんだかいつもより輝いていた。箱に入っていたので食べるときは轟も誘おうと思っている。砂藤と麗日も同じ食べ物系だった。麗日はお餅だったし、砂藤は手作りのお菓子をくれた。なんだかクリスマスを先取りした気分である。

話もひと段落したところで当初の目的を果たさんと葉隠がイブの髪を整えていった。


「うーん、ハーフツインのままでもかわいいけど、やっぱりお団子にしよっかな!」
「お団子ー?」
「そう! そんでリボンをつけて〜……うん! ちょーかわいい!」
「お〜! かわいー!」

鏡に映った髪にイブはきゃっきゃっとはしゃぐ。「せっかくの誕生日だもん! おしゃれしなくちゃね!」と葉隠は笑うと八百万からの誕生日プレゼントの中にあったメイク道具を取り出してお化粧までしてくれた。「なんだかイブちょっとお姉さんになった気分」というと「なったんだよ」と葉隠はくすりと笑った。
そんなことをしているとイブのスマホが鳴る。物間からだった。


「ものまくん……?」
「(きゃー! 物間くんやるじゃん!! 誕生日だってしってたんだ!)なんてなんて!?」
「えっとね、あとでちょっと寮にこれないかって」
「行こう!!!」
「わっ! どうしたのとーるちゃん」
「行こう!! 絶対行くべきだよ!!」
「う、うん……わかった」

葉隠の勢いに押されて頷くと、善は急げとばかりに葉隠にあれこれ整えられ、行ってらっしゃいと送られた。早業だった。







「おい待て」
「あ、かっちゃん」
「どっか行くんか」
「うん、B組の寮に行くの!」
「B組ぃ〜?」
「ものまくんにお呼ばれしたんだぁ」
「物真似野郎……?」

爆豪は神野のことを思い出し、その後のあれそれも見ていたため大体の事は察した。正直よりによってあいつかよと思わなくもないが、現状イブにそういった感情を向ける野郎の中では悲しいことに比較的マシであるのと、イブも嫌ってはいない様子から黙認することにした。


「……暗くなる前に帰って来い。遅くなんなら送らせるかうちの奴らに連絡しろ。いいな」
「はーい」
「それとこれ巻いてけ」
「……う? マフラー……? あれかっちゃんこれすごくかわいいよ? かっちゃん使ってるの?」
「ンなわけあるか」
「…………はっ! イブにプレゼント!?」
「……気に入らなかったら捨てろ」
「お気に入り!! ありがとーかっちゃん!!」

さっさと爆豪は背を向けていってしまったが、イブのおっきなお礼は聞こえていた。蔭から見守っていたA組の面々は「爆豪も素直じゃねぇな」「まぁ、渡せただけいいだろ」「てか爆豪センスいいよね……イブに似合ってる」「才能マンだ才能マン」なんて話していた。







「おじゃましまーす!」
「あれイブ? どうしたんだ?」
「ものまくんにお呼ばれしたのー」
「物間が!!?」
「え、物間!?」
「ほんとにそれ物間!?」
「う、うん……」

拳藤が出迎えてくれたのだが、物間に呼ばれたというと拳藤と近くにいた回原と円場が信じられないものを見るような顔で聞き返してきた。ものまくんなんかいろんな反応貰うなと思っていると、物間が慌ててやってきて、囲まれている様子に「げ」と苦虫を嚙み潰したような顔をした。


「物間お前……やっと素直になったのか……!!」
「長かった! 長かったなぁ……!」
「ちょっとイブ、本当にこいつでいいのか? イブならもっと良い奴がいると思うんだけど――」
「う?」
「ちょっと! やめてくれる!? まだそういうんじゃないんだって」
「「「まだ」」」
「ああもう、とにかくほっといてくれる……!?」

火の粉を払うように三人を追いやり物間はイブに改めて向き直ると顔を赤くして、消え入りそうな声で言った。


「髪、かわいい」
「とーるちゃんがしてくれたの! イブもかわいいって思ってごきげんなんだぁ」
「かわいくしてもらってよかったね。誕生日、おめでとう」
「ありがとー!」
「これ、君に。気に入るかわかんないけど……」
「いいの?」
「うん、君の為に用意したものだから、受け取ってもらわないと困るかな……」
「開けていい……?」
「いいよ」

紙袋の中に入っていたのは中身が見える透明な箱に入ってラッピングされたテディベアだった。ずいぶんとかわいいそれにイブが感嘆の声を上げる。可愛いと大はしゃぎであった。


「気に入ってもらえたならよかった。君の部屋ぬいぐるみ意外と少なかったから……どうかなとは思ってたんだ」
「あーそれね、こうちょーせんせーがね、動物のぬいぐるみもってるとちょっとごきげんななめなの」
「(こ、校長……)へ、へぇ……」
「だからほんとはこういうの大好き。ありがとう! 大事にするね!」
「……うん」

なんだかとってもいい雰囲気では、と拳藤たちが子唾を飲んで見守っていた。

その後「俺もお兄ちゃんだから」といって黒色がプレゼントをくれたのだが……常闇とダダ被りであった。やはり深淵の理解者とはこういうものなのだろう。イブは被ったと落ち込む黒色に「でもこれ色違いだよ! こっちは紫!」とにこにこしてもう片方の手に付けたものだから黒色も笑った。優しい妹である。

それはそれとして夕飯前に帰ったにも関わらず「遅ェ」と爆豪に怒られるのだった。


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