大晦日


大晦日一日だけの帰省が許された。根津と先生方の配慮である。
皆が実家に帰ろうとする中、イブは少ししょぼくれていた。イブの実家は雄英である。寮生活になって集団生活になり賑やかにすごしていたこともあって、なんだか一気に寂しくなったのである。

けれどそんなイブに思ってもみない救いの手が差し伸べられた。


『イブちゃん、常闇くんから聞いたよ。みんな大晦日帰っちゃうんだって? 俺んとこ来る?』
「!!! 来るーーー!!」

秒で返事した。元々インターンの再開、今度は必修というのもあってホークスのところで常闇とお世話になるのは決まっていたのだ。
相澤たちも生徒の引率で忙しくしているし、同じく雄英預かりのエリちゃんと遊んでもらうというのも些か不安が残った。もしかするとエリちゃんの方がしっかりしているかもしれない。そんなこんなでホークスがいいならとイブの大晦日の帰省はホークスと過ごすことになったのだった。







「ホークス!」
「おっ……と」

ホークスの事務所の最寄りの駅につくとホークスが待っていてくれた。イブはびゅーんっとホークスに突撃するとホークスも受け止めてくれた。引率してくれたミッドナイトが「ホークス、よろしくお願いするわ」とお願いするとホークスも「任せてください」と笑った。最後にイブに「じゃあ私は帰るけど、また明日迎えに来るからいい子にしてるのよ」と声をかえて戻っていった。「ありがとー! ミッドナイトー!」ミッドナイトがいなくちゃ福岡までたどり着けなかった。本当に感謝だった。


「さて、まずは荷物を置きにいこっか。重いでしょそれ」
「重い!」
「持つよ」
「ありがとー!」

こっちだよとホークスに案内される。ホークスは相変わらず人気者で道行く人がホークスに声をかけていた。隣にいるイブを見て「妹?」と言ったり、「もしかしてホークスの好きぴ?」と言ってくるギャルもいた。イブは好きぴの意味がわからなかったがホークスが「そうそう」と肯定していた。その間なんだかホークスがいつもと違った。イブを抱きしめたり、手を繋いだり、頭にキスをしたりとなんだかとっても変だった。


「ねぇホークスこれツブヤイター上げていい?」
「はは、いいけどそれ明日以降にしてくれる? デートできるの今日だけなの」
「七夕じゃん?? おけまる!」
「あざまる〜」

イブにはもう呪文のように聞こえた。「たなばた? おけまる? あざまる?」「あはは、ほんとかわいいなぁ」なんだかホークスもいつもと違う。イブは違和感を感じながらもホークスについて行くのだった。







「はいここが俺の家、適当に寛いでよかけん」
「おじゃましまーす」

ホークスのお家は思ってたよりこじんまりしていた。とても庶民的。なんだか落ち着く。
テレビをつけて大晦日のバラエティ番組を見たり、ホークスが予め買っておいてくれたいちごに練乳をかけてつまんだりとまったりすごした。


「イブちゃんそば食べれる? うどんの方がよか?」
「あ! あのね、イブとどろきくんにもらったじゅうわりそば? っていうのちょっと持ってきたの!」
「轟……エンデヴァーの息子さんの。十割そばってそれはまた本格的な……」
「箱でもらったからいっぱいあるの。ホークスもたべよう! とどろきくんのおすすめ!」
「じゃあお言葉に甘えて。湯がいたげるよ」
「ありがとー!」

そうして湯がきあがった十割そばに天ぷらなどをトッピングして年越しそばができあがった。ホークスと舌鼓を打ちつつ、そばに並々ならぬこだわりのある轟のおすすめとだけあってとても美味だった。
ホークスに対しての先ほどの違和感はなくなり、いつものホークスに戻ったこともあり、イブはらしくもなくした緊張をほぐして文字通り羽を伸ばしていた。


「イブちゃんの羽、俺と同じやけどやっぱ質感とかは違っとるね。艶々しとう」
「ふふん、毎日ブラッシングしてもらってるの! オイルもちゃんと使ってるんだよ!」
「へぇ、そりゃすごか。日々の積み重ねたいね。俺も頑張ってみるかぁ……」
「あ、あるよあるよ! オイルもブラシも持ってきてるの! イブがやったげる〜!」
「ええ……それはさすがに俺捕まらん?」
「? なんで?」
「あ〜……眩か……」

どこまでも純粋なイブに降参した。結局やってもらった。ブラッシングなんてしたことがなかったホークスには未知の体験であったし、これが意外とよかった。羽艶もよくなった上に心なしか剛翼がいつもより軽い気がした。思わず感動するとイブがどやっとしていた。可愛かった。


「ホークスもイブのして!」
「ええ……大分絵面やばいと思うんけど……」
「? よくわかんないけど、こういうのは一日さぼると三日取り戻すのにかかるんだよ。かっちゃんがいってた!」
「出たばいかっちゃん。パパの言葉ならしかたなかね」
「しかたないー!」

ごろんとつい膝に横になろうとして止まった。そうだホークスも男の人だと思いなおしたのである。教育が行き届いている。固まってちゃんと座りなおすイブにホークスも思わずくすりとした。
そうしてブラッシングしてやるといつの間にかイブは寝てしまい、年越しのカウントダウンをホークスは一人起きたまま迎えたのだった。


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