また人質にされた


敵の襲撃から2日後、イブたちは再びUSJを訪れていた。敵の襲撃で行えなかった救助訓練を行う為である。
最初は山岳救助である。訓練想定は登山客3名が誤って谷底へ滑落、2人が足を骨折し、1人が意識不明の重体であるというもの。飯田と麗日、緑谷の3名が要救助者役に任命された。最初の一組目は爆豪、轟、八百万、常闇の4名であった。

轟と爆豪の反りが合わず爆豪が轟にキレてかかると八百万が一喝した。最初にやるべきことを説き、真剣に取り組む姿にイブは尊敬の眼差しを向けるのだった。
それ以後は大変手際よく進んでいき、爆豪も普段の自己主張とは裏腹に自分の個性がここでは役に立たないのを理解して黙って引っ張り上げる役に専念していた。それを13号が高く評価し、イブは「かっちゃんすごいねぇ!」とにこにこした。うるせぇとキレられた。


「俺思ったんだけどこれイブが下まで行ってさ、ぱぱーっと治して引き上げるのがよくね?」
「俺もそれ思った。イブやれそうか?」
「えーっとね…………ムリカナ。クライ。コワイ」
「谷けっこう深いもんなぁ……」

イブたちのチームは切島と上鳴、それから砂藤だった。名案だと言わんばかりに上鳴が提案したのはいいが、谷底をみたイブが恐怖で固まってしまったのだ。


「あーうん、暗いもんなぁ……怖いならしゃーねぇ、別の方法考えようぜ」
「いい案だと思ったんだけどなぁ……」
「いやおめー何のために無駄に輪っか光らせてんだよ!? つかアホ面いんだから明かりくらいどうとでもできんだろーが!!」
「あ、マジだ。俺ライトになるわ! イブ一緒にいこーぜ! 一緒なら怖くねーだろ!?」
「う、うん……」
「爆豪さんきゅーな!!」
「ちったぁ頭使えバカ共が!!」

あまりのバカさ加減に突っ込まずにはいられなかった爆豪が援護射撃をしてくれたおかげで救出案がまとまった。
飛べるイブはそのまま谷底へ降下させ、救命用のボートを力自慢の砂藤と切島が動かし、上鳴がそのボートに乗って発電し照らす。要救助者と接触出来たらイブは治療をし、そのままボートで引き上げていくというものだった。


「よっしゃ行くぞイブ! 大丈夫だ俺に任せろ!」
「う、うん!」
「上鳴大丈夫なのー? アホになってイブ不安にさせんなよー」
「耳郎それは余計な心配だっての! これくらいの発電でアホにはなんねぇ!」
「まぁさすがにそうだよな。イブ、今回はこいつ信用していいから頑張んな」
「がんばる……!」
「ひでぇ言われよう……」

その後実際にうまく行き、イブたちは無事に要救助者を救助できたのだった。13号ももれなく子供の頃から面識のあるヒーローである。イブが無事に救助を終えたことにじーんとなっていた。

そして次の訓練、倒壊ゾーンへ移動する。倒壊ゾーンでは爆豪、緑谷、麗日、峰田の4人がヒーロー役で他のメンバーは被災した要救助者という設定だった。芦戸が言っていたが要はかくれんぼである。
イブは敵に襲われた嫌な思い出のある倒壊ゾーンでびくびくしながら一人隠れていた。そのとき、轟をぶら下げながらイブに向かってくる影があった。








「うわあああんんっ! 救けてえええ!」
「イブちゃん!? って轟くんも……!?」
「クラスで一番強いのが……!」
「またお前人質になっとんか!!! ちったぁ学習しろや!!」
「かっちゃあああんんっ! このヴィラン眠ってくれないのおおお! とどろきくんも起きてくれなくてえええ! イブちゃんとがんばったんだよおおうわあああんっ」
「!?(あいつの願い事が効いてねぇ……!?)はっ! ぶっ殺し甲斐があんなぁ!?」

2日前の残党が息をひそめていたようで、イブはあっさりと捕まってしまった。
イブはクリーム脳だったがA組のみんなのことは大好きである。大好きなみんなが褒めてくれたのが嬉しくてイブはちゃんと爆豪に言われた願い事を覚えていた。あっさり捕まってしまったが、それでも「とどろきくんが起きますように」「敵が眠りますように」「みんなが無事でありますように」とずっとお願い事を続けていたのだった。だが轟は起きなかったし敵が眠ってくれることもなかった。

1年A組みんなが立ち上がってヒーロー志望らしく立ち向かったが敵の力は強大でろくに近寄ることすらできなかった。隙をついた爆豪が果敢に挑むも簡単にいなされてしまう。爆豪が吹っ飛ばされたのを見たイブが更に泣き出した。


「わああああかっちゃんに意地悪しないでえええ!」
「はっはっはっ! うるさいなぁ! 黙らないなら痛い目にあわせてやる!!」
「うわあああんっ! こわいいいいいっ」
「ダメだイブパニックになってる!」
「イブ大丈夫だ! 爆豪ピンピンしてる! すぐ救けてやるから落ち着いて待ってろ! 大丈夫だから!」

わんわん恐怖でパニックになって泣くイブをどうにかして落ち着けようと八百万が創造をする。先ほどの山岳救助でやったとおり真っ先に要救助者であるイブの気を落ち着かせることが迅速な救助に繋がるのだ。
イブが目を引くように大きなものを創造する。大きなものを創るほど時間がかかるということを知っているクラスのみんなが八百万が創造する時間を稼いだ。


「できましたわ……! イブさん! 大きなクマさんですわ!!」
「ひっく……う? わぁ……!」

大きな大きなクマのぬいぐるみに目を引かれたイブが一瞬恐怖を忘れて目を輝かせた。クリーム脳でよかった。「すごぉーいっ! おおきー!」と無邪気に喜ぶイブに今だとばかりに爆豪の爆破を目くらましに姿を消して近寄っていた切島がイブを保護した。


「大丈夫か!? イブどこも怪我してねぇか!?」
「だいじょーぶ! 救けてくれてありがとうっ!」
「おう!」

切島がイブを救出した直後に轟の方も緑谷たちの連携で救出に成功した。緑谷が敵に衝撃波を放ち追い込もうとするが吹っ飛ばすにはいたらず、爆豪が飛び出した。その瞬間イブは考えるより先に無意識にお願いしていた。


A組みんなが勝ちますよーに!!」

眩しい光があたりを満たし、爆豪が近距離で爆破した敵は見事みんなが仕掛けた罠にかかり身動きが取れなくなったのだった。


「トドメだ! クソ敵!!!」
「ま、まて! わ、私……私が来てたあああ!!」
「「オ、オールマイトォ!!?」」
「ふぇええ!? オールマイト敵だったのぉ!? イブ怖かったんだよおおお!」

超パワー敵はまさかのオールマイトだった。先ほどまでの恐怖とオールマイトだったという安心感からまたしてもわんわん泣き出したイブを八百万と蛙吹が慰めるように抱きしめた。
オールマイトは先の襲撃を事故や偶然と思わず、ヒーローには絶えず危険が付きまとう。そのことを自覚してほしいと、トラウマになりかねないと反対した相澤を押し切ってトラウマを乗り越えてほしいとオールマイトなりに考えたことなのであった。

だがいくらなんでもやりすぎである。イブなんかは爆豪から教えてもらったお願いを実践したのに通用せず、いつもは頼りになるはずの轟もぐったりした様子で治すことも、起こすこともできず、人質にされ超パワーを身近に感じ、大好きなクラスメイトたちが吹き飛ばされていく様子はまさにトラウマだった。
わんわん泣くイブを見てオールマイトどうすんだ! とばかりにみんなで詰め寄る。さすがのオールマイトもまずいやりすぎた……! と思いどうしようかとあたふたしていると、その時意外にも爆豪が立ち上がった。


「おい羽っ子! おまえ意外とやるじゃねェか」
「わああんっ……ぐすっ、う?」
「敵が眠らなかったのは敵じゃないオールマイトって個性が認識してたからで、半分野郎が起きなかったのもそもそも気絶なんざしてなかったからだろ。ンで俺らは派手にやりあったわりにほぼ無傷。これお前が願ったからだろ」
「そうだぜイブ! 捕まってる間も俺らの無事願っててくれたんだよな! ありがとな!」
「イブさん、守ってくださってありがとうございます」
「ケロケロ、イブちゃんの力とっても優しいのね。私たちも守られてたわ」
「うっ……うわーんっ!! みんながぶじでよかったよおおおおっ」

その様子を13号と見ていた相澤は一息ついた。イブの精神面は他の生徒よりずっと繊細で丁重に扱う必要があった。なにせヒーローになりたいのではなく、ヒーローになるしかない子なのである。イブの来歴を知っている相澤はおそらく何よりクラスメイトたちがイブを成長させることを予感していた。
その後責任を感じたオールマイトがイブにたくさんのイチゴを持ってきた。大好物を山ほどもらいイブはとてもご機嫌であったとさ。


戻る top