一緒に頑張る


「イブちゃ〜ん、いい子だからこっちに来ようね〜」
「……やだ。ホークスがいい」
「エンデヴァーだってかっこよさならホークスに負けないぞ〜!」
「ホークスのがかっこいいよ」
「いちごもあるよ〜、こっちに来てみんなと食べようね〜」
「……いらない」

炎のサイドキッカーズ全滅である。ホークスに捨てられたというのがイブの心に暗い影を落としていた。バーニンが思わず「ああもうっ! なんで私たちがこんなことっ」と声を荒げる。割と冷静で温和なキドウとオニマーがまあまあとなだめた。隅っこで丸まって羽に閉じこもっている姿はヒーロー活動でも見ることのある傷ついて心を閉ざした状態である。なんとかしてやりたいと思うのが本音であった。

そんな中轟が練乳といちごを盛った皿をイブの前に差し出す。なにも嫌がってるのに無理やりこっちに来させなくてもよくねぇか、好物のいちごは食べたいだろうから持っていくかといった感じである。苛烈なエンデヴァーの教育を受けてきた轟だからこその優しさであった。


「イブ、ほらいちごだ。これ食べて元気出せ」
「……あまおう?」
「あまおう? ってなんだ」
「福岡のブランドいちごのことだよ。あかい・まるい・おおきい・うまいの頭文字をとって名付けられてて、すごく甘くて大粒なんだよね」
「福岡のか……じゃあこれはたぶん違うと思う」
「……あまおう……」
「親父に頼んどくから今日はこれで我慢してくれるか? これも甘くてうまいぞ」
「……」
「おいわがまま言ってんな。苺には変わりねェだろ。わざわざおめぇのために用意してもらったもん粗末にすんじゃねェ」
「う……むぐっ」
「よぉし、よぉく味わって食えよ。NO.1が用意した苺だかンな。ちゃちなもんじゃねェだろうよ」

爆豪が無理やりイブの口に練乳をかけたいちごを突っこんだ。もきゅもきゅと咀嚼するととても美味しかった。あっという間に一粒食べてしまい、また次を爆豪が突っ込んで咀嚼して飲み込んで、また突っ込んでとしていると完食したのだった。


「うまかったか?」
「うん、おいしかった」
「エンデヴァー来たら礼言えよ」
「いうー」

爆豪の面倒見の良さにバーニンたちは思わず「意外だわ」と口にした。緑谷がそれを「イブちゃんが特別なんです」と笑うのだった。なにせパパである。
丁度エンデヴァーが戻ってきて四人は自分が見るという。息子の轟しか興味がなかったはずで、預かったイブだって保護のようなものだったのに、少しの間に何かが変わったようだった。


「エンデヴァー……いちごありがとう、おいしかった……です」
「……あまおうが好きらしいな」
「え、あ……うん、はい。あ、でもこれもおいしかったよ……です」
「ホークスから手紙が同封されていた。お前の好きなもの、嫌いなもの、個性、できること、できないこと。それから……一時的なものだと念押しされた」
「え……?」
「捨てたわけではない。あれには事情があって今は一緒にいることができないそうだ。全部終わったら迎えに来ると書いてあった」
「迎えに……ううっ、うわあああんっよかったよおおお!!」

ほんとうは書いてあったというか、暗号で知ったのだがそれはどうでもいいことである。連合軍の狙いの一つが天廻イブであった。ホークスが超常解放戦線の情報をここまで得たということは、ホークスが連合に近づいたということである。妙に公の場でイブにベタベタしていたのは問題視されることでホークスの繋がりを利用してイブと接触させないためであったのだ。
そして今最も安全であろうエンデヴァーの庇護下に置いた。捨てたなんてとんでもない。大事だからこそ手間暇かけてエンデヴァーに託したのだ。


「よかったねイブちゃん!」
「うんっうんっ」
「それはそれとして焼き鳥は食うけどな」
「親父、いちごもあまおうに変えてやってくれ。ホークスがイブの誕生日に贈ったいちごの方がうまそうに食ってた」
「イブ今日のいちごもおいしかったよ、大丈夫だよ」
「かまわん。苺のブランドくらい好きにしなさい」
「はわわ……じゃああまおうで……!」

意外とエンデヴァーは優しかった。イブの個性をとりまく事情については以前から知るところであるし、それにイブには九州でハイエンドと戦った時に出来た傷を癒してもらったという借りがあった。それを思えばおやつのリクエストくらい何でもない。エンデヴァーとて轟が来ると決まって食堂の全てのメニューにそばをセットに出来るようにしたくらいである。なんてことなかった。

その後緑谷と爆豪に自身の課題、出来るようになりたいことを問い、緑谷はとんでもなく長い自己分析の果てにエンデヴァーに要約され、爆豪も逆に何が自分に出来ないのかを知りにきたという。NO.1を超える為に足りないものが何なのかを見つける。そして赫灼の習得が目的であると分かっているため最初から聞く気がなかった轟も、改めて意思表示をするのだった。自分が憧れたのはお母さんと二人で見たテレビの中のオールマイトで、ヒーローのヒヨっ子としてヒーローに足る人間になるためにNO.1のエンデヴァーを利用しにきたのだと宣言した。

エンデヴァーは轟が自分の意志で自分の下に来た時、いくらかでも心を開いてくれたのだと勘違いをしていた。自分が愚かだったと認め、NO.1ヒーローとしてちゃんと接することを決めた。


「ああ、ヒーローとしておまえたち・・・・・を見る」

NO.1の下でのヒーローインターンが始まった。


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