伝えるって大事


「はわわ……! イブお友達のお家にお呼ばれするのはじめてー!」
「よかったね、イブちゃん!」

エンデヴァーの下でのインターンが始まって一週間、なんとイブたちは轟家に夕飯のお招きをされていた。イブは初めての経験に大はしゃぎであったが、爆豪の機嫌は悪かった。


「忙しい中お越し下さってありがとうございます。初めまして、焦凍がお世話になっております姉の冬美です!」
「わぁあ! とどろきくんのおねーさん! イブです! よろしくおねがいします!」
「うんうん、よろしくねぇ! 突然ごめんねぇ、今日は私のわがまま聞いてもらっちゃって」
「何でだ……」
「嬉しいです! 友達の家に呼ばれるなんてレアですから!」

友だちのお姉さんってなんだかとっても新鮮。そわそわしちゃう。イブはパタパタと冬美の後をついて行っていて、早くも懐きかけている。冬美のお姉さん力を察知したのだ。なんだかとっても優しそうなお姉さんとの出会いに感謝である。


「夏ー! 焦凍のお友だちがいらっしゃったわよー」
「あ、うん」
「とどろきくんのおにーさん?」
「う、うん、俺は夏雄。よろしく」
「イブです! よろしくおねがいしまーす! いいなとどろきくんおにーさんもおねーさんもいるー!」
「そうだな。でもお前にもいるぞ。常闇も八百万も蛙吹もそんな感じだろ?」
「くろいろのおにーちゃんもね。ふふ、イブにもたくさんいる〜」
「おお……随分無邪気な子なんだな」
「うん。すげぇ無邪気」

それなりの年数の記憶がほとんど抜けているもので、校長の教育あってか随分無邪気でのびのびとした性格に育ったのである。夏雄は最初イブのびっくりするほど整った顔と、艶やかな羽だ輪っかだといった姿を見てすごいのが来たなと一瞬身構えたのだが、これまたびっくりするほどフレンドリーで拍子抜けした。これじゃ焦凍に彼女かとからかえもしなかった。







「いただきまーす!」
「食べられないものあったら無理しないでね」
「どれもめちゃくちゃ美味しいです! この竜田揚げ味がしっかり染み込んでいるのに衣はザクザクで仕込みの丁寧さに舌が歓喜の――」
「飯まで分析すんな! てめーの喋りで麻婆の味が落ちる」
「イブねこれ好き! エビの入ったスープ!」
「ブイヤベースね! イブちゃんフランス料理が好きだって聞いたから作ってみたの。気に入ってもらえて何よりだわ」
「とってもお気に入り! ふゆみおねーさんありがとー」
「どういたしまして〜」

気に入って喜んで食べていたが、野菜だけ避けているのに気付いた爆豪が「野菜も食え!」と口出ししてきた。イブはしぶしぶ口に運んだが、これが意外と美味しかったので混乱した。


「野菜なのに……おいしぃ!?」
「味が染みてるからだね! ブイヤベースって寄せ鍋料理だし、ローリエが効いてるから野菜嫌いの人が苦手と感じる臭みがとれてるんだと思うよ」
「ふぉおお……つまりふゆみおねーさんがすごい!」
「あらやだ褒めてもおかわりくらいしか出ないわよ」
「イブおかわりする〜! ふゆみおねーさんのお料理すごいね! ランチラッシュにも負けないくらい!」

実に美味しかった。長年ランチラッシュのご飯を食べているイブが言うのだから間違いない。イブの言葉に夏雄がどこか自慢げに冬美がお手伝いさんが腰をやってからずっと作っているのだと話した。ランチラッシュに負けないと言われたのが嬉しかったのかもしれない。
けれど冬美が変わりばんこで夏雄も作っていたと返すと、夏雄の雰囲気が変わった。自分のは味が濃かったからエンデヴァーが止めてたかもしれないと言って、空気がなんだかおかしくなった。


「焦凍は学校でどんなの食べてるの」
「学食で」
「気付きもしなかった今度……ムッ……」
「…………ごちそうさま。席には着いたよもういいだろ」
「夏!」
「ごめん姉ちゃんやっぱムリだ……」

夏雄は出て行ってしまった。イブは何が何だかよくわかなかったが、もしかして仲があんまりよくないのだろうか。イブはシーンとした食卓も落ち込んだような冬美の様子も耐えられず、パクパクとブイヤベースを口にして空っぽにした。


「ふゆみおねーさん、おかわりもらっていい?」
「え、ええ。もちろんよ! ついでくるね」
「ありがとー!」

爆豪と緑谷はおかわりをする元気のあるイブに内心ほっとした。イブは轟家の事情を何も知らないのだ。その上家族がどういうものかもおそらく理解していない。いきなりセンシティブなところを見せられて変な影響を受けないか少し心配であった。


「はい、ど〜ぞ」
「ありがとう! あのね、ほんとにおねーさんの料理おいしいよ。エンデヴァーもね、いちごたくさんくれたんだよ」
「? そうなの?」
「あ、ああ。色々あってな」
「イブはいちごが好きなんだけど、フランス料理も好きだよ。でもフランス料理好きってわかったの、ものまくんって人がこれおいしいよって教えてくれたからなんだ」
「あら、そうだったの?」
「うんうん、他にもね、さとーくんっていうお菓子作るのが上手な人がいてね、ももちゃんっていうお紅茶淹れるのが上手な人もいてね、みんなおいしいって言ったら、すごく喜んでくれるんだ〜」
「……そうだな。イブも盛り付けとか上手だ」
「うんうん、回を追うごとにレベルが上がってきてもうお店で出してあるものにだって引けをとらないよね……!」
「ふふ、そんな風に言ってもらうとイブもうれしい。だからえっと……これおいしいよって伝えたりするの、なつおおにーさんも笑っちゃうんじゃないかなぁ」
「(くっそ周りくでェ)」

なんかイブなりに色々考えていたことにちょっと驚いた。エンデヴァーが何かを考えるような表情をして、それから一言「冬美、いつもうまい飯をありがとう」と口にした。冬美は驚いたような表情をしたあとに笑った。
その後のご飯も会話を交えながらそこそこ楽しく終わるのであった。


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