イブにもいるのかな


ご飯を食べた後、イブたちはご馳走になったこともあり一緒に片づけを手伝っていた。積み重ねた食器を持ちながら、爆豪に「落とすなよ」と言われる。「気をつける」と言ってイブは細心の注意を払って持って行った。無事に置けた。

そうして爆豪たちと次の食器をまた持ってこようと戻ると、冬美と焦凍が何やらセンシティブな会話をしていた。


「客招くならセンシティブなとこ見せんなや!! まだ洗いもんあんだろが」
「ああ! いけない。ごめんなさいつい――」
「あ! あの! 僕たち轟くんから事情は伺ってます……!」
「俺ァ聞こえただけだがな! ってかこいつは何も知らねェわ!!」
「あ、イブちゃっ」
「……とどろきくんの火傷……そうだったんだ……」
「イブ……悪ィ、変なこと聞かせた」

イブがパタパタと駆け寄って轟の火傷の痕をよしよしと撫でる。「いたいね……ないないしよ?」「……いや、いいんだ。これは……背負っていくものだと思ってる」「……そっか」轟の言ってることはイブにはよくわからないけれど、ただの火傷じゃないんだということは理解した。

轟がイブも中途半端に知るよりはと話してくれていたのだが、あまりにリアル体験である。イブがパンクしないように爆豪がしょうがないとばかりにものすごく要約してイブにも概要を教えた。
エンデヴァーはオールマイト超えたくて最強の子どもを作ろうとしてやっと生まれたのが轟焦凍。でも苛烈な教育しすぎて母親が潰れてしまった。轟はそれで体育祭までエンデヴァーから受け継いだ炎を使わなかったというものだった。とりあえず理解した。


「晩飯とか言われたら感じ良いのかと思うわフツー。四川麻婆が台無しだっつっの!」
「え、でもイブブイヤベースおいしかったよ! また食べたいくらい!」
「おめーはほんとそういうとこクリームだよな!」
「いいクリームだよ!」
「あはは、二人とも……。轟くんはきっと、許せるように準備してるんじゃないかな」
「え」
「本当に大嫌いなら「許せない」でいいと思う。でも君はとても優しい人だから、待ってる……ように見える。そういう時間なんじゃないかな」

その後、轟家の長男の話も聞いた。亡くなってしまった燈矢。イブは思う。家族にはいろんな形がある。爆豪のところはお母さんが強烈で、お父さんは反対に穏やかな人。緑谷のところはお父さんが単身赴任でお母さんが心配性。他にもクラスのみんなの両親の話はちょっと聞いたことがある。轟の家はちょっと複雑だったけど、イブも……この世界のどこかに自分の両親がいるのだろうかと考えた。







「ごちそうさまでした!」
「ふゆみおねーさんまたね! またおねーさんの料理食べたいな!」
「今度焦凍が帰って来た時に持たせるわね」
「わーいっ!」
「四川麻婆のレシピ教えろや」
「うん!」
「俺のラインに送ってもらうよ」
「学校のお話聞くつもりだったのにごめんなさいね」
「冬美。ありがとう」

最後に冬美が緑谷に「焦凍とお友だちになってくれてありがとう」と笑った。そうして車に乗って雄英まで送ってもらうのだが、運転主がだいぶ強烈だった。「ケェーーーー!」と声を上げられた時には思わずびくっとしてしまった。でもいい人そうだった。







そして出発すると道路の真ん中に人が立っていた。エンディングと名乗るその敵は先に出たはずの夏雄を捕まえていた。人質である。まっ先に出て行ったエンデヴァーに続くように、エンディングの個性で白線に覆われた車内から脱出する。


「(願い事を具体的に……! みんなのサポート!!)敵以外誰も怪我しませんよーにっ! かっちゃんたちがもっと速く動けますように!」

意志を具現化する。追い風が吹くように爆豪たちのスピードが上がる。走行する車に向かって投げ飛ばされた夏雄を爆豪が救出し、エンディングが高い位置から落とそうとした車を緑谷が黒鞭で助けた。エンディングは轟が確保した。怪我人もいない。完全勝利だった。

夏雄を抱きしめるエンデヴァーはお父さんだった。爆豪が夏雄ごと抱きしめられた拘束から抜け出し、与えられた課題であったこの冬一度でも自分より先に敵を退治してみせろという言葉を復唱すると、エンデヴァーは見事だった、俺のミスを最速でカバーしてくれたとそれはもうしおらしかった。爆豪も言い返す気力を奪われた。


「夏雄……! 悪かった……! 一瞬考えてしまった。俺が助けたらこの先おまえは俺に何も言えなくなってしまうのではないかと……」
「え?」
「夏雄、信じなくてもいい……! 俺はおまえたち・・・・・を疎んでいたわけじゃない。だが責任を擦り付け逃げた。燈矢も……俺が殺したも同然だ・・・・・・・・・……!」
「疎んでいたわけじゃない……? だったらなに……? 俺はずっと燈矢兄から聞かされてきた。俺が許すときなんて……来ないよ。俺は焦凍みたいに優しくないから」
「……それでも。それでも顔を出してくれるのは冬美と冷の為だろう? あの子は家族に強い憧れを持ってる。俺が……壊したからだ。戻れる……やり直せると浮足立つ姉さんの気持ちを酌もうと頑張っているんだろう……!? おまえも優しいんだ。だから、俺を許さなくていい。許してほしいんじゃない。償いたいんだ」

どうしてもエンデヴァーの顔を見ると思い出してしまう夏雄。償うって何ができるんだと泣きながら叫ぶ夏雄にエンデヴァーは考えていることがあるという。その後エンディングが暴れたり警察が来たりで引き渡しがあるのだった。


「ねぇ、かっちゃん」
「んだよ」
「イブにもパパとママがどこかにいるのかな……?」
「あ?」
「いるならどんな人なんだろう……イブのこと、少しは思い出したりしてくれてるのかな……」
「……さぁな」

親子に、家族にこんなに関わるのは初めてだった。写真もない、お手紙だってもらったことない。記憶もない。どこにいるかなんてわからない。今まで気にしたことなかったけれど、なんだか自分の両親がどんな人たちなのか気になりだしたのだ。


「……お前雄英預かりだろ。校長とか、知ってんじゃねぇの」
「そっか……うん、聞いてみようかな」
「あんま期待すんなよ。今の今まで音信不通なんだからよ」
「……うん」

新学期が始まったら聞いてみようと思った。知りたい、イブはどんなパパとママから生まれたのか。血の繋がった家族がどんな人たちなのか。イブたちは今からでも家族になれるのか……そうじゃないのか。
――激動の新学期が始まろうとしていた。


戻る top