わりと結構真剣だよ


それから闇鍋に興味を示した鉄哲がB組の数人を巻き込んで味見をした。マズイといいつつなにかはまってしまった鉄哲が具材をすべて掻っ攫ってしまい、まだ食べていなかった爆豪たちはこのゲロマズスープを飲むことになったのだ。めちゃくちゃえずいていた。

その後、トイレといって離脱していたメンバーが帰ってきたが、もうスープも具材も残っていなかった。罰ゲームを逃れたのだ。それに納得できない物間が更にもう一戦と男子たちを巻き込みサウナ対決に繰り出していったのだった。


「サウナ対決だってー。熱いのガマンするの、何が楽しいんだろー?」
「おじさんとか、なんでサウナ好きなんだろうね?」
「ん」
「イブ結構好きだよ! ポカポカする!」
「え、イブ入ったことあんの?」
「あるよあるよー! こうちょーせんせいがね、作ってくれたんだー」
「ええ!? サウナを!?」
「こうちょーせんせいも寒いの苦手だから……あ、でも暑すぎるのもダメだからすぐ出てっちゃうだけどね」

根津はイブの養父のようなものである。当時番組でサウナの特集があり、何気なく「いいなぁ〜」とイブが呟いたのを聞いて作ってくれたのだ。他にもミニ遊園地、映画館気分を味わえるシアタールームも作ってくれた。イブが雄英から出られずともストレスをあまり感じていないのはこうした根津の細やかな気配りがあってこそだった。
これを聞いて、自分たちも利用できるかなという話になり、根津にお願いしてみることにした。お友だちと一緒ならきっと何倍も楽しいだろうから。

それからそれぞれの担任の良いところを離していると、なんだか急に眠くなってきた。







「イブ〜! 降りてきてくれ〜!」
「……私のツルで確保しましょう。少し、羽が傷つくかもしれませんが……」
「僕が治すよ。あの子の個性をコピー出来たらすぐ解決するだろうから」
「ええ、では……申し訳ありません、聖なる使者よ……私たちにどうかお力をお貸しください」

闇鍋を食べた者たちが皆昏倒していた。スープだけ口にした者たちは眠っているだけだったが、具材を口にした者は個性が暴走していたのだ。それも物間が小森がニガニガ茸を遠慮していれられなかったと勘違いし、入れてしまったキノコがニガニガ茸ではなく、コセイボン茸という毒キノコだったのだ。
例にもれず具材を食べてしまったイブも輪っかを光らせながら浮遊していた。何らかのお願い事をしている可能性があるため、無事だった上鳴たちは心配でならなかった。
麗日と同じように塩崎が飛んでいるイブをツルで捕獲する。すかさず物間が個性をコピーして治癒をかけた。


「…………」
「どうした物間? イブ起きねぇぞ……」
「……ダメだ。治癒が効いてない」
「ええ!?」
「コピーじゃ治らないってことさ。僕は個性の性質そのものをコピーできるけど、この子の個性は溜める系との混合でちょっと特殊でね。この子とまったく同じこと・・・・・・・・はできない」
「ってことは……イブたち助からないのか!?」

けれど小森がコセイボンボン茸を食べさせたら助かると教えてくれる。大体コセイボン茸と同じ場所に生えているらしい。物間が「僕が行くよ」と名乗り出た。こうなってしまった責任を取るためである。
話し合いの結果、物間と上鳴、尾白、青山、回原、小森で探しに行くことになった。外は猛吹雪で雪は三階分ほど降り積もっていた。
物間は役に立ちそうな個性をコピーしていく中で、円場のエアプリズンに囲まれたイブをもう一度見た。相変わらず輪っかが光っている。心配でしょうがなかった。「きっと助けるからね」エアプリズン越しに手を当てて呟いた物間を上鳴が意外そうに見ていた。







「回原、手を見せてくれ。治すから」
「おーありがとな」

雪を個性でかき分けて道を作ってくれていた回原の手は凍傷になっていた。コピーしたイブの個性で治癒をかける。暖をとる中、上鳴は意を決して尋ねた。


「物間はさ、その……」
「何?」
「イブのこと好きなのか?」
「……何かと思ったら、そんなこと」
「だってお前さっきイブのこと見てたろ……すげぇ心配してるみたいだったし、なんか前から怪しいとは思ってたけどさ。さっきの見たらそうなんじゃねーかなって」
「……だったらなんだい。別に誰を好きになろうと僕の勝手だろ」
「いや別に悪いとか言ってねぇよ!? いやしかし、イブかぁ……」

上鳴のしみじみとした様子に物間がイラっとした。回原はめんどくさいことになりそうな気配にため息が出たし、尾白も乾いた笑いがでてきた。青山は暖をとるのに夢中であったし、小森は少しわくわくした。


「何か問題でも?」
「問題っつーか、物間はイブのこと女の子として見てんだなって。うちじゃ末っ子とかマスコットって感じで恋愛対象っていう感じじゃなくて意外だったんだよ」
「……」
「別に悪いとはいってねぇぞ!?」
「何も言ってないだろ。……僕にとってあの子はずっと、可愛い女の子でしかないよ」

呆気にとられる上鳴をよそに「さ、行くよ」と声をかけて立ち上がる。回原は物間の自認に成長を感じたし、小森も機嫌がよさそうにのこのこ言っていた。尾白も驚いたものの、みんなを助けるべく立ち上がる。青山は話をあんまり聞いてなかった。
上鳴はなんだ、と思う。割と結構真剣な感じなのねとなんだか嬉しくなったのだ。

そして無事にコセイボンボン茸を見つけ、調理しみんなの口に入れることに成功した。しばらくして目覚めた面々にはブラドキングを悲しませたくないという物間の意図を汲み、みんなには鍋にあたったと説明することにしたのだった。







「……むにゃ? んん〜! よく寝た〜!」
「おはよう、寝坊助さん」
「あれ、ものまくんだ〜、なんでここに……あれ、たしか鍋食べてたような……?」
「闇鍋にあたってたんだよ。治癒とかしたけどどこか痛いところとかはない?」
「ええっそうだったの!? 助けてくれてありがとうものまくん! イブはもう平気!」
「そう……輪っかがずっと光ってたから気をつけてね。もしかしたら何か忘れてるかもしれない」
「そうなの? あとで日記帳見てみるね」

幸いにも日記帳を振り返っても忘れていることはなかった。そんなに大きなお願い事はしていなかったらしい。

けれど翌日エンデヴァー事務所から大量のいちごが送られてきた。なんでも仕事の関係で山ほどいちごを貰ったらしい。しかもピンポイントであまおうである。イブが好きだからとわざわざ大量の練乳と一緒に送ってくれたのだった。


「おめェ……願い事ってぜってぇこれだろ」
「イブもそう思う」

まぁ、闇鍋でせっかくのあまおうを無駄にしてしまったので……無意識のうちに美味しいあまおうがたくさん食べたいと願っていてもおかしくなどない話であった。
もらったいちごはみんなで美味しくいただいた。


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