崩壊していく


3月下旬、大規模な掃討作戦が行われた。ホークスからの情報を受けヒーローたちが決起したのだ。その作戦には雄英のインターン生たちも参加していた。


「いい? エンジェリング。あなたは連合の狙いの一つでもある。決して私たちヒーローから離れないで、一人になんてなっちゃダメだからね」
「うん、わかったよバーニン。イブ離れない」
「わかったならよし! みんなもエンジェリングのことお願いね!」
「もちろん!」
「はい」

エンデヴァー事務所にインターン中の轟、緑谷、爆豪とリューキュウ事務所にインターンをしている麗日、蛙吹、波動。マニュアル事務所にインターン中の飯田、他にも口田などがイブと一緒に蛇腔病院側の後衛部隊に配属されていた。


「ホークスがイブをエンデヴァーのところに預けたのって……こういうことだったんだ」
「今回の情報のほとんどがホークスからだもんね……危険な立場にいたからイブちゃんを守るために遠ざけようとしてたんだ」
「ホークス、大丈夫かな……怪我してないといいな……」
「……そんならお前が治してやれ。ついでに小言の一つや二つも言っとけよ。俺が許す」
「かっちゃん……!」
「んだよ!」

イブはどこかで戦っているだろうホークスに思いを馳せた。どうか無事で。早くまたホークスと、常闇と4人で自由に空を駆けれる日が来ればいいと思った。








「ご家庭や近隣に身動きの取れない方がいましたらお教えください!! この街一帯対敵戦闘区域になる恐れがあります!!」
「こっからは護送車だ。街から出ろ」
「ありがとうねぇ、ふわチョコ饅頭あげるよ」
「口乾くわ! いーから行け!」
「ご厚意だよもらっときん」
「うんうん! ごこーい!」
「てめーらはふわチョコ饅頭が気になるだけだろ」
「お年寄りにもああなのね」
「入稿前のアナログ原稿があるんだ。うちのビル壊さないでくれよ!?」
「大事な原稿は我々がお守りします!」

後衛部隊は避難誘導を行っていた。被害予想区域が広いのと割と密集地帯なので一苦労である。イブは避難誘導中もなるべく固まって動きながら働いていた。


「緑谷、どうした」
「サボってんじゃねーぞ。どういう了見だ!」
「どっか痛い? 治そうか?」
「デクくん……?」

緑谷が感じていたものは予兆だった。OFAワン・フォ・オールAFOオール・フォー・ワンの繋がり。そしてその後まもなく、目に見える形で異変が訪れた。病院が崩れ、そこから崩壊が始まった。


「全員走らせろ!!」
「エンデヴァー! おい!? エンデヴァー!?」
「皆逃げて!!」
「止まらない! 衝撃とかの類じゃない!」
「全部塵になっていくわ……」
「死柄木……!」

轟の穿天氷壁で時間を稼ごうとするが崩壊スピードが速すぎる。


「止まりますように……!!」
「効いてない……!!」
「イブ地面割れ!!」
「わかった! 割れて……!!」

割ったはいいが、地層を這って崩壊の手は止まなかった。飛べたり操れる個性を持ってる者は民間人を救出するために個性を行使している。けれどそれも限界がある。このままではみんな死んでしまう。イブは意を決して大きな意志をこめたリスクのあるお願い事をすることにした。
振り返って止まったイブに爆豪が焦った顔をした。声には出せない、口には子どもの服を咥えて抱えていた。


「ここで……止まってええええええ!!!」

ピカッと眩い光が放たれる。光が止むと崩壊が収まっていた。まさにイブの目の前、寸の差であった。
止まった崩壊にほっと息をつくみんなの傍らで、爆豪は子どもたちを降ろすとイブに何かを言おうとして、口を噤んで、結局「よくやった」とだけ口にした。


「えへへ……イブ、よくや……」
「おいっ!」
「イブちゃん!?」

ぐらっとイブの身体が傾く。爆豪が慌てて抱えるとイブは寝ていた。爆豪は「いやのんきか!!」と思わず声に出したが、緑谷が「魔獣の森のときもナイトアイを助けたときもイブちゃんは疲れて寝てた。個性を使いすぎるとこうなっちゃうんじゃないかな」「確かに。今回の崩壊ほっとくとどこまでも進みそうだったものね」もう爆豪はぐぬぬとしながらイブをおぶってやった。







「今すぐ起きろ!! このクソ天使!!」
「んにゃ!? な、なに!?」
「っし起きたな。いいか、俺とクソデクは今からここ抜ける。でもお前はここにいろよ。そんで俺らの無事でも祈っとけ」
「え、なに? かっちゃんとデクくんどこ行くの!?」
「野暮用だわ」
「イブも一緒に……!」
「ダメだ。お前は狙われてる。ここでちゃんと守ってもらっとけ。そんで、お前も俺らを守れ。いいな」
「かっちゃん……わかった」
「っし、バーニンたちの言うことちゃんと聞くんだぞ」
「うん……」

緑谷と爆豪は行ってしまった。その後轟も二人を連れ戻すと言って後を追った。
イブは爆豪に言われた通り爆豪たちが無事であるようにとお願いしたし、バーニンの指示通り怪我をした人たちの治癒をした。不安はあった。なんだかとっても嫌な予感がする。ヒーローたちは今回の作戦でほとんど出っ張っているというのに、ちっとも安心できなかった。


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