「百……」
常闇との試合で何もできないまま場外で終わってしまった八百万はそれはそれは落ち込んでいた。傀薇の気遣う声にも反応できないほどだ。傀薇はここまで落ち込んだ八百万を見るのは初めてで、どうしたら八百万が元気をだしてくれるだろうかと考える。けれどこれは傀薇が頑張ってもどうしようもないことだとわかっている。なぜならこれは自分が轟に感じたものと同じだからだ。轟に相手にされなかったのが悔しかった。八百万は初めての挫折にショックを受けているのだ。八百万はいつもすごい人だったから。
「百、わたくしあなたより賢い人間を大人でも知りませんわ。わたくしが百をすごい人だって思ってることだけは忘れないでくださいましね」
「傀薇さん……」
ぎゅっと八百万の両手を握りこんでもう一度言う。「百はすごい人ですわ」と。八百万が今の自分をそう思えなくたって、傀薇はそう思っている、認めていることをちゃんと知っていてほしかった。「ありがとう……ございます」完全に飲み込むことはできなくたって、今は響かなくたって、この言葉がいつかちゃんと届く日が来ることを傀薇は信じていた。
二回戦第一試合、緑谷と轟の試合は轟の圧倒的優勢だった。氷が迫る度、緑谷が衝撃波を放って迎撃するがあまりにもリスキー個性である。迎撃するたびに指を犠牲にしていた。それでも緑谷は諦めず、轟に何かを語りかけている。
傀薇は思う。緑谷はやっぱりすごい奴だと。ヒーローとして最も近い場所にいるのは緑谷だと傀薇は思う。ヒーローとしてあるべき姿、それが何たるかを体現している。あの話を聞いた緑谷が轟に何を語り掛けているのかを理解してしまう。轟を救おうとしている。だからこそ傀薇は緑谷に負けたくないのだ。
「轟が最初に見るのは……緑谷なのですわね」
それがとても悔しい。好敵手である自分であってほしかった。けれど、轟が求めたのは緑谷なのだ。そして緑谷がお節介をやいている。余計なお世話もヒーローの本質だと傀薇はよく理解していた。
だから轟が炎 を解放したその瞬間も、やっぱりなと思った。轟の心に響かせ、届かせたのは緑谷なのだ。けれど自分だって、三回戦で果たして見せると傀薇は前を向いた。
ステージ大崩壊のため、しばらく補習タイムに入ったこともあり、傀薇も緑谷のところに訪れていた。これから手術をしなければならないから出ていくようリカバリーガールに急かされながらも傀薇は緑谷に話しかけた。
「緑谷! 最高にヒーローでしたわ! わたくしも轟に響かせますわ!」
「え!? あ、そのありがとう……! 手繰さんもがんばって……!」
そうしてようやくステージが修復し、飯田と傀薇の第二試合が始まろうとしていた。
「二回戦第二試合! 最高にトリッキーだぜ! 手繰傀薇!! VS 安心安全信頼の眼鏡!! 飯田天哉!!」
「先手必勝!! レシプロ・バースト!!」
ガシッと飯田に肩を掴まれる、傀薇は猛スピードで場外へ押し出されようとする中、針を飯田のエンジンへと忍ばせ、マリオネットを行使する。
「うわああ!? 嘘だろう!? これを動かすのか君は!!」
「っ!! さすがスピードが乗ってるだけありますわ!! 重いったらありゃしませんけど……轟の氷ほどじゃありませんわ!!」
傀薇は地雷原を突破したときのように飯田と組みあったまま社交ダンスを無理やりやらせる。レシプロ効果もありものすごい速さで行うそのダンスは観客が思わず「おお……!」と声に出してしまうものだった。素晴らしい腕前である。そうしている間にレシプロが切れ、飯田のエンジンがほとんど機能しなくなる。
「飯田! あなたのレシプロ、手強かったですわ!!」
そういってダンスを終えた傀薇がそのまま飯田を場外にする。一回戦と同じように見世物になってしまったところはあったが、飯田は傀薇の素晴らしいダンス技術に感銘をうけていた。
「ああ、君も……素晴らしい技巧だった!!」
がしっと今度は握手をする。エンターテインメントもヒーローには大事だったりするのだ。こうして傀薇は三回戦に駒を進める。待ちに待った轟戦である。
「轟」
「……手繰」
試合が目前に迫る中、傀薇は轟の控室を訪れていた。緑谷戦以降何か考えている様子の轟に傀薇も言いたいことがあったのだ。
「まずは謝罪を。ごめんなさい轟、わたくし緑谷とあなたが話していたこと聞いてしまいましたの」
「……そうか。いや、俺も誰が聞いてるかわからねぇところで話してたんだ、謝んなくていい」
「それでも気軽に聞いていいことではありませんでしたわ」
傀薇はどこかぼんやりした様子の轟に、なんだか少し轟の氷が溶けている気がした。前はもっと声音も冷たかったし、もっと他人を突き放すような人だった。
「轟、わたくし改めてあなたに誓いますわ、手繰傀薇は轟焦凍の好敵手 であると」
「お前はいつもそうだな。俺は……」
何かを考えている轟の瞳ははまるで迷子のようだった。緑谷が轟の氷を溶かしたように、ならば傀薇はこの迷子を導かねばならない。それがお節介、余計なお世話だとしても。ヒーローとはそういうものだから。
「負けませんわよ、轟。正々堂々勝負ですわ」
そうして轟と傀薇の試合が今始まる。
常闇との試合で何もできないまま場外で終わってしまった八百万はそれはそれは落ち込んでいた。傀薇の気遣う声にも反応できないほどだ。傀薇はここまで落ち込んだ八百万を見るのは初めてで、どうしたら八百万が元気をだしてくれるだろうかと考える。けれどこれは傀薇が頑張ってもどうしようもないことだとわかっている。なぜならこれは自分が轟に感じたものと同じだからだ。轟に相手にされなかったのが悔しかった。八百万は初めての挫折にショックを受けているのだ。八百万はいつもすごい人だったから。
「百、わたくしあなたより賢い人間を大人でも知りませんわ。わたくしが百をすごい人だって思ってることだけは忘れないでくださいましね」
「傀薇さん……」
ぎゅっと八百万の両手を握りこんでもう一度言う。「百はすごい人ですわ」と。八百万が今の自分をそう思えなくたって、傀薇はそう思っている、認めていることをちゃんと知っていてほしかった。「ありがとう……ございます」完全に飲み込むことはできなくたって、今は響かなくたって、この言葉がいつかちゃんと届く日が来ることを傀薇は信じていた。
二回戦第一試合、緑谷と轟の試合は轟の圧倒的優勢だった。氷が迫る度、緑谷が衝撃波を放って迎撃するがあまりにもリスキー個性である。迎撃するたびに指を犠牲にしていた。それでも緑谷は諦めず、轟に何かを語りかけている。
傀薇は思う。緑谷はやっぱりすごい奴だと。ヒーローとして最も近い場所にいるのは緑谷だと傀薇は思う。ヒーローとしてあるべき姿、それが何たるかを体現している。あの話を聞いた緑谷が轟に何を語り掛けているのかを理解してしまう。轟を救おうとしている。だからこそ傀薇は緑谷に負けたくないのだ。
「轟が最初に見るのは……緑谷なのですわね」
それがとても悔しい。好敵手である自分であってほしかった。けれど、轟が求めたのは緑谷なのだ。そして緑谷がお節介をやいている。余計なお世話もヒーローの本質だと傀薇はよく理解していた。
だから轟が
ステージ大崩壊のため、しばらく補習タイムに入ったこともあり、傀薇も緑谷のところに訪れていた。これから手術をしなければならないから出ていくようリカバリーガールに急かされながらも傀薇は緑谷に話しかけた。
「緑谷! 最高にヒーローでしたわ! わたくしも轟に響かせますわ!」
「え!? あ、そのありがとう……! 手繰さんもがんばって……!」
そうしてようやくステージが修復し、飯田と傀薇の第二試合が始まろうとしていた。
「二回戦第二試合! 最高にトリッキーだぜ! 手繰傀薇!! VS 安心安全信頼の眼鏡!! 飯田天哉!!」
「先手必勝!! レシプロ・バースト!!」
ガシッと飯田に肩を掴まれる、傀薇は猛スピードで場外へ押し出されようとする中、針を飯田のエンジンへと忍ばせ、マリオネットを行使する。
「うわああ!? 嘘だろう!? これを動かすのか君は!!」
「っ!! さすがスピードが乗ってるだけありますわ!! 重いったらありゃしませんけど……轟の氷ほどじゃありませんわ!!」
傀薇は地雷原を突破したときのように飯田と組みあったまま社交ダンスを無理やりやらせる。レシプロ効果もありものすごい速さで行うそのダンスは観客が思わず「おお……!」と声に出してしまうものだった。素晴らしい腕前である。そうしている間にレシプロが切れ、飯田のエンジンがほとんど機能しなくなる。
「飯田! あなたのレシプロ、手強かったですわ!!」
そういってダンスを終えた傀薇がそのまま飯田を場外にする。一回戦と同じように見世物になってしまったところはあったが、飯田は傀薇の素晴らしいダンス技術に感銘をうけていた。
「ああ、君も……素晴らしい技巧だった!!」
がしっと今度は握手をする。エンターテインメントもヒーローには大事だったりするのだ。こうして傀薇は三回戦に駒を進める。待ちに待った轟戦である。
「轟」
「……手繰」
試合が目前に迫る中、傀薇は轟の控室を訪れていた。緑谷戦以降何か考えている様子の轟に傀薇も言いたいことがあったのだ。
「まずは謝罪を。ごめんなさい轟、わたくし緑谷とあなたが話していたこと聞いてしまいましたの」
「……そうか。いや、俺も誰が聞いてるかわからねぇところで話してたんだ、謝んなくていい」
「それでも気軽に聞いていいことではありませんでしたわ」
傀薇はどこかぼんやりした様子の轟に、なんだか少し轟の氷が溶けている気がした。前はもっと声音も冷たかったし、もっと他人を突き放すような人だった。
「轟、わたくし改めてあなたに誓いますわ、手繰傀薇は轟焦凍の
「お前はいつもそうだな。俺は……」
何かを考えている轟の瞳ははまるで迷子のようだった。緑谷が轟の氷を溶かしたように、ならば傀薇はこの迷子を導かねばならない。それがお節介、余計なお世話だとしても。ヒーローとはそういうものだから。
「負けませんわよ、轟。正々堂々勝負ですわ」
そうして轟と傀薇の試合が今始まる。
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