「君体育祭で三位だった子だよね!? すごかったよ! 見ていてとても楽しくなる身のこなしだった!」
「あらまぁ〜! こんなに華奢な子だったのねぇ! それなのにあんなに大きな氷を割ったりできるんだもの、将来有望なヒーローの卵ね!」
「ほんと顔も整ってるし、人気でるわよあなた!」
「そうそう! 俺もうすっかりファンで! サインもらってもいいかな?」
朝、それはもうすごかった。なんとなく歩きたい気分で送迎を断り、公共機関を使い登校していたところ、ものすごく人に囲まれた。雄英体育祭は全国中継、かつてのオリンピックに代わる祭典として関心を集めていることを改めて実感した。見ていたのはプロだけじゃない、一般人もなのだ。
「ええ! もちろんですわ!」
そうして傀薇はファンサというものを始めてしていく。期待してくれている。傀薇というヒーローの卵に。それがとても嬉しかった。
体育祭明けのヒーロー情報学は特殊で、自身のヒーロー名を考えるというものだった。そこで体育祭でのドラフト指名が発表される。轟と爆豪の使命数が圧倒的で、その次に傀薇の使命数だった。三人とも桁が一つとびぬけていたが、轟と爆豪の使命数は体育祭での順位が逆転していた。緑谷の名前がないことに傀薇はプロも見る目がありませんのねと思った。緑谷出久の本質は最もヒーローに近いものである。彼の魅力がいつかたくさんの人たちに理解されることを願った。
そうしてミッドナイトを招き、自身のヒーロー名を決める授業が開始された。
一発目が青山の短文だったのと、続く芦戸がエイリアンクイーンと出したせいで大喜利のような雰囲気になってしまったが、蛙吹がフロッピーと親しみやすいヒーロー名を出してくれたおかげで元に戻った。
「はい! 次わたくしが行きますわ!」
「手繰かー! どんなん出てくんだ?」
「これですわ! ヒーロー名マリオネット! 個性を知ってもらってこそのヒーローですもの! これにいたしますわ!」
「いいじゃない! 手繰さんの個性自体お洒落な名前だし。戦闘服ゴスロリだし雰囲気出てるわ!」
「これ以上わたくしに相応しい名はありませんわ!」
どやっとする傀薇に辺りが笑いに包まれる。似合ってんじゃんと傀薇のヒーロー名考案は実にスムーズに決まったのだった。
指名名簿を受け取り、どこに行こうかと吟味しているところ不意に轟から話しかけられた。
「手繰……どこに行くか決まったのか?」
「まだですわ。でもどうせならいろんなことが出来るヒーローがいいですわね……幅を広げたいんですの」
「幅……そうか……」
何か考えている様子の轟をじっと見る傀薇だが、その目はもう迷子のようなそれではないことに安堵する。それになんだか、体育祭明けの轟の雰囲気は――
「轟、なんだかお漬物が落ちたような顔をなさってますわね」
「漬物……それって憑き物の間違いか」
「そうともいいますわね!」
「ふっ……そうとしかいわねぇよ」
自信満々で答える傀薇におかしくなった轟はふっと笑う。その表情を見た傀薇が大きく目を見開いた。轟が笑った……あの轟が笑った。いつもつまらなそうに、何かに追いつめられているかのようだった轟が笑ったのだ。
「!! 轟が笑いましたわ! いいじゃありませんの! あなたずっとそうやって笑ってなさいな!」
途端に興奮したように絶賛する傀薇に轟は「お、おい……」とたじろぐも、傀薇があまりに嬉しそうにするものだからなんだか擽ったい気持ちになった。傀薇はいつもそうだ。どこまでも真っ直ぐで、他人のために一生懸命になれて、諦めが悪くて、そんでいつも前を向いている。暗いところにいるやつを明るいところに引っ張っていってくれる奴だった。
轟は表情を柔らかくして、口を開いた。
「……ならお前がそうやって笑わせてくれ。俺たち好敵手 なんだろ?」
「!! ええ! ええ!! もちろん、泥船に乗ったつもりでお任せですわ!!」
「ブハッ……! 沈んでんじゃねぇか……!」
思わず吹き出してしまった。お母さんと話をして、改めてちゃんとなりたい自分になるスタートラインに立てた。その過程には緑谷と傀薇の二人が大きく関わったのも轟は自覚していて、二人に感謝している。もうすでに轟的に友だちだった。二人も否定しないだろう。傀薇はそれに加えて好敵手でもありますわ! といつもの明るい笑顔で付け加えるだろうというのも理解していた。
憑き物が落ちたというのもなるほどそうかもしれない。なりたい自分になるために幅を広げるのも轟はその通りだなと受け入れられるようになった。職場体験、あいつのところに行こうと素直に思えるくらいには。
塩崎茨が手繰傀薇を「正義の太陽」「世の光」と称したように、轟にとって手繰傀薇は「光明」だった。暗いところで蹲っていた幼い自分に、しゃがんで立てるまで照らしてそこにいてくれた。
轟は思う。自分を好敵手だといってずっと照らしてくれていた傀薇に相応しい好敵手でありたいと。いつか傀薇が躓いたとき手を差し伸べてやれる人間になりたいと、そう思った。
「あらまぁ〜! こんなに華奢な子だったのねぇ! それなのにあんなに大きな氷を割ったりできるんだもの、将来有望なヒーローの卵ね!」
「ほんと顔も整ってるし、人気でるわよあなた!」
「そうそう! 俺もうすっかりファンで! サインもらってもいいかな?」
朝、それはもうすごかった。なんとなく歩きたい気分で送迎を断り、公共機関を使い登校していたところ、ものすごく人に囲まれた。雄英体育祭は全国中継、かつてのオリンピックに代わる祭典として関心を集めていることを改めて実感した。見ていたのはプロだけじゃない、一般人もなのだ。
「ええ! もちろんですわ!」
そうして傀薇はファンサというものを始めてしていく。期待してくれている。傀薇というヒーローの卵に。それがとても嬉しかった。
体育祭明けのヒーロー情報学は特殊で、自身のヒーロー名を考えるというものだった。そこで体育祭でのドラフト指名が発表される。轟と爆豪の使命数が圧倒的で、その次に傀薇の使命数だった。三人とも桁が一つとびぬけていたが、轟と爆豪の使命数は体育祭での順位が逆転していた。緑谷の名前がないことに傀薇はプロも見る目がありませんのねと思った。緑谷出久の本質は最もヒーローに近いものである。彼の魅力がいつかたくさんの人たちに理解されることを願った。
そうしてミッドナイトを招き、自身のヒーロー名を決める授業が開始された。
一発目が青山の短文だったのと、続く芦戸がエイリアンクイーンと出したせいで大喜利のような雰囲気になってしまったが、蛙吹がフロッピーと親しみやすいヒーロー名を出してくれたおかげで元に戻った。
「はい! 次わたくしが行きますわ!」
「手繰かー! どんなん出てくんだ?」
「これですわ! ヒーロー名マリオネット! 個性を知ってもらってこそのヒーローですもの! これにいたしますわ!」
「いいじゃない! 手繰さんの個性自体お洒落な名前だし。戦闘服ゴスロリだし雰囲気出てるわ!」
「これ以上わたくしに相応しい名はありませんわ!」
どやっとする傀薇に辺りが笑いに包まれる。似合ってんじゃんと傀薇のヒーロー名考案は実にスムーズに決まったのだった。
指名名簿を受け取り、どこに行こうかと吟味しているところ不意に轟から話しかけられた。
「手繰……どこに行くか決まったのか?」
「まだですわ。でもどうせならいろんなことが出来るヒーローがいいですわね……幅を広げたいんですの」
「幅……そうか……」
何か考えている様子の轟をじっと見る傀薇だが、その目はもう迷子のようなそれではないことに安堵する。それになんだか、体育祭明けの轟の雰囲気は――
「轟、なんだかお漬物が落ちたような顔をなさってますわね」
「漬物……それって憑き物の間違いか」
「そうともいいますわね!」
「ふっ……そうとしかいわねぇよ」
自信満々で答える傀薇におかしくなった轟はふっと笑う。その表情を見た傀薇が大きく目を見開いた。轟が笑った……あの轟が笑った。いつもつまらなそうに、何かに追いつめられているかのようだった轟が笑ったのだ。
「!! 轟が笑いましたわ! いいじゃありませんの! あなたずっとそうやって笑ってなさいな!」
途端に興奮したように絶賛する傀薇に轟は「お、おい……」とたじろぐも、傀薇があまりに嬉しそうにするものだからなんだか擽ったい気持ちになった。傀薇はいつもそうだ。どこまでも真っ直ぐで、他人のために一生懸命になれて、諦めが悪くて、そんでいつも前を向いている。暗いところにいるやつを明るいところに引っ張っていってくれる奴だった。
轟は表情を柔らかくして、口を開いた。
「……ならお前がそうやって笑わせてくれ。俺たち
「!! ええ! ええ!! もちろん、泥船に乗ったつもりでお任せですわ!!」
「ブハッ……! 沈んでんじゃねぇか……!」
思わず吹き出してしまった。お母さんと話をして、改めてちゃんとなりたい自分になるスタートラインに立てた。その過程には緑谷と傀薇の二人が大きく関わったのも轟は自覚していて、二人に感謝している。もうすでに轟的に友だちだった。二人も否定しないだろう。傀薇はそれに加えて好敵手でもありますわ! といつもの明るい笑顔で付け加えるだろうというのも理解していた。
憑き物が落ちたというのもなるほどそうかもしれない。なりたい自分になるために幅を広げるのも轟はその通りだなと受け入れられるようになった。職場体験、あいつのところに行こうと素直に思えるくらいには。
塩崎茨が手繰傀薇を「正義の太陽」「世の光」と称したように、轟にとって手繰傀薇は「光明」だった。暗いところで蹲っていた幼い自分に、しゃがんで立てるまで照らしてそこにいてくれた。
轟は思う。自分を好敵手だといってずっと照らしてくれていた傀薇に相応しい好敵手でありたいと。いつか傀薇が躓いたとき手を差し伸べてやれる人間になりたいと、そう思った。
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