ステイン確保後、なんとエンデヴァーたちから逃げてきた脳無が緑谷をさらった。
プロヒーローもその場にはたくさんいたのに、誰も動けなかった。そう、ステイン以外は。ステインは脳無の血を舐め摂ると個性を発動させ、脳無を殺し緑谷を助けた。
「偽物が蔓延るこの社会も、徒に力≠振りまく犯罪者も。粛清対象だ……ハァ……ハァ……全ては正しき社会のために」
そうしてステインは自分を殺していいのは本物の英雄 だけだと言い残し、気絶した。ボロボロの身体で誰も動けなかったのに、誰より先に動いた。傀薇はそれに動揺する。だってそれはまるでヒーローだったから。ヒーロー殺しステイン、誰よりも英雄を求め、正しい英雄の在り方を提唱し続けたもの。それは傀薇にとっても新しい価値観であった。
「マジェスティック……ごめんなさい、わたくし……ちゃんと守れませんでしたわ……」
最寄りの病院で治療を受けた傀薇の病室に訪れたマジェスティックに傀薇は一番に深く頭を下げ謝罪した。
傀薇はよく理解していた。ヒーロー免許を持たないものが他人に救命以外で個性を行使してはならないことを。自身の個性を、母の個性を幼い頃に敵みたいだと言われて以降ずっと学んできたものだったからだ。
「傀薇ちゃん、顔上げて」
「マジェスティック……」
「君のよくなかったところはもう君自身が十分すぎる程反省してる。だからそこはもう何も言わない、けれど一言言うなれば俺は君がこうして大怪我をしているのを悔いてる。一緒にいってやれなくてごめん。怖かったろう」
気遣うように優しく背中を撫でられて傀薇の瞳からついに大粒の涙が溢れた。嗚咽が零れる。怖かった、本当はとても怖かった。あの時誰か死んじゃうんじゃないかと思うと怖くて怖くてたまらなかった。容赦なく降り注いでくるナイフも、ぐったりした様子の緑谷たちの姿も、轟に迫ったあの刀の鈍い光も。どれもこれもが恐ろしかった。
「マジェスティック……わたくし、今度はちゃんと、ちゃんと果たしてみせますわっ、正しい形でみんなを安心させられるようなっ、そんなっひっく、ヒーローになりますわ……!」
「うん、傀薇ちゃんならなれるよ。なんてったって、俺が見込んだ女だからね!」
そうして傀薇が泣き止んだ頃、頃合いを見計らっていたかのように警察が訪れた。緑谷たちの病室に移動する。傀薇は署長が来た意味を理解していた。マジェスティックも何らかの処分を受けてしまうことが申し訳なくて、けれどマジェスティックは気にしなくていいと笑った「正しくはなかったかもしれない、でも友達のことを救えないなら、見ず知らずの他人だって助けられないさ」これは教訓だという。今日のことを胸に今度こそ正しいヒーロー活動を。そのための教訓だと。
署長が資格未取得者がヒーロー殺しといえど人に対して危害を加えたことに対して、規則違反であるという。これは超常黎明期から厳しく個性行使権利を統制することで守ってきた秩序があるからだ。誰でも敵だからと行使できてしまえば世の中はめちゃくちゃになってしまう。それ故傀薇たち四人とその職場体験先のプロヒーローたちに厳正な処分が下されないといけないといった話だった。
「待ってくださいよ」
「轟くん……」
「飯田が動いてなきゃネイティブさんが殺されてた。緑谷が来なけりゃ二人は殺されてた。手繰が来なけりゃ俺もやられてた。誰もヒーロー殺しの出現に気付いてなかったんですよ。規則守って見殺しにするべきだったって!?」
「轟! それらはすべて結果論でしてよ。結果的にみんな無事だっただけで……これは正統な活動ではないのですわ」
「手繰! お前まで……!」
「彼女の言う通りだワン。結果オーライであれば規則などウヤムヤでいいと?」
「――人をっ……助けるのがヒーローの仕事だろ」
「だから君は卵≠セ。まったく……良い教育をしているワンね。雄英も……エンデヴァーも」
「この犬――」
「轟! 落ち着くのですわ! 規則を破ればわたくしたちだって敵のそれと同じだと聞き分けてくださいまし……!」
「手繰! ……お前……」
傀薇の瞳に涙が浮かんでいるのを見つけて轟がたじろぐ。なんで泣いてんだ。お前だってヒーローだったじゃねぇか。なのにこうして処分されようとしてる、誰よりもヒーローだったお前が、緑谷たちが処分されようとしているのが轟は許せなかっただけなのだ。「……悪かった……」納得はできなかった、でも……多分、傀薇を泣かせてしまったのは自分なのだと、それだけは理解できたのだ。
けれどすぐに署長が以上が警察としての意見だという。今までの話はあくまで公表すれば処分をしなければならないという話で、署長はこれを公表せずなかったことにしてしまおうとしていた。火傷のあともエンデヴァーのものとして、エンデヴァーを功労者に仕立てあげることで傀薇たちを守ろうとしているのだ。
「だが君たちの英断 と功績 も誰にも知られることはない。どっちがいい!? 一人の人間としては……前途ある若者の偉大なる過ち≠ノケチ をつけさせたくないんだワン!?」
「……よろしく……お願いします」
「大人のズル で君たちが受けていたであろう称賛の声はなくなってしまうが……せめて共に平和を守る人間として……ありがとう!」
こうして思わぬ形で始まった路地裏の戦いはこうして人知れず終わりを迎えた。
「手繰……悪かった、俺も感情的になってた」
「わかってくださればいいのですわ。わたくしたちはヒーローになるんですもの、ちゃんとしなくては」
「お前それ……意外だった。お前も同じように反論すると思ってた」
傀薇の病室に移り、先ほどの会話の謝罪をしてくる轟に思わず笑ってしまった。たしかに自分はそういう人間に見えるかもしれない、けれど手繰傀薇はそうしない。
「わたくしのお話聞いてくださる?」
「ああ、聞かせてくれるなら」
「ええ、聞いてほしいですわ。……わたくしのお母様ね、サキュバスの個性ですの」
「……サキュバス……?」
「人の精気を奪う個性ですわ。他人に魅力的に見られやすいといった特性もございますの」
「そりゃすげぇな」
「でも、みんなお母様のこと好きになってしまいまして……家庭だったり、友人関係だったり壊れてしまいますの。結果お母様は恨まれやすくなってしまいましてね、わたくしも精気を吸い取ったり、精神を乗っ取ったりできますから……敵だって言われたことがありますの」
轟の瞳が揺れる。轟にとって手繰傀薇は光明だ。その人となりは敵からかけ離れたものだし、いつだって他人のために一生懸命だ。あまりに結びつかなくてだいぶぽかんとした顔をしていた。
「わたくしね、それがとても悔しくて……じゃあそんなこと言われないようにヒーローらしくあろうと、そればかりに固執したのですわ」
「……お前もそんな暗い面あったのか、意外だ」
「誰だってそんな一面ちょっとくらいあるものでしょう。でもね、ある日敵だって言ってきた子が怪我をしましてね、その怪我をわたくしが精気を分けて治しましたの。そうしたらもうすごく驚いて、謝ってくれて……わたくしのことをヒーローだと言ってくださいましたの。わたくしのヒーロー は……ヒーローたちはそれはもう輝いていて……わたくしもあんな風に誰かの光になりたかったのですわ」
そういって夢を語る傀薇の顔は十分すぎる程輝いていた。手繰傀薇は常に前を向く。果たせなかったのなら次こそ果たしてみせると、誰よりもヒーローらしくあろうとしている。
「お前は……もうキラキラしてるだろ」
「え……?」
「俺をお前が照らしてくれたから、俺は左を憎まなくなった。お前が俺をここまで導いてくれたんだ」
「ど、どうしましたのいきなり」
「本当のことだろ。俺はお前に救われた。そう、お前は俺にとって……光だったんだよ。だから誰かの光になりたいってのはもう叶ってる」
傀薇の顔が喜色満面の笑みにかわる。その笑顔に轟はやっと安堵した。「お前もいつもみたいにそんな風に笑ってる方がいいぞ」「おせちメンタルなところを見せてしまいましたわね! 失礼しましたわ!」「ふっ、センチメンタルな」「そうともいいますわ!」「そうとしか言わねぇよ」そうしていると緑谷も麗日との通話から帰ってきて、一緒に轟たちの病室へと戻る。どんな状態か聞いておきたかったのだ。
腕に後遺症が残るといった飯田に、轟が傀薇の腕を見て何かに気付いたようなショックを受けた顔をする。
「轟? どうしましたの?」
「なんか……わりィ……」
「何が……」
「俺が関わると……手がダメになるみてぇな……感じに……なってる……」
「あっはははは何を言ってるんだ!」
「轟ったら……! 面白いことを言いますのね!」
「轟くんも冗談言ったりするんだね」
「いや冗談じゃねぇハンドクラッシャー的存在に……」
「ハンドクラッシャー――!!」
プロヒーローもその場にはたくさんいたのに、誰も動けなかった。そう、ステイン以外は。ステインは脳無の血を舐め摂ると個性を発動させ、脳無を殺し緑谷を助けた。
「偽物が蔓延るこの社会も、徒に力≠振りまく犯罪者も。粛清対象だ……ハァ……ハァ……全ては正しき社会のために」
そうしてステインは自分を殺していいのは
「マジェスティック……ごめんなさい、わたくし……ちゃんと守れませんでしたわ……」
最寄りの病院で治療を受けた傀薇の病室に訪れたマジェスティックに傀薇は一番に深く頭を下げ謝罪した。
傀薇はよく理解していた。ヒーロー免許を持たないものが他人に救命以外で個性を行使してはならないことを。自身の個性を、母の個性を幼い頃に敵みたいだと言われて以降ずっと学んできたものだったからだ。
「傀薇ちゃん、顔上げて」
「マジェスティック……」
「君のよくなかったところはもう君自身が十分すぎる程反省してる。だからそこはもう何も言わない、けれど一言言うなれば俺は君がこうして大怪我をしているのを悔いてる。一緒にいってやれなくてごめん。怖かったろう」
気遣うように優しく背中を撫でられて傀薇の瞳からついに大粒の涙が溢れた。嗚咽が零れる。怖かった、本当はとても怖かった。あの時誰か死んじゃうんじゃないかと思うと怖くて怖くてたまらなかった。容赦なく降り注いでくるナイフも、ぐったりした様子の緑谷たちの姿も、轟に迫ったあの刀の鈍い光も。どれもこれもが恐ろしかった。
「マジェスティック……わたくし、今度はちゃんと、ちゃんと果たしてみせますわっ、正しい形でみんなを安心させられるようなっ、そんなっひっく、ヒーローになりますわ……!」
「うん、傀薇ちゃんならなれるよ。なんてったって、俺が見込んだ女だからね!」
そうして傀薇が泣き止んだ頃、頃合いを見計らっていたかのように警察が訪れた。緑谷たちの病室に移動する。傀薇は署長が来た意味を理解していた。マジェスティックも何らかの処分を受けてしまうことが申し訳なくて、けれどマジェスティックは気にしなくていいと笑った「正しくはなかったかもしれない、でも友達のことを救えないなら、見ず知らずの他人だって助けられないさ」これは教訓だという。今日のことを胸に今度こそ正しいヒーロー活動を。そのための教訓だと。
署長が資格未取得者がヒーロー殺しといえど人に対して危害を加えたことに対して、規則違反であるという。これは超常黎明期から厳しく個性行使権利を統制することで守ってきた秩序があるからだ。誰でも敵だからと行使できてしまえば世の中はめちゃくちゃになってしまう。それ故傀薇たち四人とその職場体験先のプロヒーローたちに厳正な処分が下されないといけないといった話だった。
「待ってくださいよ」
「轟くん……」
「飯田が動いてなきゃネイティブさんが殺されてた。緑谷が来なけりゃ二人は殺されてた。手繰が来なけりゃ俺もやられてた。誰もヒーロー殺しの出現に気付いてなかったんですよ。規則守って見殺しにするべきだったって!?」
「轟! それらはすべて結果論でしてよ。結果的にみんな無事だっただけで……これは正統な活動ではないのですわ」
「手繰! お前まで……!」
「彼女の言う通りだワン。結果オーライであれば規則などウヤムヤでいいと?」
「――人をっ……助けるのがヒーローの仕事だろ」
「だから君は卵≠セ。まったく……良い教育をしているワンね。雄英も……エンデヴァーも」
「この犬――」
「轟! 落ち着くのですわ! 規則を破ればわたくしたちだって敵のそれと同じだと聞き分けてくださいまし……!」
「手繰! ……お前……」
傀薇の瞳に涙が浮かんでいるのを見つけて轟がたじろぐ。なんで泣いてんだ。お前だってヒーローだったじゃねぇか。なのにこうして処分されようとしてる、誰よりもヒーローだったお前が、緑谷たちが処分されようとしているのが轟は許せなかっただけなのだ。「……悪かった……」納得はできなかった、でも……多分、傀薇を泣かせてしまったのは自分なのだと、それだけは理解できたのだ。
けれどすぐに署長が以上が警察としての意見だという。今までの話はあくまで公表すれば処分をしなければならないという話で、署長はこれを公表せずなかったことにしてしまおうとしていた。火傷のあともエンデヴァーのものとして、エンデヴァーを功労者に仕立てあげることで傀薇たちを守ろうとしているのだ。
「だが君たちの
「……よろしく……お願いします」
「
こうして思わぬ形で始まった路地裏の戦いはこうして人知れず終わりを迎えた。
「手繰……悪かった、俺も感情的になってた」
「わかってくださればいいのですわ。わたくしたちはヒーローになるんですもの、ちゃんとしなくては」
「お前それ……意外だった。お前も同じように反論すると思ってた」
傀薇の病室に移り、先ほどの会話の謝罪をしてくる轟に思わず笑ってしまった。たしかに自分はそういう人間に見えるかもしれない、けれど手繰傀薇はそうしない。
「わたくしのお話聞いてくださる?」
「ああ、聞かせてくれるなら」
「ええ、聞いてほしいですわ。……わたくしのお母様ね、サキュバスの個性ですの」
「……サキュバス……?」
「人の精気を奪う個性ですわ。他人に魅力的に見られやすいといった特性もございますの」
「そりゃすげぇな」
「でも、みんなお母様のこと好きになってしまいまして……家庭だったり、友人関係だったり壊れてしまいますの。結果お母様は恨まれやすくなってしまいましてね、わたくしも精気を吸い取ったり、精神を乗っ取ったりできますから……敵だって言われたことがありますの」
轟の瞳が揺れる。轟にとって手繰傀薇は光明だ。その人となりは敵からかけ離れたものだし、いつだって他人のために一生懸命だ。あまりに結びつかなくてだいぶぽかんとした顔をしていた。
「わたくしね、それがとても悔しくて……じゃあそんなこと言われないようにヒーローらしくあろうと、そればかりに固執したのですわ」
「……お前もそんな暗い面あったのか、意外だ」
「誰だってそんな一面ちょっとくらいあるものでしょう。でもね、ある日敵だって言ってきた子が怪我をしましてね、その怪我をわたくしが精気を分けて治しましたの。そうしたらもうすごく驚いて、謝ってくれて……わたくしのことをヒーローだと言ってくださいましたの。
そういって夢を語る傀薇の顔は十分すぎる程輝いていた。手繰傀薇は常に前を向く。果たせなかったのなら次こそ果たしてみせると、誰よりもヒーローらしくあろうとしている。
「お前は……もうキラキラしてるだろ」
「え……?」
「俺をお前が照らしてくれたから、俺は左を憎まなくなった。お前が俺をここまで導いてくれたんだ」
「ど、どうしましたのいきなり」
「本当のことだろ。俺はお前に救われた。そう、お前は俺にとって……光だったんだよ。だから誰かの光になりたいってのはもう叶ってる」
傀薇の顔が喜色満面の笑みにかわる。その笑顔に轟はやっと安堵した。「お前もいつもみたいにそんな風に笑ってる方がいいぞ」「おせちメンタルなところを見せてしまいましたわね! 失礼しましたわ!」「ふっ、センチメンタルな」「そうともいいますわ!」「そうとしか言わねぇよ」そうしていると緑谷も麗日との通話から帰ってきて、一緒に轟たちの病室へと戻る。どんな状態か聞いておきたかったのだ。
腕に後遺症が残るといった飯田に、轟が傀薇の腕を見て何かに気付いたようなショックを受けた顔をする。
「轟? どうしましたの?」
「なんか……わりィ……」
「何が……」
「俺が関わると……手がダメになるみてぇな……感じに……なってる……」
「あっはははは何を言ってるんだ!」
「轟ったら……! 面白いことを言いますのね!」
「轟くんも冗談言ったりするんだね」
「いや冗談じゃねぇハンドクラッシャー的存在に……」
「ハンドクラッシャー――!!」
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