林間合宿が始まろうとしていた。だがその前に期末テストである。そう、期末テストである。A組21人中21位である傀薇は今回も八百万に助けを求めていた。傀薇を救えるのは八百万だけなのである。何せ付き合いが長い、壊滅的なおバカである傀薇にどう説明したら理解するのかを理解している。そのおかげもあって八百万の教え方は大変好評だった。猿にでも分かる数学というやつである。
「轟、一通り申し分ないが全体的に力押しのきらいがあります。そして八百万は万能ですが咄嗟の判断力や応用力に欠ける。手繰は何にしても力任せ。ゴリ押しできるだけの胆力がありますが自身の個性に対する信頼が大きすぎる。よって俺が個性≠消し、近接戦闘で弱みを突きます」
そうして万全の状態で挑んだはずが、なんと期末試験の実技は雄英教師陣と戦って勝てというものだった。あまりにハードルが高い。傀薇は八百万と轟と三人チームで相手は相澤だった。
「実力差が大きすぎる場合、逃げて応援を呼んだ方が賢明。轟、手繰……おまえら はよくわかってるハズだ」
轟と傀薇はヒーロー殺しステインとの邂逅を思い出した。大きすぎる実力者、逃げようにも負傷者が多く、その上逃げれる相手ではなかった。けれど逃げるための突破口を開くこと、それが最適解であったことを今は理解している。今回の試験ではもう間違えないとぎゅっと拳を握った。
「百、なにをし――」
「八百万! 何でもいい常に何か小物を創りつづけろ。創れなくなったら相澤先生が近くにいると考えろ。この試験どっちが先に相手を見つけるかだ。視認出来次第俺と手繰で引きつける。そしたらお前は脱出ゲートへつっ走れ。それまで離れるなよ」
傀薇が当然のように八百万に指示を仰ごうとしたところ、轟が恐るべき判断力と決断力でさっさと決めてしまった。たしかにそれでもいいかもしれない、八百万の創造なら誰より早くゲートまでいけるはずだ。でも、でも
「轟! 百の個性は脂質を使いますの! 大きなものを創るほど脂質が必要ですわ、ここはわたくしが針を出しますのでそれで相澤先生の接近を……」
「いや相澤先生との戦闘は厳しくなるだろう。力を温存しておく必要がある。八百万が適任だ」
「ええ……傀薇さんは戦闘に備えてください」
そういって八百万はマトリョーシカを創っていく。八百万が初めて個性で既製品と寸分違わぬものを創れた思い出の品だ。八百万の個性は万能故にとても難しく、創るまでにたくさんの工程を踏む必要がある。それが今では何も考えずとも出せるようになった、それだけ練習したマトリョーシカだった。
その努力の証を知っているだけに傀薇はやはり口を開いた。だって何かあるはずだもの百が何も考えていないはずがありませんの。百より賢い人間をわたくしは大人だって知らないのだから。
「百! わたくし――」
「やっぱりさすがですわね、轟さん……」
「何が」
「相澤先生への対策を打ち出すのもすぐ打ち出すのもそうですが、ベストを即決できる判断力です」
「…………普通だろ」
「普通……ですか……」
これはいけない、これはだめだ。傀薇は焦りを覚えた。八百万が自信を喪失しているのは知っていたが、まさかここまで重症だと思っていなかった。良くも悪くも轟と相性が悪い。
「雄英の推薦入学者……スタートは同じハズでしたのにヒーローとしての実技に於いて、私の方は特筆すべき結果を何も残せていません……騎馬戦はあなたの指示下についただけ……本戦は常闇さんに為す術なく敗退でした……」
「百、わたくしそれでも百のことを尊敬していましてよ、だって百は――」
「傀薇さんも……あなたはいつも自信に溢れていて、皆をいつの間にか引っ張って、まとめている。私にはない天性のカリスマ性……私、本当はずっと傀薇さんがうらやましかったのですわ……」
「百……」
初めての八百万の告白に傀薇は一瞬なんと声をかけていいのかわからなかった。だって八百万百は手繰傀薇にとって、かけがえのない幼馴染で、親友で……最も尊敬する人なのだ。だって、八百万は傀薇の――
「八百万マトリョーシカ……来るぞ!!」
「すみませ……」
「と思ったらすぐ行動に移せ。この場合はまず回避優先だ先手取られたんだから」
「八百万行け!」
「あ、そういうアレか、なら……」
「させませんわ!!」
捕縛布を轟に回されるタイミングで糸を付着させマリオネットで取り上げようとする。けれどそこで誤算が起きた。なんとこの布とても複雑で絡まるのだ。解けない、焦る傀薇を見逃すことなく、相澤が轟とまとめて縛り上げてしまった。
「手繰、人を助けるのはいいが、お前はいつも自分への注意が散漫になる。だからこうして一緒に捕まるんだ」
「こ、んなの……力尽くで……!」
「それをやってしまうのがお前の怖いところだよ。自分の身体が傷つくのを恐れない。でもそれじゃだめだ。肝心な時に救えなくなる。その点でいやお前は緑谷と似てるかもな」
ご丁寧に下にまきびしをまかれていた。どうにかして抜け出しても脱出にダメージが入った身体ではまきびしを回避できないのが明白だった。そしてその状態では相澤を止めることができないのも理解していた。
「随分と負担の偏った策じゃないか。もう少し話し合ってもよかったんじゃないか?」
「(話し……)」
「(百……!)」
傀薇の頭の中には先ほどの思いつめた八百万の姿があった。八百万の話がちゃんと聞きたい。だって知ってるのだ傀薇は八百万が本当にすごい人だと。何度だって声を大にして言いたい。百は世界一賢いすごい人なんだって。
そうしていると八百万が引き返してきた。動転した様子で傀薇たちを助けるべきなのか、逃げるべきなのか迷っている。そんな、そんなの……八百万らしくない。
「百!! なにかあるんでしょう!! あなたが何も考えてないはずがないんですの!! 何か、何か突破できる策があるんでしょう!!」
「悪い、聞くべきだった「これでいいか?」って。何かあるんだよな!?」
「でも轟さんの策が通用しなかったのに私の考えなんて……」
「百!! わたくしは言いましたわ! あなたより賢い人間は大人でも知らないって!! 百の考えが一番長けてるにきまってますの! わたくしはそうだと知ってますの!!」
「学級委員決めた時おまえ二票だったろ! 一票は俺が入れた! そういう事に長けた奴だと思ったからだ!」
八百万の顔つきが変わる。もう大丈夫だ、本気になった八百万はとてもすごいのだ。
相澤が来る、そのとき八百万が閃光弾で目くらましをし、轟と傀薇を降ろしてくれた。そして八百万のとっておきのオペレーションの概要を知る。傀薇は「やっぱり百のオペレーションはすごいんですの!」と絶賛し、指示通りに進める。相澤の個性の一瞬のインターバルを見抜き、轟が大氷壁を作る。その間に八百万が創造し、傀薇が外から攪乱、そしてついに相澤を捕らえることに成功した。条件達成最初のチームは轟・手繰・八百万チームだった。
「百、わたくしね、百にはたくさん感謝してるんですのよ」
「傀薇さん……?」
「だって敵だって言われてたわたくしを百が「ステキな個性ですわ! いい加減なことおっしゃらないで!」って庇ってくれましたのよ。わたくしとても嬉しくて……あの時の百はわたくしにとってのヒーローで……だからわたくしもあの時の百みたいに誰かを救える人になりたいって、あの時の百を指針に頑張ってきましたの」
「そんな、傀薇さんが……私を……」
「だから百がわたくしをあんな風に思ってるなんて驚いて……百にとってそんな風に映っているならそれは百がわたくしにそうあるように示してくれたからですわ」
感極まって涙目になる八百万にぎゅっと抱き着く「ありがとう、わたくしのヒーロー」「傀薇さんっ……!」二人をよかったなとみていた轟は、胸がもやっとするのを感じて首をかしげた。消化が悪かったか、吊るされていた反動だろうと納得することにした。
手繰傀薇は知っている。八百万百が最高にヒーローであることを。
八百万が傀薇に憧れているように、傀薇もまた八百万に憧れている。あのとき助けてくれた小さいなヒーローの背中を追っている。そのためにも傀薇は立派なヒーローに固執するのだ。傷ついている人に手を差し伸べられるような、笑顔を守れるような、誰かの心に光を灯せるような、そんな素敵なヒーローになるために。
「轟、一通り申し分ないが全体的に力押しのきらいがあります。そして八百万は万能ですが咄嗟の判断力や応用力に欠ける。手繰は何にしても力任せ。ゴリ押しできるだけの胆力がありますが自身の個性に対する信頼が大きすぎる。よって俺が個性≠消し、近接戦闘で弱みを突きます」
そうして万全の状態で挑んだはずが、なんと期末試験の実技は雄英教師陣と戦って勝てというものだった。あまりにハードルが高い。傀薇は八百万と轟と三人チームで相手は相澤だった。
「実力差が大きすぎる場合、逃げて応援を呼んだ方が賢明。轟、手繰……
轟と傀薇はヒーロー殺しステインとの邂逅を思い出した。大きすぎる実力者、逃げようにも負傷者が多く、その上逃げれる相手ではなかった。けれど逃げるための突破口を開くこと、それが最適解であったことを今は理解している。今回の試験ではもう間違えないとぎゅっと拳を握った。
「百、なにをし――」
「八百万! 何でもいい常に何か小物を創りつづけろ。創れなくなったら相澤先生が近くにいると考えろ。この試験どっちが先に相手を見つけるかだ。視認出来次第俺と手繰で引きつける。そしたらお前は脱出ゲートへつっ走れ。それまで離れるなよ」
傀薇が当然のように八百万に指示を仰ごうとしたところ、轟が恐るべき判断力と決断力でさっさと決めてしまった。たしかにそれでもいいかもしれない、八百万の創造なら誰より早くゲートまでいけるはずだ。でも、でも
「轟! 百の個性は脂質を使いますの! 大きなものを創るほど脂質が必要ですわ、ここはわたくしが針を出しますのでそれで相澤先生の接近を……」
「いや相澤先生との戦闘は厳しくなるだろう。力を温存しておく必要がある。八百万が適任だ」
「ええ……傀薇さんは戦闘に備えてください」
そういって八百万はマトリョーシカを創っていく。八百万が初めて個性で既製品と寸分違わぬものを創れた思い出の品だ。八百万の個性は万能故にとても難しく、創るまでにたくさんの工程を踏む必要がある。それが今では何も考えずとも出せるようになった、それだけ練習したマトリョーシカだった。
その努力の証を知っているだけに傀薇はやはり口を開いた。だって何かあるはずだもの百が何も考えていないはずがありませんの。百より賢い人間をわたくしは大人だって知らないのだから。
「百! わたくし――」
「やっぱりさすがですわね、轟さん……」
「何が」
「相澤先生への対策を打ち出すのもすぐ打ち出すのもそうですが、ベストを即決できる判断力です」
「…………普通だろ」
「普通……ですか……」
これはいけない、これはだめだ。傀薇は焦りを覚えた。八百万が自信を喪失しているのは知っていたが、まさかここまで重症だと思っていなかった。良くも悪くも轟と相性が悪い。
「雄英の推薦入学者……スタートは同じハズでしたのにヒーローとしての実技に於いて、私の方は特筆すべき結果を何も残せていません……騎馬戦はあなたの指示下についただけ……本戦は常闇さんに為す術なく敗退でした……」
「百、わたくしそれでも百のことを尊敬していましてよ、だって百は――」
「傀薇さんも……あなたはいつも自信に溢れていて、皆をいつの間にか引っ張って、まとめている。私にはない天性のカリスマ性……私、本当はずっと傀薇さんがうらやましかったのですわ……」
「百……」
初めての八百万の告白に傀薇は一瞬なんと声をかけていいのかわからなかった。だって八百万百は手繰傀薇にとって、かけがえのない幼馴染で、親友で……最も尊敬する人なのだ。だって、八百万は傀薇の――
「八百万マトリョーシカ……来るぞ!!」
「すみませ……」
「と思ったらすぐ行動に移せ。この場合はまず回避優先だ先手取られたんだから」
「八百万行け!」
「あ、そういうアレか、なら……」
「させませんわ!!」
捕縛布を轟に回されるタイミングで糸を付着させマリオネットで取り上げようとする。けれどそこで誤算が起きた。なんとこの布とても複雑で絡まるのだ。解けない、焦る傀薇を見逃すことなく、相澤が轟とまとめて縛り上げてしまった。
「手繰、人を助けるのはいいが、お前はいつも自分への注意が散漫になる。だからこうして一緒に捕まるんだ」
「こ、んなの……力尽くで……!」
「それをやってしまうのがお前の怖いところだよ。自分の身体が傷つくのを恐れない。でもそれじゃだめだ。肝心な時に救えなくなる。その点でいやお前は緑谷と似てるかもな」
ご丁寧に下にまきびしをまかれていた。どうにかして抜け出しても脱出にダメージが入った身体ではまきびしを回避できないのが明白だった。そしてその状態では相澤を止めることができないのも理解していた。
「随分と負担の偏った策じゃないか。もう少し話し合ってもよかったんじゃないか?」
「(話し……)」
「(百……!)」
傀薇の頭の中には先ほどの思いつめた八百万の姿があった。八百万の話がちゃんと聞きたい。だって知ってるのだ傀薇は八百万が本当にすごい人だと。何度だって声を大にして言いたい。百は世界一賢いすごい人なんだって。
そうしていると八百万が引き返してきた。動転した様子で傀薇たちを助けるべきなのか、逃げるべきなのか迷っている。そんな、そんなの……八百万らしくない。
「百!! なにかあるんでしょう!! あなたが何も考えてないはずがないんですの!! 何か、何か突破できる策があるんでしょう!!」
「悪い、聞くべきだった「これでいいか?」って。何かあるんだよな!?」
「でも轟さんの策が通用しなかったのに私の考えなんて……」
「百!! わたくしは言いましたわ! あなたより賢い人間は大人でも知らないって!! 百の考えが一番長けてるにきまってますの! わたくしはそうだと知ってますの!!」
「学級委員決めた時おまえ二票だったろ! 一票は俺が入れた! そういう事に長けた奴だと思ったからだ!」
八百万の顔つきが変わる。もう大丈夫だ、本気になった八百万はとてもすごいのだ。
相澤が来る、そのとき八百万が閃光弾で目くらましをし、轟と傀薇を降ろしてくれた。そして八百万のとっておきのオペレーションの概要を知る。傀薇は「やっぱり百のオペレーションはすごいんですの!」と絶賛し、指示通りに進める。相澤の個性の一瞬のインターバルを見抜き、轟が大氷壁を作る。その間に八百万が創造し、傀薇が外から攪乱、そしてついに相澤を捕らえることに成功した。条件達成最初のチームは轟・手繰・八百万チームだった。
「百、わたくしね、百にはたくさん感謝してるんですのよ」
「傀薇さん……?」
「だって敵だって言われてたわたくしを百が「ステキな個性ですわ! いい加減なことおっしゃらないで!」って庇ってくれましたのよ。わたくしとても嬉しくて……あの時の百はわたくしにとってのヒーローで……だからわたくしもあの時の百みたいに誰かを救える人になりたいって、あの時の百を指針に頑張ってきましたの」
「そんな、傀薇さんが……私を……」
「だから百がわたくしをあんな風に思ってるなんて驚いて……百にとってそんな風に映っているならそれは百がわたくしにそうあるように示してくれたからですわ」
感極まって涙目になる八百万にぎゅっと抱き着く「ありがとう、わたくしのヒーロー」「傀薇さんっ……!」二人をよかったなとみていた轟は、胸がもやっとするのを感じて首をかしげた。消化が悪かったか、吊るされていた反動だろうと納得することにした。
手繰傀薇は知っている。八百万百が最高にヒーローであることを。
八百万が傀薇に憧れているように、傀薇もまた八百万に憧れている。あのとき助けてくれた小さいなヒーローの背中を追っている。そのためにも傀薇は立派なヒーローに固執するのだ。傷ついている人に手を差し伸べられるような、笑顔を守れるような、誰かの心に光を灯せるような、そんな素敵なヒーローになるために。
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