八百万と泡瀬が戻ってきたときには傀薇は酷くボロボロになっていた。化け物もそれは同様であったが、痛覚がないのかまったく動きが衰えていなかった。気を失っている傀薇に迫る凶刃を寸でのところで八百万が盾を創造し守るも、その威力といったらすさまじく盾はボコボコに曲がってしまっていた。
八百万と泡瀬は冷や汗を流す。勝てる相手ではない。傀薇も全身血まみれだったが特に頭の損傷がひどかった。一刻も早く治療が必要な状態の傀薇を泡瀬に抱えてもらい、なんとか脱出しようと試みた。
「ああっ!!」
「八百万ーー!!」
逃げる最中八百万も頭を豪打された。グラグラと揺れる視界に泡瀬が焦った声を出した。もう一撃、八百万に入ろうとしたところで化け物の動きが止まった。それに八百万は見覚えがあった。ずっと傍で鍛え続けた個性。一緒に切磋琢磨した日々。間違うはずもない、これは
「傀薇さんっ……!」
「え!? なんだ!? 手繰なら背中に……」
「いいえ、傀薇さんは今あの化け物の中に。精神を乗っ取ったんですわ」
気絶したかに思われていた傀薇はなんてことはない、きっとずっと脳無の精神を乗っ取ろうと動いていたのだ。力の差が歴然である相手への対処法。相手を傷つけることも、傷つけさせることもなく行動不能にできる傀薇の優しい力だった。だが間違いなく許容限界のはずだった。傀薇の身体は今そんなことが続けられる状態ではない。激痛の中脳無の中で戦っているのは明白だった。
爆豪が攫われると、もう用は果たしたとばかりに化け物は帰ってしまった。八百万が手がかかりを逃がしてはならないと発信機を創造し泡瀬に着けてもらうと急いで合宿場まで戻った。
頭から血を流して意識が朦朧とする八百万と全身から血を流してぐったりと動かない傀薇を見たみんながそれはもう驚いていた。そこから入院の運びとなり、傀薇は三日間目を覚まさなかった。
「手繰……」
轟は爆豪奪還作戦の直前に傀薇の病室を訪れていた。全身ひどい怪我だが、特に頭を酷くやられたようで意識がまだ戻っていない。幸い後遺症などはなかったようだが、それでも傀薇のピンチに駆けつけることができなかったということは轟にとって辛いものがあった。
「轟! 落ち着くのですわ! 規則を破ればわたくしたちだって敵のそれと同じだと聞き分けてくださいまし……!」
「皆爆豪ちゃんが攫われてショックなのよ。でも冷静になりましょう。どれ程正当な感情であろうとまた戦闘を行うというのなら――ルールを破るというのなら、その行為は敵のそれと同じなのよ」
保須のときの傀薇の涙と蛙吹の言葉が重なった。眠る傀薇に問いかけても仕方のないことだとは思いつつも言わずにはいられなかった。
「手繰……お前の意識が戻ってたら、お前も俺らときたのか」
当然返答はなかった。規則正しく呼吸音がするだけだ。今度こそ正しくヒーロー活動を行うと言った傀薇、誰よりもヒーローらしさにこだわる傀薇。今回も傀薇は合宿場へ戻るというマンダレイたちの指示を無視して八百万のもとへ飛び出してしまったという。嫌な予感がするとそればかりで。結果的に嫌な予感とやらは当たり、傀薇はボロボロになったが結果的に八百万たちをB組のポイントまで行かせることができたため救えた命があったのも本当だ。
轟から見て傀薇と爆豪は仲が良かった。きっと傀薇もじっとなんてできないはずだと思うのになんだかそれが少し嫌だと思う自分もいてそう思う自分に驚いた。手繰傀薇はそういうやつで、そういうやつだから自分も救われて、そんな傀薇が好きだと思うのに嫌だと少しでも思ってしまったことに轟は嫌な気持ちになった。こんなこと思うなんてどうかしてる。
迷いを振り払うように傀薇の病室を後にした。爆豪奪還の目的のために心を切り替えた。
「あれ置物邪魔だな……どかせたらいいんだけど」
「手繰じゃねぇんだから無理だって……でも手繰の意識が戻ってればなぁ、来てくれてただろうな。あいつ爆豪と仲良かったし……」
緑谷を轟が、切島を飯田が担いでいたときそんな話を切島がした。それにわずかに轟が動揺してしまい緑谷の足場が崩れる。「わわっ轟くん大丈夫!?」「わりぃ。なんでもねぇ」その様子に八百万が何か合点がいったような顔をする。そわついた様子で意を決して轟に話しかけた。
「轟さんその……傀薇さんと爆豪さんの仲に嫉妬していらっしゃる……?」
「……嫉妬?」
「え!? 轟くん手繰さんのこと……?!」
「そうだったのか……! 全く気付かなかった!」
「あ、マジかわりぃ! 深い意味なかったんだけどつい言っちまった!」
さすがにお節介ではと八百万も思っていたが、それでも轟の無自覚っぷりについつい口を出してしまった。それでもいまいちわかっていない様子の轟だったが、そういえばと考えるしぐさをした。
「爆豪にも言われた。手繰にくっつきすぎだって。大好きなのかって聞かれたから大好きだって言ったんだが……自覚ないのかって言われて。なんの自覚かは教えてもらえなかったな」
「(かっちゃあああんっ! 轟くん思った以上に天然だなぁ……)」
「そりゃあれだろ、手繰のこと女子として好きってやつだろ」
「(切島くんぶったぎるううう!)」
「? 手繰は女子だろ。男子じゃねぇ」
「(ちがうそうじゃないいいい!)その……轟くんは手繰さんのこと……恋愛的な意味でその、す、すすすすす好きなんじゃないかなぁ」
「恋愛……」
めちゃくちゃ嚙んだが緑谷は頑張った。頑張って轟にわかるように伝えた。八百万は静かに興奮していたし、飯田もなにやらうんうん頷いていた。轟は恋愛という言葉に数秒考えると、得心がいったように頷いた。
「そうだな……俺手繰のことそういう意味で好きだ。爆豪と仲良くしてんのちょっと嫌だった」
「(よかった自覚したあああ!)ヤキモチ焼いてたんだね……」
「んまぁ、あの二人の場合恋愛のそれじゃねぇからあんま気にしなくていいと思うぜ」
「おう」
轟の恋愛事情にちょびっとほっこりするものの、ここは敵連合のアジト付近である。油断はできない。動きがあったのはそれからしばらくしてからのことだった。
結果的に言えば彼らは戦闘することなく爆豪奪還を完遂した。卵としてルール違反を侵さないできる範囲の活動であった。
八百万と泡瀬は冷や汗を流す。勝てる相手ではない。傀薇も全身血まみれだったが特に頭の損傷がひどかった。一刻も早く治療が必要な状態の傀薇を泡瀬に抱えてもらい、なんとか脱出しようと試みた。
「ああっ!!」
「八百万ーー!!」
逃げる最中八百万も頭を豪打された。グラグラと揺れる視界に泡瀬が焦った声を出した。もう一撃、八百万に入ろうとしたところで化け物の動きが止まった。それに八百万は見覚えがあった。ずっと傍で鍛え続けた個性。一緒に切磋琢磨した日々。間違うはずもない、これは
「傀薇さんっ……!」
「え!? なんだ!? 手繰なら背中に……」
「いいえ、傀薇さんは今あの化け物の中に。精神を乗っ取ったんですわ」
気絶したかに思われていた傀薇はなんてことはない、きっとずっと脳無の精神を乗っ取ろうと動いていたのだ。力の差が歴然である相手への対処法。相手を傷つけることも、傷つけさせることもなく行動不能にできる傀薇の優しい力だった。だが間違いなく許容限界のはずだった。傀薇の身体は今そんなことが続けられる状態ではない。激痛の中脳無の中で戦っているのは明白だった。
爆豪が攫われると、もう用は果たしたとばかりに化け物は帰ってしまった。八百万が手がかかりを逃がしてはならないと発信機を創造し泡瀬に着けてもらうと急いで合宿場まで戻った。
頭から血を流して意識が朦朧とする八百万と全身から血を流してぐったりと動かない傀薇を見たみんながそれはもう驚いていた。そこから入院の運びとなり、傀薇は三日間目を覚まさなかった。
「手繰……」
轟は爆豪奪還作戦の直前に傀薇の病室を訪れていた。全身ひどい怪我だが、特に頭を酷くやられたようで意識がまだ戻っていない。幸い後遺症などはなかったようだが、それでも傀薇のピンチに駆けつけることができなかったということは轟にとって辛いものがあった。
「轟! 落ち着くのですわ! 規則を破ればわたくしたちだって敵のそれと同じだと聞き分けてくださいまし……!」
「皆爆豪ちゃんが攫われてショックなのよ。でも冷静になりましょう。どれ程正当な感情であろうとまた戦闘を行うというのなら――ルールを破るというのなら、その行為は敵のそれと同じなのよ」
保須のときの傀薇の涙と蛙吹の言葉が重なった。眠る傀薇に問いかけても仕方のないことだとは思いつつも言わずにはいられなかった。
「手繰……お前の意識が戻ってたら、お前も俺らときたのか」
当然返答はなかった。規則正しく呼吸音がするだけだ。今度こそ正しくヒーロー活動を行うと言った傀薇、誰よりもヒーローらしさにこだわる傀薇。今回も傀薇は合宿場へ戻るというマンダレイたちの指示を無視して八百万のもとへ飛び出してしまったという。嫌な予感がするとそればかりで。結果的に嫌な予感とやらは当たり、傀薇はボロボロになったが結果的に八百万たちをB組のポイントまで行かせることができたため救えた命があったのも本当だ。
轟から見て傀薇と爆豪は仲が良かった。きっと傀薇もじっとなんてできないはずだと思うのになんだかそれが少し嫌だと思う自分もいてそう思う自分に驚いた。手繰傀薇はそういうやつで、そういうやつだから自分も救われて、そんな傀薇が好きだと思うのに嫌だと少しでも思ってしまったことに轟は嫌な気持ちになった。こんなこと思うなんてどうかしてる。
迷いを振り払うように傀薇の病室を後にした。爆豪奪還の目的のために心を切り替えた。
「あれ置物邪魔だな……どかせたらいいんだけど」
「手繰じゃねぇんだから無理だって……でも手繰の意識が戻ってればなぁ、来てくれてただろうな。あいつ爆豪と仲良かったし……」
緑谷を轟が、切島を飯田が担いでいたときそんな話を切島がした。それにわずかに轟が動揺してしまい緑谷の足場が崩れる。「わわっ轟くん大丈夫!?」「わりぃ。なんでもねぇ」その様子に八百万が何か合点がいったような顔をする。そわついた様子で意を決して轟に話しかけた。
「轟さんその……傀薇さんと爆豪さんの仲に嫉妬していらっしゃる……?」
「……嫉妬?」
「え!? 轟くん手繰さんのこと……?!」
「そうだったのか……! 全く気付かなかった!」
「あ、マジかわりぃ! 深い意味なかったんだけどつい言っちまった!」
さすがにお節介ではと八百万も思っていたが、それでも轟の無自覚っぷりについつい口を出してしまった。それでもいまいちわかっていない様子の轟だったが、そういえばと考えるしぐさをした。
「爆豪にも言われた。手繰にくっつきすぎだって。大好きなのかって聞かれたから大好きだって言ったんだが……自覚ないのかって言われて。なんの自覚かは教えてもらえなかったな」
「(かっちゃあああんっ! 轟くん思った以上に天然だなぁ……)」
「そりゃあれだろ、手繰のこと女子として好きってやつだろ」
「(切島くんぶったぎるううう!)」
「? 手繰は女子だろ。男子じゃねぇ」
「(ちがうそうじゃないいいい!)その……轟くんは手繰さんのこと……恋愛的な意味でその、す、すすすすす好きなんじゃないかなぁ」
「恋愛……」
めちゃくちゃ嚙んだが緑谷は頑張った。頑張って轟にわかるように伝えた。八百万は静かに興奮していたし、飯田もなにやらうんうん頷いていた。轟は恋愛という言葉に数秒考えると、得心がいったように頷いた。
「そうだな……俺手繰のことそういう意味で好きだ。爆豪と仲良くしてんのちょっと嫌だった」
「(よかった自覚したあああ!)ヤキモチ焼いてたんだね……」
「んまぁ、あの二人の場合恋愛のそれじゃねぇからあんま気にしなくていいと思うぜ」
「おう」
轟の恋愛事情にちょびっとほっこりするものの、ここは敵連合のアジト付近である。油断はできない。動きがあったのはそれからしばらくしてからのことだった。
結果的に言えば彼らは戦闘することなく爆豪奪還を完遂した。卵としてルール違反を侵さないできる範囲の活動であった。
戻る