轟から告白された傀薇だったがあまりに突然のことに何も言えずにいると、轟がダメ押しとばかりに「なぁ、だめか……?」と頭をこすりつけてきた。正直可愛かった。なんというか体育祭以降の轟は雛鳥と称したようにどこかぽやっとしていてほっとけない。いつかの女子会で話したように傀薇は手がかかる人がタイプであったし、轟に甘えられるのはまんざらでもなかった。が、轟に対して恋愛感情があるかときかれたらそれはNOだったためにここはいい加減に流されてはならないと心を強く持った。
「轟、わたくしも轟のことは好きですけれど、そういう好きではないのですわ」
「好きならいいだろ。付き合ってくれ」
「だからそういう好きでは――」
「なんでだ? 俺のことが嫌いじゃないなら物は試しに付き合ってくれ。俺は手繰と付き合いたい」
押しが強かった。なんといったものかと頭を悩ませながらとりあえず轟を放そうと柔らかく拒絶するも、嫌だとばかりに擦り寄られた。まるで猫のようである。正直に言おうとてもかわいい、かわいいけれどそうじゃないのだ。轟は猫ではなく人間で男性である。年頃の付き合ってもいない男女の距離感としてはふさわしくなかった。
「轟、」
「いやだ、お前を誰にも取られたくない……」
「誰も取りませんわ、だから――」
「俺の手繰でいてくれ。頼むから……」
付き合ってくれと切実に言われ傀薇ももうお手上げだった。極めつけに「無理やりにもほどかないんならもう期待する」といわれてしまう。轟の拘束も中々のものだが、傀薇が個性を使えば簡単に引きはがせるし、かなり痛いだろうが自力でもなんとかならないことはないだろう。けれどそれをするのは轟を完全に拒絶してしまいそうで、酷く傷つけてしまいそうでできなかった。できなかったことが答えだとでもいうように傀薇はもう観念した。
「わかりましたわ……わたくしたち、お付き合いするとしましょう」
「! 本当か……!」
「まぁ、いいお顔ですこと。轟って思ったよりわがままですのね」
「わりィ。でも後悔はしてねぇ、手繰が折れてくれた」
「ええ、折れてしまいましたわね……」
もう傀薇はげっそりしていた。思っていた何倍も手がかかる。傀薇も末っ子だが轟の末っ子パワーには脱帽だった。ここまで強請られればもう応えるしかないというもの。轟自体が大変母性本能をくすぐるタイプであったのも傀薇の敗因であった。
「ほら、轟……もう遅いですわ。早くお部屋に戻って休まなければ――」
「……戻んなきゃだめか?」
「ダメですわ」
「どうしてもか?」
「どうしてもですわ……!」
なんと轟付き合ったことに調子に乗ったのか傀薇の部屋に泊まるつもりであった。さすがにこれだけは引くわけにはいかない。さすがにそういう下心まではないだろうが、付き合ってすぐ泊るというのはいかがなものか。
「もっと手繰と一緒にいたかったんだけどな……」
「寮ですもの、またすぐ会えますわ」
「そうだな……なぁ手繰、傀薇って呼んでいいか。もう俺ら付き合ってんだろ」
「え、ええ……かまいませんわよ」
「傀薇も焦凍って呼んでくれ」
「え、ええ……」
押しが強い。傀薇が呼ぶのを待っているのか「呼んでくれ」と迫ってくる。口をまごつかせながらも意を決して口を開く「しょ、焦凍……」「ああ」満足そうに微笑む轟にああもうしょうがありませんわねと傀薇は完全降伏した。甘えられると弱いのだ。
「おやすみ、傀薇」
「おやすみなさいませ……焦凍」
最後にぎゅっと抱きしめられ傀薇は思わず身体を強張らせた。本当に付き合ってしまった。自分の思っていた以上に手がかかる恋人に傀薇は遠い目をするのだった。
そうして始まった仮免取得に向けての必殺技考案。尾白が何気なしに「そういえばUSJのとき手繰が使ったやつってもう必殺技だよな」と口にし、そこで傀薇は初めて「あれ必殺技でしたの!」と驚いていた。もうすでに必殺技ができていた。あとは名前を付けるだけである。
「傀薇のそれ、どんなやつだ?」
「敵を一塊にして糸で縛って一気に精気を吸い取る技ですわ」
「へぇ、多数の敵を無力化できんのか。便利だな」
傀薇と呼ぶ轟に尾白がえ、っという顔をした。なんか轟と傀薇の雰囲気が変わった気がする。二人というか厳密にいえば轟が出している雰囲気である。この二人もしかして……と息を呑んでいると、目ざとく二人を見つけた芦戸が「手繰ー! 夜詳しく話聞かせてー!」と声を上げる。それに傀薇は厄介なことになったとは思いつつも寮生活である上に轟がこんな調子なのでばれるのも時間の問題だろうと開き直るのだった。
「――で! ずばり轟となんかあったでしょ!」
共有スペースの一角で女子で集まり会話に興じる。この日は共有スペースにいる男子は少し遠い場所で物静かな数名がいるくらいだった。芦戸が我慢できないとばかりに本題に入った。葉隠も興味津々であったし、普段ストッパーに回るはずの八百万までそれはそれは期待に満ちた目をしていた。
「……わたくしたち、お付き合いすることになりましたの」
「きゃー!! これだよこれ! こういうの待ってた!!」
「おめでとー!! 轟くんと傀薇ちゃんすっごくお似合い!」
「傀薇さんおめでとうございます!!」
「おめでとーー!」
なんとも言えない傀薇の様子に蛙吹や耳郎が顔を見合わせる。比較的冷静である二人はなにかあるなと少し心配した。
「でも急だね。前までそんな感じじゃなかったよね?」
「ええ……そんな感じじゃなかったはずなのですけれど……」
「傀薇ちゃん何か悩んでいるのなら話してほしいわ。力になりたいもの」
「梅雨ちゃん……大したことではないのですわ。その……ちょっと流されてしまったところがありますの。轟に失礼な気がして……いえ、付き合うと決めたのですもの。こんな風に悩んでいること自体よくありませんわ」
傀薇の様子に轟押し強いんだと芦戸や葉隠は大興奮だったが、他の面々は手放しで喜べる状態ではないことを察し心配していた。
「私が思うに……轟ちゃんは傀薇ちゃんのことが大好きなのね。きっと彼は傀薇ちゃんがそういうことで悩んでると知ったら悲しむんじゃないかしら? 自分が傀薇ちゃんを悩ませてるって」
「ええ、轟さん本当に傀薇さんのことを好いていらして……自分でも感情のコントロールが出来なくなっているんだと思いますわ」
八百万たちはそういえばと合宿のときを思い出す。温泉で峰田を危うく引き上げるところだったのを大氷壁で守ってくれたはいいがあれは明らかにやりすぎだったし、カレーや肉じゃがを作るときも傀薇の姿を探しまわっていた。極めつけは傀薇が脳無と交戦して重体に陥ったときなど、轟の動揺はすごかった。誰よりも傀薇の見舞いに訪れていた轟を思い出し、あーうん、ほんと好きなんだなぁと感じる。
傀薇も轟の好意は疑う余地もなかったし、感情のコントロールが効かなくなっているというのにも心当たりがあった。あんな駄々っ子のような轟は初めて見た。けれど轟の家庭事情を知っている傀薇からすると今まで甘えたいのに甘えられなかった反動が来ているのではないかと思う。それが初めてそういった好意を抱いた傀薇に対し甘えたいという欲求がでてきているのならばやはり受け止めたいと思ってしまう。甘える轟は可愛かったし、なんだか本当にほっとけないのだ。
「ええ……やっぱりわたくし、轟のことほうっておけませんわ……わたくしがついてませんと」
「手繰さんの母性が……!」
「手がかかるもんねぇ……」
「やっぱりお似合いだねぇ」
密かに燃える傀薇に一気に微笑ましいムードになる。なんだ、何だかんだ上手くいきそうである。最後に蛙吹がケロケロっと鳴いて「今はそういう気持ちがなくても、付き合っているうちにそういう好きになるかもしれないわ。恋って突然落ちるものだもの」という。まことに真理であった。
「轟、わたくしも轟のことは好きですけれど、そういう好きではないのですわ」
「好きならいいだろ。付き合ってくれ」
「だからそういう好きでは――」
「なんでだ? 俺のことが嫌いじゃないなら物は試しに付き合ってくれ。俺は手繰と付き合いたい」
押しが強かった。なんといったものかと頭を悩ませながらとりあえず轟を放そうと柔らかく拒絶するも、嫌だとばかりに擦り寄られた。まるで猫のようである。正直に言おうとてもかわいい、かわいいけれどそうじゃないのだ。轟は猫ではなく人間で男性である。年頃の付き合ってもいない男女の距離感としてはふさわしくなかった。
「轟、」
「いやだ、お前を誰にも取られたくない……」
「誰も取りませんわ、だから――」
「俺の手繰でいてくれ。頼むから……」
付き合ってくれと切実に言われ傀薇ももうお手上げだった。極めつけに「無理やりにもほどかないんならもう期待する」といわれてしまう。轟の拘束も中々のものだが、傀薇が個性を使えば簡単に引きはがせるし、かなり痛いだろうが自力でもなんとかならないことはないだろう。けれどそれをするのは轟を完全に拒絶してしまいそうで、酷く傷つけてしまいそうでできなかった。できなかったことが答えだとでもいうように傀薇はもう観念した。
「わかりましたわ……わたくしたち、お付き合いするとしましょう」
「! 本当か……!」
「まぁ、いいお顔ですこと。轟って思ったよりわがままですのね」
「わりィ。でも後悔はしてねぇ、手繰が折れてくれた」
「ええ、折れてしまいましたわね……」
もう傀薇はげっそりしていた。思っていた何倍も手がかかる。傀薇も末っ子だが轟の末っ子パワーには脱帽だった。ここまで強請られればもう応えるしかないというもの。轟自体が大変母性本能をくすぐるタイプであったのも傀薇の敗因であった。
「ほら、轟……もう遅いですわ。早くお部屋に戻って休まなければ――」
「……戻んなきゃだめか?」
「ダメですわ」
「どうしてもか?」
「どうしてもですわ……!」
なんと轟付き合ったことに調子に乗ったのか傀薇の部屋に泊まるつもりであった。さすがにこれだけは引くわけにはいかない。さすがにそういう下心まではないだろうが、付き合ってすぐ泊るというのはいかがなものか。
「もっと手繰と一緒にいたかったんだけどな……」
「寮ですもの、またすぐ会えますわ」
「そうだな……なぁ手繰、傀薇って呼んでいいか。もう俺ら付き合ってんだろ」
「え、ええ……かまいませんわよ」
「傀薇も焦凍って呼んでくれ」
「え、ええ……」
押しが強い。傀薇が呼ぶのを待っているのか「呼んでくれ」と迫ってくる。口をまごつかせながらも意を決して口を開く「しょ、焦凍……」「ああ」満足そうに微笑む轟にああもうしょうがありませんわねと傀薇は完全降伏した。甘えられると弱いのだ。
「おやすみ、傀薇」
「おやすみなさいませ……焦凍」
最後にぎゅっと抱きしめられ傀薇は思わず身体を強張らせた。本当に付き合ってしまった。自分の思っていた以上に手がかかる恋人に傀薇は遠い目をするのだった。
そうして始まった仮免取得に向けての必殺技考案。尾白が何気なしに「そういえばUSJのとき手繰が使ったやつってもう必殺技だよな」と口にし、そこで傀薇は初めて「あれ必殺技でしたの!」と驚いていた。もうすでに必殺技ができていた。あとは名前を付けるだけである。
「傀薇のそれ、どんなやつだ?」
「敵を一塊にして糸で縛って一気に精気を吸い取る技ですわ」
「へぇ、多数の敵を無力化できんのか。便利だな」
傀薇と呼ぶ轟に尾白がえ、っという顔をした。なんか轟と傀薇の雰囲気が変わった気がする。二人というか厳密にいえば轟が出している雰囲気である。この二人もしかして……と息を呑んでいると、目ざとく二人を見つけた芦戸が「手繰ー! 夜詳しく話聞かせてー!」と声を上げる。それに傀薇は厄介なことになったとは思いつつも寮生活である上に轟がこんな調子なのでばれるのも時間の問題だろうと開き直るのだった。
「――で! ずばり轟となんかあったでしょ!」
共有スペースの一角で女子で集まり会話に興じる。この日は共有スペースにいる男子は少し遠い場所で物静かな数名がいるくらいだった。芦戸が我慢できないとばかりに本題に入った。葉隠も興味津々であったし、普段ストッパーに回るはずの八百万までそれはそれは期待に満ちた目をしていた。
「……わたくしたち、お付き合いすることになりましたの」
「きゃー!! これだよこれ! こういうの待ってた!!」
「おめでとー!! 轟くんと傀薇ちゃんすっごくお似合い!」
「傀薇さんおめでとうございます!!」
「おめでとーー!」
なんとも言えない傀薇の様子に蛙吹や耳郎が顔を見合わせる。比較的冷静である二人はなにかあるなと少し心配した。
「でも急だね。前までそんな感じじゃなかったよね?」
「ええ……そんな感じじゃなかったはずなのですけれど……」
「傀薇ちゃん何か悩んでいるのなら話してほしいわ。力になりたいもの」
「梅雨ちゃん……大したことではないのですわ。その……ちょっと流されてしまったところがありますの。轟に失礼な気がして……いえ、付き合うと決めたのですもの。こんな風に悩んでいること自体よくありませんわ」
傀薇の様子に轟押し強いんだと芦戸や葉隠は大興奮だったが、他の面々は手放しで喜べる状態ではないことを察し心配していた。
「私が思うに……轟ちゃんは傀薇ちゃんのことが大好きなのね。きっと彼は傀薇ちゃんがそういうことで悩んでると知ったら悲しむんじゃないかしら? 自分が傀薇ちゃんを悩ませてるって」
「ええ、轟さん本当に傀薇さんのことを好いていらして……自分でも感情のコントロールが出来なくなっているんだと思いますわ」
八百万たちはそういえばと合宿のときを思い出す。温泉で峰田を危うく引き上げるところだったのを大氷壁で守ってくれたはいいがあれは明らかにやりすぎだったし、カレーや肉じゃがを作るときも傀薇の姿を探しまわっていた。極めつけは傀薇が脳無と交戦して重体に陥ったときなど、轟の動揺はすごかった。誰よりも傀薇の見舞いに訪れていた轟を思い出し、あーうん、ほんと好きなんだなぁと感じる。
傀薇も轟の好意は疑う余地もなかったし、感情のコントロールが効かなくなっているというのにも心当たりがあった。あんな駄々っ子のような轟は初めて見た。けれど轟の家庭事情を知っている傀薇からすると今まで甘えたいのに甘えられなかった反動が来ているのではないかと思う。それが初めてそういった好意を抱いた傀薇に対し甘えたいという欲求がでてきているのならばやはり受け止めたいと思ってしまう。甘える轟は可愛かったし、なんだか本当にほっとけないのだ。
「ええ……やっぱりわたくし、轟のことほうっておけませんわ……わたくしがついてませんと」
「手繰さんの母性が……!」
「手がかかるもんねぇ……」
「やっぱりお似合いだねぇ」
密かに燃える傀薇に一気に微笑ましいムードになる。なんだ、何だかんだ上手くいきそうである。最後に蛙吹がケロケロっと鳴いて「今はそういう気持ちがなくても、付き合っているうちにそういう好きになるかもしれないわ。恋って突然落ちるものだもの」という。まことに真理であった。
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