仮免取得に向けて2チームに分かれての災害救助訓練に臨むことになった。傀薇はAチームに振り分けられ、轟が「同じだな」と嬉しそうに声をかけてきた。「よろしくお願いしますわ」とにこやかに返すとその様子を見ていた周りがニヤニヤしていた。クラスメイト初のカップル誕生に浮足立っているのだ。まぁ若干一名はリア充爆誕に血涙を流していたが。
飯田がリーダーとして進行を進めていくがとにかく話が長かった。だれてきた雰囲気に八百万が今一度情報を整理しようと仕切りなおす。設定は二時間前地下にある大型ショッピングモール最下層で火災が発生。現在は鎮火し、中にいた人々も避難を終えているが地下街のどこかに一人だけ逃げ遅れた要救助者がいるという設定だ。現在は停電しているが非常用電源が起動しており多少の明かりはあるという。
情報を確認し終えると爆豪がさっさと行ってしまった。時間勝負というのも一理あり、爆豪の後を切島となんとなくで上鳴がついていった。残りのメンバーの班分けは八百万が取り仕切り、傀薇は轟と常闇と周ることになった。
「なるほどこれはさすが八百万さんって感じのチーム分けだ。常闇くんの黒影 は捜索能力、パワー共に申し分ないし、轟くんの半冷半燃は災害現場でオールマイティに活躍できる。手繰さんのマリオネットは彼女自身のフィジカルも相まって瓦礫の撤去も楽に行える。唯一気がかりの黒影の暴走も轟くんの炎があれば――」
「ふふ、緑谷は相変わらず頭の回転が速いですわね」
緑谷を褒める傀薇に轟が「そうだな」と頷いて移動しようと促し、傀薇も地下街へと足を踏み入れたのだった。
地下街に入ると辺りは薄暗かったが轟の炎もあり黒影が暴走するようなことはなかった。しばらく歩いていると地震がした。結構な揺れに建物が倒壊する。天井が壊れ瓦礫が迫ってくるのを轟が氷結で防いだ。
瓦礫がそこら中に飛び散り、行く手を阻む。傀薇が個性を使い瓦礫を取り除いているのを轟たちは邪魔にならないよう大人しく見ていた。
「振動が起こってから約10分、余震がないところをみると地下街のどこかで崩落が起こったと考えたがいいな」
「轟、感謝する。お前が氷結で頭上を防いでくれなければ俺は瓦礫に埋もれていた」
「仲間を助けるのは当然だろ。しかし電源がイカれたのは痛いな」
「まぁ、なんとかなりますわ。電源がイカれたならきっと電源の復旧に誰かがすでに動いていてよ。わたくしがこの瓦礫をちょちょいっとやってしまいますから、お二人は大仕事に備えて温存していてくださいまし」
「大仕事……? なにかあるのか」
「もちろん! 要救助者を救うにはお二人の個性が必要にきまってますわ!」
瓦礫の山を前に当然のようににっこり笑う傀薇に轟と常闇は瞳を瞬かせた。ともすれば自分たちが要救助者ともいえる状況だというのに傀薇の心は訓練に向いていた。
「手繰お前……この状況でも訓練を続ける気なのか?」
「この状況もなにも、わたくしたちはヒーロー志望でしてよ。訓練で出来ないことは本番でもできませんの。救えないヒーローをヒーローと呼べないことをわたくしは知っているだけですわ」
「そうだな。……俺も手伝う。傀薇の個性程役に立たねぇがないよりましだろ」
「一理ある。俺も手伝おう」
「ええ、わたくしたち一輪托生ですわ!」
「一蓮托生、な」
「そうとも言いますわね!」
肝心なところでやはり間違う傀薇に轟が柔らかく笑う。手繰傀薇はいつだって大切なことに気付かせてくれる。後ろ向きだった気持ちが今は前を向いている。仮免を取るために、立派なヒーローになるために心は一つになっていた。
「なぜ非常灯がついたのか……」
「きっと誰かが先にやってくれましたのね。ありがたいですわ」
「誰か……電気……上鳴か」
「上鳴に指示を出したやつもいるだろうな。こんな機転が利く奴は緑谷か八百万か……それともう一人」
「爆豪ですわね!」
自信満々に答えた傀薇に轟がぴくっと反応するも静かに頷く。付き合ったと言ってもまだ嫉妬が抜けないのだ。傀薇の爆豪に対する信頼が見え隠れするたびにどうしても反応してしまうのは仕方がなかった。
「お前でも怪物を飼っているんだな」
「? 怪物……?」
「緑色の目をした怪物のことだ」
轟は意味がよくわからなかった。ちなみに常闇が言った緑色の目をした怪物というのは嫉妬のことであった。
だがそれから間もなくして大きな爆発音が響いた。
「この音、爆豪ですわね!」
「いつまた崩落するかわからねぇ状況であいつ何考えてやがる……!」
「爆発音は下から響いた!」
「地下6階最下層か。よりによって一番もろい場所で……。! 非常用電源を復旧させたのは爆豪……その上でこの爆破。この状況で救助訓練を続けてたのか!」
「焦凍! 壁から水が……!」
壁から水が溢れてきていた。それに轟は何かを理解したように常闇に黒影で床を破壊するよう指示を出す。この暗闇では制御が難しいという常闇に轟は自分の炎で抑えると返した。
そうして大穴を開けたすぐ下に、水に半分以上浸かった爆豪たちがいた。轟が氷結で道を作る。「こっちだ! 登って来い!」といった轟に対し爆豪は「誰がてめぇなんかの世話になるか!」と返す。意地でも世話になりたくない様子の爆豪に「ではわたくしが!」と糸を巻き付け釣り上げた。当然めちゃくちゃ怒られたが最終轟よりはましかと落ち着いていた。けれど轟の方は少しジェラってた。難しいバランスである。助かったとばかりにお礼を言う切島と上鳴に轟は冷静に返す。
「安心してる暇はねぇぞ。地下水はまだ収まっていない、俺が凍らせて食い止める。その間にお前らは脱出しろ」
「轟、俺も一緒に」
「おまえらの個性じゃこの状況に対応できねぇし近くにいたら氷結の巻き添えだ。足手纏いになりたくなけりゃとっとと行ってくれ」
「轟の言うとおりだ。事態は一刻を争う。脱出するぞ」
「お、おう」
「かっこつけちゃってよ! 上で待ってるからな!」
常闇を先頭に切島と上鳴が移動する中、傀薇はもの言いたげに轟を見ていた。爆豪も残る様子に傀薇は何か予感があった。
「傀薇も早く移動を。冷えるぞ」
「……脱出手段はありますの」
「ああ、ちゃんと確保してる。だから傀薇は早く――」
「……そう、わかりましたわ。上 で待っていましてよ」
「? ああ」
そういって傀薇も踵を返す。向かうは地下二階。地上ではなく少し下の場所だ。爆豪が残ったということは轟だけでは脱出は不可能ということなのだ。爆豪の個性は爆破である。爆破の使い道として考えるのは建物の破壊。けれどあれだけの水域は轟でもすべては凍らせられない。轟の最大出力は個性訓練で伸びたとは言えこの地下六階まであるショッピングモール全体を凍らせるのは無理だと踏んだ。
ならばきっとある程度上がったところで合流できるはずだ。そう考えていると向かう途中緑谷とすれ違った。
「手繰さん……!」
「緑谷……! そう、あなた焦凍たちと合流する気ですのね」
「ああうん。かっちゃんも残ったならきっと脱出手段的に僕の力が必要だと思って」
「ええ、そうでしょうね。早く行ってくださいまし。わたくしは地下二階あたりで待機してますわ」
「え!? いや手繰さんもはやく……待てよ、うん。手繰さんのマリオネットなら僕たちを一気に引き上げられるかも……」
「だからこその待機ですわ。わたくし降りるより登る方が得意ですの!」
得意げにワイヤーを出す傀薇に緑谷は「ああ! 障害物競争のときの!!」と合点がいく。傀薇が登り、三人を糸で引き上げていくのだ。そのために足場を先に作りに行くという傀薇に緑谷は託すことにした。
爆発音が響いて建物が揺れる。おそらく天井を突き破って移動しているだろう轟たちに傀薇はいよいよだと糸の準備をした。待機していた場所がよかったようで、緑谷たちが視認できた。
「みなさーん! ご無事ですのー!?」
「傀薇……!」
「ナイスすぎるよ手繰さん! ドンピシャだ! かっちゃんが! かっちゃんが足怪我してて!!」
「まぁそれは大変ですわね。爆豪からさっさと引き上げますわ。ちょっと痛いですけど我慢してくださいましね」
「ああ゛こんなん痛くねぇわ余裕だ舐めんな!」
「お元気そうでなによりですわ」
緑谷が杖になって爆豪を支えながら傀薇の糸を巻くのを手伝っていく。固定したのを確認して傀薇に順番に引き上げてもらっていた。そうして地下一階に来ると今度はみんなが助けにきてくれた。麗日の無重力 効果もあり割とスムーズに全員脱出することが出来た。
仮免試験まであと一週間。相澤は様々な苦難を与えていく。無事仮免をみんながとれるように。正規の活躍をできるように。また一回りプルスウルトラした傀薇たちは万全の状態で仮免に挑むのだった。
飯田がリーダーとして進行を進めていくがとにかく話が長かった。だれてきた雰囲気に八百万が今一度情報を整理しようと仕切りなおす。設定は二時間前地下にある大型ショッピングモール最下層で火災が発生。現在は鎮火し、中にいた人々も避難を終えているが地下街のどこかに一人だけ逃げ遅れた要救助者がいるという設定だ。現在は停電しているが非常用電源が起動しており多少の明かりはあるという。
情報を確認し終えると爆豪がさっさと行ってしまった。時間勝負というのも一理あり、爆豪の後を切島となんとなくで上鳴がついていった。残りのメンバーの班分けは八百万が取り仕切り、傀薇は轟と常闇と周ることになった。
「なるほどこれはさすが八百万さんって感じのチーム分けだ。常闇くんの
「ふふ、緑谷は相変わらず頭の回転が速いですわね」
緑谷を褒める傀薇に轟が「そうだな」と頷いて移動しようと促し、傀薇も地下街へと足を踏み入れたのだった。
地下街に入ると辺りは薄暗かったが轟の炎もあり黒影が暴走するようなことはなかった。しばらく歩いていると地震がした。結構な揺れに建物が倒壊する。天井が壊れ瓦礫が迫ってくるのを轟が氷結で防いだ。
瓦礫がそこら中に飛び散り、行く手を阻む。傀薇が個性を使い瓦礫を取り除いているのを轟たちは邪魔にならないよう大人しく見ていた。
「振動が起こってから約10分、余震がないところをみると地下街のどこかで崩落が起こったと考えたがいいな」
「轟、感謝する。お前が氷結で頭上を防いでくれなければ俺は瓦礫に埋もれていた」
「仲間を助けるのは当然だろ。しかし電源がイカれたのは痛いな」
「まぁ、なんとかなりますわ。電源がイカれたならきっと電源の復旧に誰かがすでに動いていてよ。わたくしがこの瓦礫をちょちょいっとやってしまいますから、お二人は大仕事に備えて温存していてくださいまし」
「大仕事……? なにかあるのか」
「もちろん! 要救助者を救うにはお二人の個性が必要にきまってますわ!」
瓦礫の山を前に当然のようににっこり笑う傀薇に轟と常闇は瞳を瞬かせた。ともすれば自分たちが要救助者ともいえる状況だというのに傀薇の心は訓練に向いていた。
「手繰お前……この状況でも訓練を続ける気なのか?」
「この状況もなにも、わたくしたちはヒーロー志望でしてよ。訓練で出来ないことは本番でもできませんの。救えないヒーローをヒーローと呼べないことをわたくしは知っているだけですわ」
「そうだな。……俺も手伝う。傀薇の個性程役に立たねぇがないよりましだろ」
「一理ある。俺も手伝おう」
「ええ、わたくしたち一輪托生ですわ!」
「一蓮托生、な」
「そうとも言いますわね!」
肝心なところでやはり間違う傀薇に轟が柔らかく笑う。手繰傀薇はいつだって大切なことに気付かせてくれる。後ろ向きだった気持ちが今は前を向いている。仮免を取るために、立派なヒーローになるために心は一つになっていた。
「なぜ非常灯がついたのか……」
「きっと誰かが先にやってくれましたのね。ありがたいですわ」
「誰か……電気……上鳴か」
「上鳴に指示を出したやつもいるだろうな。こんな機転が利く奴は緑谷か八百万か……それともう一人」
「爆豪ですわね!」
自信満々に答えた傀薇に轟がぴくっと反応するも静かに頷く。付き合ったと言ってもまだ嫉妬が抜けないのだ。傀薇の爆豪に対する信頼が見え隠れするたびにどうしても反応してしまうのは仕方がなかった。
「お前でも怪物を飼っているんだな」
「? 怪物……?」
「緑色の目をした怪物のことだ」
轟は意味がよくわからなかった。ちなみに常闇が言った緑色の目をした怪物というのは嫉妬のことであった。
だがそれから間もなくして大きな爆発音が響いた。
「この音、爆豪ですわね!」
「いつまた崩落するかわからねぇ状況であいつ何考えてやがる……!」
「爆発音は下から響いた!」
「地下6階最下層か。よりによって一番もろい場所で……。! 非常用電源を復旧させたのは爆豪……その上でこの爆破。この状況で救助訓練を続けてたのか!」
「焦凍! 壁から水が……!」
壁から水が溢れてきていた。それに轟は何かを理解したように常闇に黒影で床を破壊するよう指示を出す。この暗闇では制御が難しいという常闇に轟は自分の炎で抑えると返した。
そうして大穴を開けたすぐ下に、水に半分以上浸かった爆豪たちがいた。轟が氷結で道を作る。「こっちだ! 登って来い!」といった轟に対し爆豪は「誰がてめぇなんかの世話になるか!」と返す。意地でも世話になりたくない様子の爆豪に「ではわたくしが!」と糸を巻き付け釣り上げた。当然めちゃくちゃ怒られたが最終轟よりはましかと落ち着いていた。けれど轟の方は少しジェラってた。難しいバランスである。助かったとばかりにお礼を言う切島と上鳴に轟は冷静に返す。
「安心してる暇はねぇぞ。地下水はまだ収まっていない、俺が凍らせて食い止める。その間にお前らは脱出しろ」
「轟、俺も一緒に」
「おまえらの個性じゃこの状況に対応できねぇし近くにいたら氷結の巻き添えだ。足手纏いになりたくなけりゃとっとと行ってくれ」
「轟の言うとおりだ。事態は一刻を争う。脱出するぞ」
「お、おう」
「かっこつけちゃってよ! 上で待ってるからな!」
常闇を先頭に切島と上鳴が移動する中、傀薇はもの言いたげに轟を見ていた。爆豪も残る様子に傀薇は何か予感があった。
「傀薇も早く移動を。冷えるぞ」
「……脱出手段はありますの」
「ああ、ちゃんと確保してる。だから傀薇は早く――」
「……そう、わかりましたわ。
「? ああ」
そういって傀薇も踵を返す。向かうは地下二階。地上ではなく少し下の場所だ。爆豪が残ったということは轟だけでは脱出は不可能ということなのだ。爆豪の個性は爆破である。爆破の使い道として考えるのは建物の破壊。けれどあれだけの水域は轟でもすべては凍らせられない。轟の最大出力は個性訓練で伸びたとは言えこの地下六階まであるショッピングモール全体を凍らせるのは無理だと踏んだ。
ならばきっとある程度上がったところで合流できるはずだ。そう考えていると向かう途中緑谷とすれ違った。
「手繰さん……!」
「緑谷……! そう、あなた焦凍たちと合流する気ですのね」
「ああうん。かっちゃんも残ったならきっと脱出手段的に僕の力が必要だと思って」
「ええ、そうでしょうね。早く行ってくださいまし。わたくしは地下二階あたりで待機してますわ」
「え!? いや手繰さんもはやく……待てよ、うん。手繰さんのマリオネットなら僕たちを一気に引き上げられるかも……」
「だからこその待機ですわ。わたくし降りるより登る方が得意ですの!」
得意げにワイヤーを出す傀薇に緑谷は「ああ! 障害物競争のときの!!」と合点がいく。傀薇が登り、三人を糸で引き上げていくのだ。そのために足場を先に作りに行くという傀薇に緑谷は託すことにした。
爆発音が響いて建物が揺れる。おそらく天井を突き破って移動しているだろう轟たちに傀薇はいよいよだと糸の準備をした。待機していた場所がよかったようで、緑谷たちが視認できた。
「みなさーん! ご無事ですのー!?」
「傀薇……!」
「ナイスすぎるよ手繰さん! ドンピシャだ! かっちゃんが! かっちゃんが足怪我してて!!」
「まぁそれは大変ですわね。爆豪からさっさと引き上げますわ。ちょっと痛いですけど我慢してくださいましね」
「ああ゛こんなん痛くねぇわ余裕だ舐めんな!」
「お元気そうでなによりですわ」
緑谷が杖になって爆豪を支えながら傀薇の糸を巻くのを手伝っていく。固定したのを確認して傀薇に順番に引き上げてもらっていた。そうして地下一階に来ると今度はみんなが助けにきてくれた。麗日の
仮免試験まであと一週間。相澤は様々な苦難を与えていく。無事仮免をみんながとれるように。正規の活躍をできるように。また一回りプルスウルトラした傀薇たちは万全の状態で仮免に挑むのだった。
戻る