先生方の計らいで大晦日の一日だけ帰省が許された。プロヒーローの護衛付きという条件だが、それでも嬉しいもので傀薇はさっそく大晦日にそば職人を家に招いて修行をつけてもらうことにした。
「それではよろしくお願いいたしますわ!」
「はいよ。ではまずは基本的なことから」
呼んだ職人はものすごく厳しかった。時に怒号が飛び交うそれにシスコン気味な兄たちが割って入ろうとするのを母親が止め、恋人の為に一生懸命に頑張る娘を影ながら応援していた。
朝から晩までそば打ちに励んだ傀薇の作り上げたそばはかなりの量でそれを年越しそばとして使用人たちにも振る舞い、消費することにした。
けれど傀薇のガッツはたいしたもので、頑固一徹といわんばかりの職人にすら一目置かれ最後には「やるじゃねぇか嬢ちゃん。まだ手荒いが筋がいい。俺が言ったことに気をつけて練習すりゃいいそばが打てるさ」と認められたのだ。「はい師匠! わたくしをここまで鍛え上げて下さり、感謝いたしますわ!!」ここでも師弟愛が芽生えかけていた。熱いことである。
こうして傀薇のそばをみんなで食べ、年が明けていく。手繰家の大晦日はそば尽くしであった。
焦凍は実家に帰る前に許可を得て母親の病院を訪れていた。ちょうど昼時だったこともあり、病院の食堂で母親と昼食をとることにしたがそばが売り切れており、冷がビーフシチューを頼んだこともあり焦凍はかつ丼を頼んだ。友人の好物を彷彿させたのである。そこで緑谷と飯田という友達が毎回食堂でそれを頼むこと、補講に通ってやっと仮免をとれたこと、傀薇がクリスマスプレゼントを喜んでくれて、着けているネックレスをくれたことを話して、別れ際「私もがんばるね」と冷は言ってくれたのだった。
その後焦凍も帰省し、姉の冬美が作った黒豆をつまみ食いしていた。なんか手伝うかと聞いた焦凍が冬美に焦凍の布団を取り込むようにお願いするも、取り込んだ矢先焦凍は干したての布団のあまりの心地よさと日頃の疲れもあって寝てしまった。
起きて再び冬美を手伝おうと台所へ向かうと、そこには兄の夏雄がいた。
冬美は台所はいいから二人で池の鯉に餌をやってきてほしいと二人を追い出したのだった。まだぎこちない二人の距離を縮めようという気遣いであった。
ふと夏雄が昔兄と姉とよく遊んでいたボールを見つける。軽く驚かせようとふざけて投げたボールだったが、キャッチできずに弾けて飛んでいく。戸惑うように焦凍がボールを追いかけて掴もうとすると池に落ちてしまった。思わず笑ってしまった夏雄だったが、助けようと手を伸ばしたはいいものの滑って夏雄も落ちてしまった。そうして二人して風呂に入ることになったのだった。
「焦凍、学校楽しいか?」
「……楽しいとは少し違う。訓練は厳しいし、授業もびっしりあるし」
「そっか、そうだよな」
「でも、だからいいんだ」
「そっか!」
「夏兄こそ、大学は」
「大変だよー! でも楽しい!」
「彼女できたって姉ちゃん言ってた」
「っ、姉ちゃん、よけいなことを……」
照れくさそうにお湯に半分顔を沈めた夏雄を見た焦凍が小さく笑った。その顔が嬉しくて夏雄も笑みを深め、そうだとばかりに聞き返した。
「焦凍は? そんな子はいないのか?」
「いる」
「え! いんの! どんな子!?」
「すげぇ前向きで、いつも大事なことに気付かせてくれる。俺の事いつも見守ってくれてて、あいつのこと太陽って呼ぶ連中も多いけど、俺にとっては月みてぇな奴……そんで真っすぐでかわいいんだ」
「お、おお……! すげぇ惚気るじゃん……! もしかして体育祭でてたりした? 俺も見てるかも」
「出てたし、俺とも戦ってる。手繰傀薇っていうんだ」
「あー! あの子か! 華やかな子だったから覚えてるよ。ひときわ目立ってたもんな」
「目立つからいつも心配なんだ。俺にはもったいない奴だから……とられねぇか不安だ」
「……焦凍でもそんな心配するんだな。なんか、意外だ」
年相応に嫉妬する焦凍に親近感がわいた。アクセサリーにあまり興味のなかったはずの焦凍が肌身離さずネックレスをしているのを見てもしかしてと口にする。予想通り恋人から贈られたというネックレスに「おお……!」と思わず声に出してしまった。アクセサリーを贈るくらいなのだからその子も焦凍がすごく好きなんだろうなと夏雄は嬉しく思った。
それから友達の話もして、さっきのボールが昔まざりたいと思って見てたボールだったから驚いたという話に夏雄が胸を締め付けられ、じゃあ上がったらサッカーしようと言い出す。汗かいたらまた風呂に入ればいいという夏雄にそうだなと思った焦凍が快諾するが、冬美がお餅を取りに行くのを忘れ今から取りに行くという。冬美が出かけると台所にそばの材料があった。打つところだったのだろう。焦凍がそばに釘付けになっているのを見た夏雄がサッカーは今度にして一緒にそばを打つことにした。
「焦凍? 打たないのか?」
「……打ちたいと思ってたけど、打ったことない。夏兄は?」
「俺もないよ! え、初心者二人で打てるもんなの? ちょっと待ってろ、今ググる。……十割は難しそうだから、二八でやってみるか」
「いや十割がいいと思う」
「でも難しいって」
「そばは十割がうまいから」
焦凍の譲れない何かを感じ、気圧されるように夏雄はうなずく。けれどやはり初心者二人ではうまくいかず、そばがきみたいななにかになった。冬美が帰ってくるも材料も使い切ってしまい、仕方なしにこれを食べることになったのだった。
「そば打ちって大変なんだな……傀薇頑張ってくれてたの俺あんま理解してなかった」
「えっ、傀薇ちゃんそば打てるの!?」
「仮免取ったときお祝いにって打ってくれたんだ。すげぇ美味かった」
「随分ハイスペックなんだな、焦凍の彼女って……」
「俺なんもあいつに返せてねぇ……愛想尽かされる……」
「いやいやいくらなんでもそんな……! 焦凍は素直だからありがとうとか、好きとかちゃんと言葉にできてるんじゃないかな? そういうのってすごく大事なんだよー」
「(俺も気を付けねぇと……)」
それから年が明け、寮に帰るときに冬美が打ったそばを持たせてくれ、ご機嫌で帰ってくる焦凍だが傀薇もまた修行の成果としてそばを持ってきており同じものを持ってきたと笑いあうのだった。
冬美のそばと傀薇のそば、どちらも美味いそれを口にした焦凍はそれはもう幸せそうであった。
「それではよろしくお願いいたしますわ!」
「はいよ。ではまずは基本的なことから」
呼んだ職人はものすごく厳しかった。時に怒号が飛び交うそれにシスコン気味な兄たちが割って入ろうとするのを母親が止め、恋人の為に一生懸命に頑張る娘を影ながら応援していた。
朝から晩までそば打ちに励んだ傀薇の作り上げたそばはかなりの量でそれを年越しそばとして使用人たちにも振る舞い、消費することにした。
けれど傀薇のガッツはたいしたもので、頑固一徹といわんばかりの職人にすら一目置かれ最後には「やるじゃねぇか嬢ちゃん。まだ手荒いが筋がいい。俺が言ったことに気をつけて練習すりゃいいそばが打てるさ」と認められたのだ。「はい師匠! わたくしをここまで鍛え上げて下さり、感謝いたしますわ!!」ここでも師弟愛が芽生えかけていた。熱いことである。
こうして傀薇のそばをみんなで食べ、年が明けていく。手繰家の大晦日はそば尽くしであった。
焦凍は実家に帰る前に許可を得て母親の病院を訪れていた。ちょうど昼時だったこともあり、病院の食堂で母親と昼食をとることにしたがそばが売り切れており、冷がビーフシチューを頼んだこともあり焦凍はかつ丼を頼んだ。友人の好物を彷彿させたのである。そこで緑谷と飯田という友達が毎回食堂でそれを頼むこと、補講に通ってやっと仮免をとれたこと、傀薇がクリスマスプレゼントを喜んでくれて、着けているネックレスをくれたことを話して、別れ際「私もがんばるね」と冷は言ってくれたのだった。
その後焦凍も帰省し、姉の冬美が作った黒豆をつまみ食いしていた。なんか手伝うかと聞いた焦凍が冬美に焦凍の布団を取り込むようにお願いするも、取り込んだ矢先焦凍は干したての布団のあまりの心地よさと日頃の疲れもあって寝てしまった。
起きて再び冬美を手伝おうと台所へ向かうと、そこには兄の夏雄がいた。
冬美は台所はいいから二人で池の鯉に餌をやってきてほしいと二人を追い出したのだった。まだぎこちない二人の距離を縮めようという気遣いであった。
ふと夏雄が昔兄と姉とよく遊んでいたボールを見つける。軽く驚かせようとふざけて投げたボールだったが、キャッチできずに弾けて飛んでいく。戸惑うように焦凍がボールを追いかけて掴もうとすると池に落ちてしまった。思わず笑ってしまった夏雄だったが、助けようと手を伸ばしたはいいものの滑って夏雄も落ちてしまった。そうして二人して風呂に入ることになったのだった。
「焦凍、学校楽しいか?」
「……楽しいとは少し違う。訓練は厳しいし、授業もびっしりあるし」
「そっか、そうだよな」
「でも、だからいいんだ」
「そっか!」
「夏兄こそ、大学は」
「大変だよー! でも楽しい!」
「彼女できたって姉ちゃん言ってた」
「っ、姉ちゃん、よけいなことを……」
照れくさそうにお湯に半分顔を沈めた夏雄を見た焦凍が小さく笑った。その顔が嬉しくて夏雄も笑みを深め、そうだとばかりに聞き返した。
「焦凍は? そんな子はいないのか?」
「いる」
「え! いんの! どんな子!?」
「すげぇ前向きで、いつも大事なことに気付かせてくれる。俺の事いつも見守ってくれてて、あいつのこと太陽って呼ぶ連中も多いけど、俺にとっては月みてぇな奴……そんで真っすぐでかわいいんだ」
「お、おお……! すげぇ惚気るじゃん……! もしかして体育祭でてたりした? 俺も見てるかも」
「出てたし、俺とも戦ってる。手繰傀薇っていうんだ」
「あー! あの子か! 華やかな子だったから覚えてるよ。ひときわ目立ってたもんな」
「目立つからいつも心配なんだ。俺にはもったいない奴だから……とられねぇか不安だ」
「……焦凍でもそんな心配するんだな。なんか、意外だ」
年相応に嫉妬する焦凍に親近感がわいた。アクセサリーにあまり興味のなかったはずの焦凍が肌身離さずネックレスをしているのを見てもしかしてと口にする。予想通り恋人から贈られたというネックレスに「おお……!」と思わず声に出してしまった。アクセサリーを贈るくらいなのだからその子も焦凍がすごく好きなんだろうなと夏雄は嬉しく思った。
それから友達の話もして、さっきのボールが昔まざりたいと思って見てたボールだったから驚いたという話に夏雄が胸を締め付けられ、じゃあ上がったらサッカーしようと言い出す。汗かいたらまた風呂に入ればいいという夏雄にそうだなと思った焦凍が快諾するが、冬美がお餅を取りに行くのを忘れ今から取りに行くという。冬美が出かけると台所にそばの材料があった。打つところだったのだろう。焦凍がそばに釘付けになっているのを見た夏雄がサッカーは今度にして一緒にそばを打つことにした。
「焦凍? 打たないのか?」
「……打ちたいと思ってたけど、打ったことない。夏兄は?」
「俺もないよ! え、初心者二人で打てるもんなの? ちょっと待ってろ、今ググる。……十割は難しそうだから、二八でやってみるか」
「いや十割がいいと思う」
「でも難しいって」
「そばは十割がうまいから」
焦凍の譲れない何かを感じ、気圧されるように夏雄はうなずく。けれどやはり初心者二人ではうまくいかず、そばがきみたいななにかになった。冬美が帰ってくるも材料も使い切ってしまい、仕方なしにこれを食べることになったのだった。
「そば打ちって大変なんだな……傀薇頑張ってくれてたの俺あんま理解してなかった」
「えっ、傀薇ちゃんそば打てるの!?」
「仮免取ったときお祝いにって打ってくれたんだ。すげぇ美味かった」
「随分ハイスペックなんだな、焦凍の彼女って……」
「俺なんもあいつに返せてねぇ……愛想尽かされる……」
「いやいやいくらなんでもそんな……! 焦凍は素直だからありがとうとか、好きとかちゃんと言葉にできてるんじゃないかな? そういうのってすごく大事なんだよー」
「(俺も気を付けねぇと……)」
それから年が明け、寮に帰るときに冬美が打ったそばを持たせてくれ、ご機嫌で帰ってくる焦凍だが傀薇もまた修行の成果としてそばを持ってきており同じものを持ってきたと笑いあうのだった。
冬美のそばと傀薇のそば、どちらも美味いそれを口にした焦凍はそれはもう幸せそうであった。
戻る