ハイツアライアンス、砂藤の部屋で轟はメレンゲを潰さないように細心の注意を払って生地を混ぜていた。
「いいぞ轟……その調子だ。大丈夫できてるぞ」
「ほんとか。よし、このまま……」
「あ、待て力強くなってる! 潰れる! 潰れる!」
「おっと……難しいな、菓子作りって……」
「そりゃよりによってマカロンだもんなぁ……」
ホワイトデーが間近に迫ってきて、轟は傀薇に手作りのマカロンをプレゼントしようと砂藤を頼っていた。母親である冷にホワイトデーに贈るお菓子には特別なメッセージが込められていることを教えてもらい、それならばとマカロンを選んだはいいが、自分のそば好きを考慮して随分前から試作を繰り返して準備してくれたと思うと自分も同じだけの気持ちを返したいと思い手作りすることにした。
だがいかんせん、ニラさえまともに切れない轟である。一人では大惨事も大惨事だった。焦げ臭い匂いに隣の部屋だった砂藤が気づき、事情を理解した砂藤が教えてくれることになったのだ。
「やっぱむずかしいのか、これ」
「ああ……細かい工程を踏む必要があるからなぁ、湿度とかも関わってくる繊細な菓子なんだ」
「……えらいの挑んじまったな。これホワイトデーに間に合うか?」
「ギリギリだが……なんとかしようぜ! 手繰にやるんだろ?」
「……ああ、わりぃ砂藤、よろしく頼む」
「任せな!」
少しずつだが轟も確かに上達していた。マカロナージュも回を重ねるごとに手際がよくなっている。山のような失敗がちゃんと活きていた。砂藤の指導の賜物である。
マカロンの「あなたは特別な人」という意味はこの時間と手間にある。本当に特別な人に贈るでもないなら轟は早々に諦めていたところだった。真剣な轟の様子に砂藤もほっこりする。なんかいいよなこういうのって。
そうして失敗を更に重ね、時に成功し、ホワイトデー当日奇跡は起こる。満足のいくマカロンができたのだ。轟の喜色満面の笑みを見た砂藤は思わず涙ぐんでしまった。
「ありがとう砂藤。お前がいなきゃここまでこれなかった」
「よせやい! 轟こそナイスガッツだったぜ! もう一人でもマカロン作れんじゃねぇか!?」
「さすがにそれは無理だと思う。なんか……うっかりしそうだ」
「(ぼんやりしてるもんなぁ……)なら今度は手繰と作ってみろよ。たまにはそういうのもいいんじゃね?」
「そうだな……いつもねだってばかりだから一緒に作ってみるのもいいかもしれねぇ」
「ああ、きっと喜ぶぞ」
ラッピングまで綺麗に終えたマカロンが入った箱を抱え、それじゃと砂藤の部屋を後にする。向かうは傀薇の部屋だった。
「いらっしゃい焦凍」
「ん。傀薇これ……ホワイトデーの」
「ありがとう。ふふ、まだ部屋の中に入ってませんのに。焦凍の方が待ちきれませんのね」
「ああ、砂藤に協力してもらってがんばったんだ。傀薇に早く食べてほしい」
「わかりましたわ。せっかくだから一緒にいただきましょう。紅茶を淹れますわ」
「わかった」
勝手知ったるとばかりに轟も定位置に着く。誰よりも傀薇の部屋を訪れているのだから当然であった。傀薇がキャンディ茶葉の紅茶を淹れる。どことなくそわそわした雰囲気の轟に笑みがこぼれた。
「では開けますわよ……」
「ああ、早くあけてくれ。自信作だ」
「……まぁ! 自信作というだけありますわね、とても綺麗ですわ……難しかったでしょうに、焦凍頑張りましたのね」
「砂藤がすごい頑張ってくれたんだ。何回も失敗して、それでも根気強く教えてくれた。頭上がらねぇ」
「わたくしたちそろって砂藤にお世話になりましたのね。今度お礼しましょう」
「ああ。そうだ、砂藤が今度傀薇とマカロン作ってみたらどうだって言ってくれたんだ」
「名案ですわね。では砂藤のお礼にマカロンを作ってみませんこと?」
「いいと思う。きっと喜んでくれる」
甘い物を作るのも食べるのも好きな砂藤である。個性も甘いものを食べるとパワーアップする個性であるし、砂藤のお礼は甘いもので間違いがない。轟と傀薇の料理スキルに大きく貢献してくれた砂藤のことを思い、二人はマカロンを作ることに決めたのだった。
そうして「早く食べてみてくれ」とそわそわする轟に押され、傀薇が一つマカロンを摘まんだ。
「!! こ、これは……!!」
「どうだ? うまいか? 口に合ったか?」
「……」
「傀薇……? もしかしてあんまりうまくなかったか……?」
「いいえ、いいえ……すごくおいしくて……とても嬉しくて、幸せを噛みしめていたのですわ……」
「! ほんとか!? 傀薇も喜んでくれたんだな」
「ええとっても。ありがとう焦凍、わたくしのために作ってくださって」
「俺も……作ってみて菓子作りって大変なんだって実感したよ。いつもありがとうな、そば打ちも、菓子も……たくさんお前に幸せをもらってる」
「いえそんな、わたくしも……幸せにしてもらってますもの」
その言葉を轟はちゃんと理解できていた。好きな人が幸せそうに自分の作ったものを食べているのを見るのも幸せだ。「一緒に食べるともっと幸せですわよ」「そうだな」と今度は轟も一緒にマカロンに手を付ける。作るのって大変だ。時間も労力もかかる。けれど好きな人が喜んでくれるのを思うとその時間も決して苦ではないのだ。こんなに傀薇が喜んでくれるならまた作ってもいいと思えた。
「ふふ、次は砂藤を幸せにしませんとね」
「ああ、俺たち二人で幸せにしよう」
ともすれば誤解を招くようなことを言っているが二人は至って真剣であった。根がボケなのである。
そうしてどんなマカロンを作ろうか、ラッピングはどうしようかと楽しいホワイトデーは過ぎていく。一週間後、二人で砂藤にマカロンをプレゼントしたら感激のあまり号泣されたのは余談である。
「いいぞ轟……その調子だ。大丈夫できてるぞ」
「ほんとか。よし、このまま……」
「あ、待て力強くなってる! 潰れる! 潰れる!」
「おっと……難しいな、菓子作りって……」
「そりゃよりによってマカロンだもんなぁ……」
ホワイトデーが間近に迫ってきて、轟は傀薇に手作りのマカロンをプレゼントしようと砂藤を頼っていた。母親である冷にホワイトデーに贈るお菓子には特別なメッセージが込められていることを教えてもらい、それならばとマカロンを選んだはいいが、自分のそば好きを考慮して随分前から試作を繰り返して準備してくれたと思うと自分も同じだけの気持ちを返したいと思い手作りすることにした。
だがいかんせん、ニラさえまともに切れない轟である。一人では大惨事も大惨事だった。焦げ臭い匂いに隣の部屋だった砂藤が気づき、事情を理解した砂藤が教えてくれることになったのだ。
「やっぱむずかしいのか、これ」
「ああ……細かい工程を踏む必要があるからなぁ、湿度とかも関わってくる繊細な菓子なんだ」
「……えらいの挑んじまったな。これホワイトデーに間に合うか?」
「ギリギリだが……なんとかしようぜ! 手繰にやるんだろ?」
「……ああ、わりぃ砂藤、よろしく頼む」
「任せな!」
少しずつだが轟も確かに上達していた。マカロナージュも回を重ねるごとに手際がよくなっている。山のような失敗がちゃんと活きていた。砂藤の指導の賜物である。
マカロンの「あなたは特別な人」という意味はこの時間と手間にある。本当に特別な人に贈るでもないなら轟は早々に諦めていたところだった。真剣な轟の様子に砂藤もほっこりする。なんかいいよなこういうのって。
そうして失敗を更に重ね、時に成功し、ホワイトデー当日奇跡は起こる。満足のいくマカロンができたのだ。轟の喜色満面の笑みを見た砂藤は思わず涙ぐんでしまった。
「ありがとう砂藤。お前がいなきゃここまでこれなかった」
「よせやい! 轟こそナイスガッツだったぜ! もう一人でもマカロン作れんじゃねぇか!?」
「さすがにそれは無理だと思う。なんか……うっかりしそうだ」
「(ぼんやりしてるもんなぁ……)なら今度は手繰と作ってみろよ。たまにはそういうのもいいんじゃね?」
「そうだな……いつもねだってばかりだから一緒に作ってみるのもいいかもしれねぇ」
「ああ、きっと喜ぶぞ」
ラッピングまで綺麗に終えたマカロンが入った箱を抱え、それじゃと砂藤の部屋を後にする。向かうは傀薇の部屋だった。
「いらっしゃい焦凍」
「ん。傀薇これ……ホワイトデーの」
「ありがとう。ふふ、まだ部屋の中に入ってませんのに。焦凍の方が待ちきれませんのね」
「ああ、砂藤に協力してもらってがんばったんだ。傀薇に早く食べてほしい」
「わかりましたわ。せっかくだから一緒にいただきましょう。紅茶を淹れますわ」
「わかった」
勝手知ったるとばかりに轟も定位置に着く。誰よりも傀薇の部屋を訪れているのだから当然であった。傀薇がキャンディ茶葉の紅茶を淹れる。どことなくそわそわした雰囲気の轟に笑みがこぼれた。
「では開けますわよ……」
「ああ、早くあけてくれ。自信作だ」
「……まぁ! 自信作というだけありますわね、とても綺麗ですわ……難しかったでしょうに、焦凍頑張りましたのね」
「砂藤がすごい頑張ってくれたんだ。何回も失敗して、それでも根気強く教えてくれた。頭上がらねぇ」
「わたくしたちそろって砂藤にお世話になりましたのね。今度お礼しましょう」
「ああ。そうだ、砂藤が今度傀薇とマカロン作ってみたらどうだって言ってくれたんだ」
「名案ですわね。では砂藤のお礼にマカロンを作ってみませんこと?」
「いいと思う。きっと喜んでくれる」
甘い物を作るのも食べるのも好きな砂藤である。個性も甘いものを食べるとパワーアップする個性であるし、砂藤のお礼は甘いもので間違いがない。轟と傀薇の料理スキルに大きく貢献してくれた砂藤のことを思い、二人はマカロンを作ることに決めたのだった。
そうして「早く食べてみてくれ」とそわそわする轟に押され、傀薇が一つマカロンを摘まんだ。
「!! こ、これは……!!」
「どうだ? うまいか? 口に合ったか?」
「……」
「傀薇……? もしかしてあんまりうまくなかったか……?」
「いいえ、いいえ……すごくおいしくて……とても嬉しくて、幸せを噛みしめていたのですわ……」
「! ほんとか!? 傀薇も喜んでくれたんだな」
「ええとっても。ありがとう焦凍、わたくしのために作ってくださって」
「俺も……作ってみて菓子作りって大変なんだって実感したよ。いつもありがとうな、そば打ちも、菓子も……たくさんお前に幸せをもらってる」
「いえそんな、わたくしも……幸せにしてもらってますもの」
その言葉を轟はちゃんと理解できていた。好きな人が幸せそうに自分の作ったものを食べているのを見るのも幸せだ。「一緒に食べるともっと幸せですわよ」「そうだな」と今度は轟も一緒にマカロンに手を付ける。作るのって大変だ。時間も労力もかかる。けれど好きな人が喜んでくれるのを思うとその時間も決して苦ではないのだ。こんなに傀薇が喜んでくれるならまた作ってもいいと思えた。
「ふふ、次は砂藤を幸せにしませんとね」
「ああ、俺たち二人で幸せにしよう」
ともすれば誤解を招くようなことを言っているが二人は至って真剣であった。根がボケなのである。
そうしてどんなマカロンを作ろうか、ラッピングはどうしようかと楽しいホワイトデーは過ぎていく。一週間後、二人で砂藤にマカロンをプレゼントしたら感激のあまり号泣されたのは余談である。
戻る