「お願いがありますわ。何があっても 、わたくしをこの場から動かさないでくださいまし」
「あ? なんでまた」
「精神を乗っ取るというのは繊細な技術がいりますの。離れてしまえば糸が伸び、精神と精神を繋ぐ道が長くなりますの。長いと時間がかかってしまうのですわ。それにあまりにも離れると強制的に身体に戻ってしまいますの」
「なるほどねぇ。でもさすがに危なかったら動かすぞ!?」
「怪我は放置してくださいまし。死にそうなときだけお願いしますわ」
「おまえねぇ……!」
真剣な傀薇の眼差しに瀬呂は口ごもった。傀薇はいつだって真剣である。入試でも訓練でもそれは変わらなかった。訓練で出来るのなら、出来てしまうのなら本番だって傀薇はやり遂げるだろう。きっとこの場の誰よりもヒーローとして自分を認識している。自分の危険を顧みずただ目の前の敵を止めんと真剣だった。
「っきますわ!!」
「っと!!」
「かかった!!」
「位置ドンピシャあ!!」
「多勢に無勢をお許し下さい」
「いけマリオネット!!」
「ええ……!!」
罠にかかり沈んだ災厄に塩崎のツルと瀬呂のテープが伸び、拘束する。その隙を逃さんと傀薇は創造していた長く幾重にも折り重なったミノムシの糸ともしものときの針を付着させ精神を最悪の下へすべて移した。
「……やっぱりこれも改造されてますわよね」
「う……ア」
「殺……セ」
7つ、精神を確認した。それもいかにもヤバそうに化け物にかわっている。合宿のときの脳無と同じ空間だがただこちらのほうが明らかにやばかった。
これらすべてに傀薇は勝たなければならない。持ち前のフィジカルだけが武器であった。
「あなたたちも奪われてしまった犠牲者なのでしょうけれど、ごめんなさい。わたくしあれを止めるためにあなた方をやっつけますわ!」
言葉の軽やかさとは裏腹に、傀薇が重い拳をいれる。精神世界での優劣はその精神力で決まる。あとは単純な力比べである。個性を奪われ、脳無として無理やり改造されたであろう6つは比較的簡単に落ちた。けれど問題が7つめ、主人格であろう主を求めるそれだけはものすごく苦戦を強いられていた。
「わっ!! ちょっと手繰大丈夫なの!? 口から血ィ吐いたんだけど!!? マジェスティックのところではこんなことなかったのに……!」
「なんだって!? それは俺も知らないぞ!! バカがちゃんと説明していけっての!!」
「ねぇこれ動かして戻した方がいいんじゃないの!?」
「……いや、ダメだ! 死にそうなとき以外動かすなって言われてる。それにこれ……正直こいつが頼みの綱だわ!!」
燃え盛る炎が森を焼く中、炎で個性が使えないものたちは傀薇の周りに集まっていた。
傀薇の身体を守るようにマッドマンが先にここら一帯を沈めて鎮火してくれたのだ。傀薇のこの能力を知っている八百万からもくれぐれも動かさないよう言われている。
ついに切島が麻酔を投与することに成功し、動き回るほど麻酔の周りが早くなるのを八百万がマジェスティックに伝えた。
「委細承知した! さすが百ちゃん俺の見込んだ女だよ! さぁ皆さん! インターン生に頼りっぱなしはここまでにしよう!」
「それとマジェスティック! マリオネットがまだ――」
「傀薇ちゃんのことはわかってる! 大丈夫、さっさと眠らせて傀薇ちゃんも無事に返すよ……!」
けれど予想とは裏腹に、有効量を摂取したにも関わらず、災厄が眠ることはなかった。傷つきボロボロになっていくプロヒーローたち。慈悲無き拳が振り下ろされようとしたとき、それが起きた。
「……止まった!? なんでや!?」
「(傀薇ちゃん!!)皆さん今です! うちの子が中で頑張ってくれてる! この好機を逃してはいけない! あの子が作ってくれた隙を最大限に活かしましょう……!!」
傀薇がついに主導権を握ったのだ。ボロボロの身体でそれでも伝えんと傀薇は災厄の口を開いた。
「ま……スイ……は……アく……」
「ますい……麻酔! 百ちゃん! 追加できるかい!?」
「使わなかった麻酔が何瓶か!!」
「それもらうよ……!」
改造された災厄の身体は麻酔の量が足りていなかったのだ。傀薇は麻酔を飲み込まんと口を開いていた。
それに焦ったのは連合で糸を見つけた荼毘がそれを焼こうとする。ミノムシの糸は熱にも強く、非常に燃えにくい。糸が焼き切れるが先か、傀薇が麻酔を飲み込むのが先かといったところだった。
「傀薇ちゃんよく頑張った……!!」
マジェスティックのマホウで運ばれてきた麻酔をトガがナイフを投げて妨害しようとしたのを天喰が止める。ヒーローたちも必死だった。そしてついに傀薇が麻酔を飲み込んだ。けれどその瞬間糸が焼き切れ傀薇は主導権を奪われてしまった。
「だめっ! まだ……! まだ終わってませんの……!!」
「小蠅が邪魔をするなああああ」
まだ傀薇が精神世界に居座ることができたのは保険で刺した針が残っていたからだった。細く小さいそれを災厄の大きな体の中から見つけるのが困難だったためである。
傀薇の身体はとっくに限界を迎えていた。傀薇の本体の身体の方はそれが顕著で、絶えず血を吐き血の気をなくし、体温が下がっていくそれに託された瀬呂たちは死を意識した。ここで判断が降りた。降りてしまったのだ。
「どう……して……」
「傀薇ちゃん……ありがとう、本当によく頑張ってくれた」
「マジェスティック……わたくし、わたくしまだ……まだできますわ……お願いマジェスティック……」
それは虫の知らせだった。マジェスティックをこのままいかせてはいけないと思った。自分が頑張らなくてはならないのだと何かに駆られていた。
「百ちゃん、傀薇ちゃんを頼んだよ」
「ええ……!」
「やめて、お願い百、マジェスティック……わたくしまだ、まだできますの、ほんとですの。ほんとにわたくしまだ」
「傀薇ちゃん……君たちの決断と行動は 間違いなく正しかった。これから何が起きようともそれだけは確かさ」
「マジェスティ――」
傀薇の悲鳴のような声がこぼれ落ちる。八百万がマジェスティックのリングから身を乗り出す傀薇を抱きとめた。八百万も傀薇の身体が限界だとわかっていた。ここで傀薇を行かせては傀薇に命の危険があることは明白であった。一刻も早く治療を受けさせなければならない。
それでも暴れる傀薇を抑え込み八百万は思う。だって傀薇さんあなた……いつもは簡単に抜ける私の拘束さえ抜け出せないほど弱っているではありませんかと。
そうして遠ざかっていくマジェスティックの背中を傀薇は見えなくなっても追い続けた。それが傀薇が最後に見たマジェスティックの生きた姿であった。
「あ? なんでまた」
「精神を乗っ取るというのは繊細な技術がいりますの。離れてしまえば糸が伸び、精神と精神を繋ぐ道が長くなりますの。長いと時間がかかってしまうのですわ。それにあまりにも離れると強制的に身体に戻ってしまいますの」
「なるほどねぇ。でもさすがに危なかったら動かすぞ!?」
「怪我は放置してくださいまし。死にそうなときだけお願いしますわ」
「おまえねぇ……!」
真剣な傀薇の眼差しに瀬呂は口ごもった。傀薇はいつだって真剣である。入試でも訓練でもそれは変わらなかった。訓練で出来るのなら、出来てしまうのなら本番だって傀薇はやり遂げるだろう。きっとこの場の誰よりもヒーローとして自分を認識している。自分の危険を顧みずただ目の前の敵を止めんと真剣だった。
「っきますわ!!」
「っと!!」
「かかった!!」
「位置ドンピシャあ!!」
「多勢に無勢をお許し下さい」
「いけマリオネット!!」
「ええ……!!」
罠にかかり沈んだ災厄に塩崎のツルと瀬呂のテープが伸び、拘束する。その隙を逃さんと傀薇は創造していた長く幾重にも折り重なったミノムシの糸ともしものときの針を付着させ精神を最悪の下へすべて移した。
「……やっぱりこれも改造されてますわよね」
「う……ア」
「殺……セ」
7つ、精神を確認した。それもいかにもヤバそうに化け物にかわっている。合宿のときの脳無と同じ空間だがただこちらのほうが明らかにやばかった。
これらすべてに傀薇は勝たなければならない。持ち前のフィジカルだけが武器であった。
「あなたたちも奪われてしまった犠牲者なのでしょうけれど、ごめんなさい。わたくしあれを止めるためにあなた方をやっつけますわ!」
言葉の軽やかさとは裏腹に、傀薇が重い拳をいれる。精神世界での優劣はその精神力で決まる。あとは単純な力比べである。個性を奪われ、脳無として無理やり改造されたであろう6つは比較的簡単に落ちた。けれど問題が7つめ、主人格であろう主を求めるそれだけはものすごく苦戦を強いられていた。
「わっ!! ちょっと手繰大丈夫なの!? 口から血ィ吐いたんだけど!!? マジェスティックのところではこんなことなかったのに……!」
「なんだって!? それは俺も知らないぞ!! バカがちゃんと説明していけっての!!」
「ねぇこれ動かして戻した方がいいんじゃないの!?」
「……いや、ダメだ! 死にそうなとき以外動かすなって言われてる。それにこれ……正直こいつが頼みの綱だわ!!」
燃え盛る炎が森を焼く中、炎で個性が使えないものたちは傀薇の周りに集まっていた。
傀薇の身体を守るようにマッドマンが先にここら一帯を沈めて鎮火してくれたのだ。傀薇のこの能力を知っている八百万からもくれぐれも動かさないよう言われている。
ついに切島が麻酔を投与することに成功し、動き回るほど麻酔の周りが早くなるのを八百万がマジェスティックに伝えた。
「委細承知した! さすが百ちゃん俺の見込んだ女だよ! さぁ皆さん! インターン生に頼りっぱなしはここまでにしよう!」
「それとマジェスティック! マリオネットがまだ――」
「傀薇ちゃんのことはわかってる! 大丈夫、さっさと眠らせて傀薇ちゃんも無事に返すよ……!」
けれど予想とは裏腹に、有効量を摂取したにも関わらず、災厄が眠ることはなかった。傷つきボロボロになっていくプロヒーローたち。慈悲無き拳が振り下ろされようとしたとき、それが起きた。
「……止まった!? なんでや!?」
「(傀薇ちゃん!!)皆さん今です! うちの子が中で頑張ってくれてる! この好機を逃してはいけない! あの子が作ってくれた隙を最大限に活かしましょう……!!」
傀薇がついに主導権を握ったのだ。ボロボロの身体でそれでも伝えんと傀薇は災厄の口を開いた。
「ま……スイ……は……アく……」
「ますい……麻酔! 百ちゃん! 追加できるかい!?」
「使わなかった麻酔が何瓶か!!」
「それもらうよ……!」
改造された災厄の身体は麻酔の量が足りていなかったのだ。傀薇は麻酔を飲み込まんと口を開いていた。
それに焦ったのは連合で糸を見つけた荼毘がそれを焼こうとする。ミノムシの糸は熱にも強く、非常に燃えにくい。糸が焼き切れるが先か、傀薇が麻酔を飲み込むのが先かといったところだった。
「傀薇ちゃんよく頑張った……!!」
マジェスティックのマホウで運ばれてきた麻酔をトガがナイフを投げて妨害しようとしたのを天喰が止める。ヒーローたちも必死だった。そしてついに傀薇が麻酔を飲み込んだ。けれどその瞬間糸が焼き切れ傀薇は主導権を奪われてしまった。
「だめっ! まだ……! まだ終わってませんの……!!」
「小蠅が邪魔をするなああああ」
まだ傀薇が精神世界に居座ることができたのは保険で刺した針が残っていたからだった。細く小さいそれを災厄の大きな体の中から見つけるのが困難だったためである。
傀薇の身体はとっくに限界を迎えていた。傀薇の本体の身体の方はそれが顕著で、絶えず血を吐き血の気をなくし、体温が下がっていくそれに託された瀬呂たちは死を意識した。ここで判断が降りた。降りてしまったのだ。
「どう……して……」
「傀薇ちゃん……ありがとう、本当によく頑張ってくれた」
「マジェスティック……わたくし、わたくしまだ……まだできますわ……お願いマジェスティック……」
それは虫の知らせだった。マジェスティックをこのままいかせてはいけないと思った。自分が頑張らなくてはならないのだと何かに駆られていた。
「百ちゃん、傀薇ちゃんを頼んだよ」
「ええ……!」
「やめて、お願い百、マジェスティック……わたくしまだ、まだできますの、ほんとですの。ほんとにわたくしまだ」
「傀薇ちゃん……
「マジェスティ――」
傀薇の悲鳴のような声がこぼれ落ちる。八百万がマジェスティックのリングから身を乗り出す傀薇を抱きとめた。八百万も傀薇の身体が限界だとわかっていた。ここで傀薇を行かせては傀薇に命の危険があることは明白であった。一刻も早く治療を受けさせなければならない。
それでも暴れる傀薇を抑え込み八百万は思う。だって傀薇さんあなた……いつもは簡単に抜ける私の拘束さえ抜け出せないほど弱っているではありませんかと。
そうして遠ざかっていくマジェスティックの背中を傀薇は見えなくなっても追い続けた。それが傀薇が最後に見たマジェスティックの生きた姿であった。
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