3位に位置していたはずの手繰チームだったが、傀薇が助けを呼ぶ声に反応したところで意識が途切れていた。いつの間にか協議は終わっていて、自分たちのPが0になっていた。
精神に干渉する術をもつ傀薇はこの感覚に心当たりがあった。
「……何が起きたんだ? いつの間にか0Pになって終わったぞ……」
「あの小人の方のP穢らわしい取り方をしてしまった罰でしょうか……」
「いいえ、そうではありませんわ。この感覚わたくし覚えがありますの。精神に干渉する個性、おそらくあの心操って方の個性にまんまとかかってしまったのですわ」
「そういや意識なくなる直前声聞こえたよな、助けてくれーって」
「きっと彼だったのでしょう。策であったのならば何も大事はなかったということ、無事でなによりですわ!」
「なによりってお前、持ち点0だってのによぉ……俺らは無事じゃねぇぞぉ」
「あら、競技中であろうともヒーローたるもの、助けを呼ぶ声を無視するわけにはいきませんわ。わたくしたちはヒーローの卵らしくちゃんと助けを呼ぶ声に耳を傾けた 。何も間違ったことをしていませんわ」
堂々と間違ったことはしていないと言い切る傀薇に鉄哲たちははっとする。プロが見ている体育祭とだけあって、ヒーローとして最も大事なことがなんなのかを改めて自覚したのだ。進出こそ逃したが、自分たちはれっきとしたヒーローの卵であり、負けたとしても正しい行いをしたのだと認められた気がした。
「手繰……悪かったな、A組ってだけで目の敵にして。お前ほんといい奴だ……!!」
「それほどでもありますわ!! 鉄哲も熱く硬いハートを持っていらして素敵でしたわ!」
「慣れてくるとその自己肯定感の高さもすげぇいいと思うよ。クラスちげぇけどこれからも仲良くしような」
「骨抜も各所で柔軟な対応をしていただき助かりましたわ。わたくしたちはもう心の友でしてよ」
「太陽……! あなたはいつも正しく前を向いていらっしゃる……私も見習わせていただきます」
「塩崎のツルも本当に素晴らしかったですわ。個性が似ている者同士ともに切磋托生しましょう!!」
「切磋琢磨な」
「そうともいいますわ!」
相変わらずの傀薇のおバカさに思わず笑いが零れる。本戦にこそ進めなかったが、彼らの顔は負けた人間のそれではなく、どこまでも明るく希望に満ちたそれだった。
その姿を遠くから見ていた心操はぐっと拳に力をいれる。「負けたってのになんでそんな顔してんだよ……」勝ったのは自分だというのに、ちっとも勝てた気がしなかった。手繰傀薇の心に爪痕を残せなかった。それが酷く悔やしかった。
お昼も一緒にどうかと誘われたのを、八百万たちと一緒にとろうと断る。「またご一緒しましょう、今度連絡先渡しますわー!」とにこにこする傀薇に塩崎は感極まった様子で「ええ、ぜひ……!」と答えた。先ほどの一件でまたしても心酔したらしい。純粋である。
けれど困ったことに会場が入り組んでいて、あまり方向感覚のよろしくない傀薇は道に迷ってしまった。うろちょろしていると爆豪を見つけ、ちょうどいいところにと道を聞こうとすると焦った顔で口を塞がれ拘束された。どうしてですの。
「個性婚、知ってるよな」
轟の声が聞こえてきた。何やらお取込み中だったらしい。爆豪がわざわざ盗み聞きなんてするとも思えず、通路の途中に轟がいて、何やら深刻な話をしだし、でも爆豪は通りたいけど通れないみたいな感じなのだろうと理解した。わりと空気が読めますのね。
そうして傀薇も爆豪に拘束されているので聞くしかなく、そこで話された轟の事情はかなり深刻だった。轟の父親であるエンデヴァーは万年NO.2のヒーローでオールマイトに勝るべく努力したが敵わず、個性婚で子供にその野望を託した。個性婚で生まれた轟は理想通りの個性をもって生まれ、エンデヴァーは轟が幼いころから苛烈な教育を施し、母親はついに病んでしまい、轟に「お前の左側が醜い」と煮え湯を浴びせたという。轟の顔の左目付近に広範囲にある火傷の痕はその時のものだろう。轟はそれでも母親を憎んでいないようで、むしろ母親を追い詰めたエンデヴァーを憎み、思い通りになどならないと左側を封印することで反抗しているようだった。お母さんから継いだ個性だけで一番になるという轟に傀薇は思う。違いますのよ、轟。それはお母さんの個性でもエンデヴァーの個性でもない、あなた自身の個性なのですわ。と。
轟の話し相手であった緑谷が自分はずっと誰かに助けられてここにいる、と前置きしてそれでも自分を助けてくれた人たちに応えるためにも自分も勝つと宣言したところで爆豪から解放される。傀薇は緑谷とオールマイトの個性が似ていると話題にされたことを思い出し、だから轟は緑谷に固執しているのだと納得する。けれどそれでも轟の好敵手は自分である。轟がまだそうと認識してなくたって、傀薇はそうだと決めたのだ。そうであるために轟に誓ったのだ。本戦にこそ進めなかったが、それはでもこれから証明していけばいい。傀薇はこれから先、いくらでも轟にあなたの好敵手は自分だと示し続ける覚悟があるのだから。
「爆豪、意外とあなたいい奴ですのね」
「あ゛!? どこみてそういってんだ! 目まで腐ってんのか!?」
「思ったことを言ったまでですわ。会話の邪魔をする方が野暮でしたもの」
何でもない風に言う傀薇に爆豪はドン引きした。やっぱこいつ脳まで筋肉でできてやがる。バカだ。もうお昼時間も少ない、傀薇は慌てた様子で「それでは爆豪! 本戦頑張るのですわー!」といって踵を返す。ちなみに食堂は逆だった。傀薇のことをよく理解している八百万が心配して近くまで迎えにきてくれていたのでなんとかなった。本当によくできた幼馴染である。
けれどなんでも午後からチア服を着て応援合戦をしなければならないらしく慌ただしいものだった。
「百! せっかくですもの、チア服を着たぬいぐるみとか出せませんこと? わたくしが個性で動かしますわ!」
「まぁ……! 名案ですわ! さっそくお作りしましょう!!」
そうして可愛さもプラスされ、無敵に思えた応援合戦だったが……。
「どーしたA組!!?」
「峰田さん上鳴さん!! 騙しましたわね!?」
「あら、嘘でしたのね」
怒る八百万に対し、傀薇はのほほんとしたものだった。八百万ブランドのチア服である。その上可愛いぬいぐるみもいたことで傀薇はさほどダメージがなかった。傀薇が似合っているのは自然の理であったし、目立つのは結構好きである。ヒーローたるものこういった仕事もあるだろうといい経験として受け取っていた。大変前向きである。落ち込む八百万に傀薇が声をかける。
「応援合戦がなくとも、応援しようという心意気は大事ですわ。それに百が創ったものより優れたものはございません、つまりわたくしたちが一番輝いていますわ!」
「傀薇さん……」
「せっかくですものわたくしはこれを着て応援しますわ! かわいいぬいぐるみの応援団ですわ!」
そういって個性でぬいぐるみたちに激しいチアダンスを躍らせる。軽やかに飛び回り大技を繰り出していくそれにまるでサーカスを見ているように観客席から拍手が聞こえる。それにようやく八百万も笑顔を見せるのだった。
精神に干渉する術をもつ傀薇はこの感覚に心当たりがあった。
「……何が起きたんだ? いつの間にか0Pになって終わったぞ……」
「あの小人の方のP穢らわしい取り方をしてしまった罰でしょうか……」
「いいえ、そうではありませんわ。この感覚わたくし覚えがありますの。精神に干渉する個性、おそらくあの心操って方の個性にまんまとかかってしまったのですわ」
「そういや意識なくなる直前声聞こえたよな、助けてくれーって」
「きっと彼だったのでしょう。策であったのならば何も大事はなかったということ、無事でなによりですわ!」
「なによりってお前、持ち点0だってのによぉ……俺らは無事じゃねぇぞぉ」
「あら、競技中であろうともヒーローたるもの、助けを呼ぶ声を無視するわけにはいきませんわ。わたくしたちはヒーローの卵らしく
堂々と間違ったことはしていないと言い切る傀薇に鉄哲たちははっとする。プロが見ている体育祭とだけあって、ヒーローとして最も大事なことがなんなのかを改めて自覚したのだ。進出こそ逃したが、自分たちはれっきとしたヒーローの卵であり、負けたとしても正しい行いをしたのだと認められた気がした。
「手繰……悪かったな、A組ってだけで目の敵にして。お前ほんといい奴だ……!!」
「それほどでもありますわ!! 鉄哲も熱く硬いハートを持っていらして素敵でしたわ!」
「慣れてくるとその自己肯定感の高さもすげぇいいと思うよ。クラスちげぇけどこれからも仲良くしような」
「骨抜も各所で柔軟な対応をしていただき助かりましたわ。わたくしたちはもう心の友でしてよ」
「太陽……! あなたはいつも正しく前を向いていらっしゃる……私も見習わせていただきます」
「塩崎のツルも本当に素晴らしかったですわ。個性が似ている者同士ともに切磋托生しましょう!!」
「切磋琢磨な」
「そうともいいますわ!」
相変わらずの傀薇のおバカさに思わず笑いが零れる。本戦にこそ進めなかったが、彼らの顔は負けた人間のそれではなく、どこまでも明るく希望に満ちたそれだった。
その姿を遠くから見ていた心操はぐっと拳に力をいれる。「負けたってのになんでそんな顔してんだよ……」勝ったのは自分だというのに、ちっとも勝てた気がしなかった。手繰傀薇の心に爪痕を残せなかった。それが酷く悔やしかった。
お昼も一緒にどうかと誘われたのを、八百万たちと一緒にとろうと断る。「またご一緒しましょう、今度連絡先渡しますわー!」とにこにこする傀薇に塩崎は感極まった様子で「ええ、ぜひ……!」と答えた。先ほどの一件でまたしても心酔したらしい。純粋である。
けれど困ったことに会場が入り組んでいて、あまり方向感覚のよろしくない傀薇は道に迷ってしまった。うろちょろしていると爆豪を見つけ、ちょうどいいところにと道を聞こうとすると焦った顔で口を塞がれ拘束された。どうしてですの。
「個性婚、知ってるよな」
轟の声が聞こえてきた。何やらお取込み中だったらしい。爆豪がわざわざ盗み聞きなんてするとも思えず、通路の途中に轟がいて、何やら深刻な話をしだし、でも爆豪は通りたいけど通れないみたいな感じなのだろうと理解した。わりと空気が読めますのね。
そうして傀薇も爆豪に拘束されているので聞くしかなく、そこで話された轟の事情はかなり深刻だった。轟の父親であるエンデヴァーは万年NO.2のヒーローでオールマイトに勝るべく努力したが敵わず、個性婚で子供にその野望を託した。個性婚で生まれた轟は理想通りの個性をもって生まれ、エンデヴァーは轟が幼いころから苛烈な教育を施し、母親はついに病んでしまい、轟に「お前の左側が醜い」と煮え湯を浴びせたという。轟の顔の左目付近に広範囲にある火傷の痕はその時のものだろう。轟はそれでも母親を憎んでいないようで、むしろ母親を追い詰めたエンデヴァーを憎み、思い通りになどならないと左側を封印することで反抗しているようだった。お母さんから継いだ個性だけで一番になるという轟に傀薇は思う。違いますのよ、轟。それはお母さんの個性でもエンデヴァーの個性でもない、あなた自身の個性なのですわ。と。
轟の話し相手であった緑谷が自分はずっと誰かに助けられてここにいる、と前置きしてそれでも自分を助けてくれた人たちに応えるためにも自分も勝つと宣言したところで爆豪から解放される。傀薇は緑谷とオールマイトの個性が似ていると話題にされたことを思い出し、だから轟は緑谷に固執しているのだと納得する。けれどそれでも轟の好敵手は自分である。轟がまだそうと認識してなくたって、傀薇はそうだと決めたのだ。そうであるために轟に誓ったのだ。本戦にこそ進めなかったが、それはでもこれから証明していけばいい。傀薇はこれから先、いくらでも轟にあなたの好敵手は自分だと示し続ける覚悟があるのだから。
「爆豪、意外とあなたいい奴ですのね」
「あ゛!? どこみてそういってんだ! 目まで腐ってんのか!?」
「思ったことを言ったまでですわ。会話の邪魔をする方が野暮でしたもの」
何でもない風に言う傀薇に爆豪はドン引きした。やっぱこいつ脳まで筋肉でできてやがる。バカだ。もうお昼時間も少ない、傀薇は慌てた様子で「それでは爆豪! 本戦頑張るのですわー!」といって踵を返す。ちなみに食堂は逆だった。傀薇のことをよく理解している八百万が心配して近くまで迎えにきてくれていたのでなんとかなった。本当によくできた幼馴染である。
けれどなんでも午後からチア服を着て応援合戦をしなければならないらしく慌ただしいものだった。
「百! せっかくですもの、チア服を着たぬいぐるみとか出せませんこと? わたくしが個性で動かしますわ!」
「まぁ……! 名案ですわ! さっそくお作りしましょう!!」
そうして可愛さもプラスされ、無敵に思えた応援合戦だったが……。
「どーしたA組!!?」
「峰田さん上鳴さん!! 騙しましたわね!?」
「あら、嘘でしたのね」
怒る八百万に対し、傀薇はのほほんとしたものだった。八百万ブランドのチア服である。その上可愛いぬいぐるみもいたことで傀薇はさほどダメージがなかった。傀薇が似合っているのは自然の理であったし、目立つのは結構好きである。ヒーローたるものこういった仕事もあるだろうといい経験として受け取っていた。大変前向きである。落ち込む八百万に傀薇が声をかける。
「応援合戦がなくとも、応援しようという心意気は大事ですわ。それに百が創ったものより優れたものはございません、つまりわたくしたちが一番輝いていますわ!」
「傀薇さん……」
「せっかくですものわたくしはこれを着て応援しますわ! かわいいぬいぐるみの応援団ですわ!」
そういって個性でぬいぐるみたちに激しいチアダンスを躍らせる。軽やかに飛び回り大技を繰り出していくそれにまるでサーカスを見ているように観客席から拍手が聞こえる。それにようやく八百万も笑顔を見せるのだった。
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