「飾、ちょっといい?」
「はーい? パワロダせんせなになに?」
「これなんだけど……ヒーロー科の職場体験の指名におまえ宛のが何件か紛れてたんだと」
「……マ? きららサポート科なんだけど? え、企業系!?」
「残念ながらヒーロー事務所だよ」
「いやなんでだし!?」

パワーローダーから受け取った指名リストを見てみれば、派手さを売りにしているヒーローや、メディアを意識しているヒーロー事務所からの指名だった。いやあたしじゃなくてヒーロー科指名しろし。どう考えても貴重な指名枠の無駄遣いである。


「おまえが行きたいって言うなら行ってもいいけど……どうする?」
「にゃはは……あたしにその気あると思います?」
「ないな」
「ってことで全部キックでおなしゃーす。あたしはサポート科からどっかに転科する気ないんで〜」
「……おまえはうちの二大発明狂だからね。わかったよ、やっておく」
「あざまる〜!」

パワーローダーはやっぱりなと思いつつも、きららに秘められた可能性に思いを馳せた。
きららの個性は十分ヒーローとして通用するものであるし、むしろ応用の幅が広くどこでも引っ張りだこの個性だろう。ヒーローとしての心構えなどに対しての問題はあるが、熱血の気があるため周りに影響を受けていいヒーローになるだろうと思う。
元々はヒーロー科の受験に合格しているし、体育祭の戦績も申し分ない。指名も来た。今からヒーロー科に転科しても問題なくやっていけるだろう。

けれどきららは根っからの発明狂なのだ。発目と競い合うかのように生み出しては、あーでもないこーでもないと試行錯誤を繰り返している。
きららは野望のため、一心不乱に打ち込んでいる。

パワーローダーの心中は、惜しいと思う心と発目と並んで将来は化けるぞと楽しみな心が共存していたのだった。







「そういえば轟くん、コスチューム変わってたけど、グローブも着けたんだね! なんかすごい氷も炎もキラキラしてて驚いたよ!」
「ああ、それは俺も驚いた」
「君も知らなかったのか?」
「ちゃんとこれで個性使ったのは今回が初めてなんだ。実践訓練は体育祭明けてからなかったからな……飾が言った通り、威力も底上げされてたし、各所で動きをサポートしてくれた。いい品だ」
「え、ってことはそれ飾さんが作ったの!? 通りでキラキラしてるはずだ……」
「彼女の個性だったな。個性を強化してくれているのか」

轟たちは職場体験中、色々あってヒーロー殺しステインと対峙することになり、轟はそこで初めてきららからもらったサポートアイテムで個性を使った。氷も炎も出せばえらくキラキラと煌めき出し「お」と最初は轟も驚いたが、グローブ自体にきららの個性、デコレーションが施されているためその関係だろうと納得した。

ヒーロー殺しを確保することに成功したものの、3人は実にボロボロであった。搬送された病院で話題はやはり、轟のえらくキラキラした個性に移るのであった。


「学校始まったら、改めて飾に礼言わねぇとな。助けられた」
「そうだね。って……それはそうと、轟くん、飾さんと仲良かったんだ?」
「仲……は、いいんじゃねぇか? 話したの騎馬戦のチーム決めのときと体育祭明けにこれ貰ったときの2回だけだが……いい、と思う」
「(2回なんだ!?)そ、そうなんだ」
「友情に科の違いなど些細なこと。これからもいい関係を築いていけたらいいな」
「ああ」

きららに友情で終わる気などない、そんなことは知らない3人はそれからも和気藹々と話を続けるのであった。







「なぁ、飾いるか?」
「え、轟!?」
「なになにきらら!?」
「これってあれか!? あの呼び出しか!?」
「? あの、がなんなのかわからねぇが……呼んでくれると助かる」

轟は職場体験が終わると、すぐにきららの教室を訪ねた。
奥にきららは見えたが、轟には気づいていないようで何やら作業に熱中しているようだった。女子生徒の一人がきららに「轟来てるよ、呼んでる」と声をかけてくれ、きららは「え!? とどしょ!?」と慌てた様子で駆け寄ってきた。


「どったのー? 教室来るとかびっくりぽん」
「おまえに話したいことあったんだ。連絡先しらねぇから教室来たんだが……迷惑だったか?」
「まっさかぁ! 話したいことってやっぱアイテム関係?」
「ああ、おまえの作ったサポートアイテム、すげぇよかった。おかげで大分助かった。これなかったらちょっとやばかったかもしんねぇ」
「ヒーロー殺しと接触したんだって? 力になれたんならうれぴよ! とどしょも無事でなにより!」
「ありがとな。……これ、よかったら食べてくれ。礼だ」
「えー! そんなんいいのに!」
「俺の気がすまねぇ、もらってくれねぇか?」
「んんっ! もらう〜!」

なに、言い方はちゃめちゃきゃわなんだが。
てかこれいいとこのお菓子じゃん! 坊ちゃん!! お育ちがいい!!
お姉さんが選んでくれたの? とどしょ末っ子でしょそんな感じするわ〜! ってかお姉さんに聞くとかかわ。仲いいのいいね〜!


「でも個性使ったらキラキラしてて驚いた」
「いいでしょ〜? ちょーオキニなの」
「やっぱあれおまえのデコ? で出てくる感じ変わんのか?」
「そそ。デザインとかパーツに何を使うかで大分変わんの」
「……思ったんだが、俺には可愛すぎねぇか?」
「えーなんで? とどしょだからいいんだよ。似合ってる! もうどんぴしゃ!」
「そう、なのか?」
「絶対そう!」
「ならいいか」

いいんかい! きららは言っておいてなんだが、轟の素直さに内心でツッコんだ。
イケメンが可愛いくデコってあるアイテムぶっ放してる姿こそ至高と思っているきららにとって、轟のそれは似合ってるなんてもんじゃないが、そこまで見た目にこだわりがなさそうな轟がちょっと心配になりもした。とどしょ、なんか頼めばなんでもやってくれそー。


「ねね、とどしょ連絡先交換しよ! きらら、とどしょに色々作りたいんだー!」
「お。いいのか? おまえのサポートアイテムってほしい奴いっぱいいるだろ」
「そ? でもきららはとどしょに作りたいの」
「? 俺特になんもしてやれねぇぞ?」
「まっさかぁ! とどしょの個性がきららの理想の個性なの。だからもう作らせてもらえるだけでうれぴよの極み」
「理想の個性……か」
「そ。あたしにはキラっとデコったあげみざわなアイテムで、世界をキラキラにするっていう野望があんの! 映え必至の氷と炎の夢の共演! きっと世界で一番キラキラしてる!」
「……そうか」

轟はきららの理想の個性という発言に対して、体育祭前とは違った感情で受け止めることができたことをしっかりと実感していた。緑谷が君の個性だと言ってくれた。母が血に囚われることはないと願ってくれた。轟はもう自分の個性左側を憎んでいなかった。

世界で一番キラキラしてる個性だと言ったきららの表情の方が、キラキラしているように見えた。自分の個性は人をキラキラさせることができる、いい個性だったのかとなんだか少し嬉しくなった。


「あ、でももちろんとどしょのことも好きだよ! どタイプ!」
「お、おう? 俺も飾のことは好きだぞ」
「マ!!? え、きゃぱい……やばたん……語彙力消えた……」
「大丈夫か?」
「だいじょばない……えー……とどしょ結婚しよ」
「それは無理だ」
「即答!!」

しっかり連絡先は交換した。

それはそれとして、朝一での一連の出来事は色々な意味で衝撃が強すぎたのできららは一日中使い物にならなかった。発目が珍しくチョコを口に放り込んだりしていたが、何を食べているのかも気づかずにいるほどで、気がついたら家にいた。

正気に戻ったのは夜であったという。戻ったは良いが、語彙力は戻らず「すき」「きゃぱい」「とどしょきゃわ……」「とどしょしか勝たん……」と呟いていたという。

轟も轟でくしゃみが出たりして風邪を疑ったそうな。
もらったお菓子は大事に食べた。腐らせてなるものか。


 


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