期末試験を終えて、いよいよ待ちに待った夏休みがやってきた。
きららは轟と約束した通りUSJへと繰り出していた。


「とどしょとどしょ! きららこれつけるけど、とどしょどうする?」
「被り物か? 色々あるな」
「興味あるならつけてみる? 男の人でもつけてる人はいるにはいるよ」
「そうだな……」

轟は真剣に悩んでいた。けれど結局「何がいいのかよくわかんねぇ。飾が選んでくれ」と任された。きららは自分に茶色い熊のカチューシャを選びつつ、目を輝かせて「おけまる!」とあれこれと手に取って試着してもらうのだった。


「お。前が見えねぇ」
「とどしょ頭ちっさ! 被り物系はむりぽ」

「……こんな可愛い大魔王おる??」
「大魔王……?」

「とどしょボンボン系も似合うのやばたん……きゃわ」
「紐が気になんな……」

「めっちゃ組み分け熟考されてそだね?」
「なんかチーム決めんのか?」

散々いろんなものを試し、明らかにネタ系のものを被らせてはきゃはきゃは笑っているきららに、轟もようやく遊ばれていることに気付き「飾……」と恥ずかしそうに呼んだ。


「ごめりん。マジで選ぶとこれかなー……ん、鬼かわ!」
「またかわいいか」
「とどしょは可愛いもん」
「……そうか」

きららの感性は轟にとってはよくわからないものであったが、そういった感覚は人それぞれだろうと轟は割り切っていた。きららが轟に選んだのはたれ耳の黒い白いカチューシャだった。最強におかわ。


「よし、とどしょ」
「なんだ?」
「今からちょー人気のアトラクションを制覇します。死ぬ気でついてきて」
「お、おう?」

予め発券していた整理券をぱっと広げながらきららは至極真剣な顔をしていた。なんだか仕事人の風格だった。







きららに手を引かれるままついたのは何やら壮健な城であった。物凄く厳かな感じである。
さっそくアトラクションに乗ることになり、轟は初めての経験に少しそわっとした。何が始まるんだ。


『こっちよ。みっつ数えたら展望台って叫んで。いいわね? わん、つー、すりー!』
「展望台……お?」
「ぶはっ、とどしょきゃわたん」

アトラクションのムービーに従って轟は言われた通り口に出した。けれど意外と口にしてるやつが少ない……というか轟しか言ってなかった。「俺だけだったな」「めんごめんご。今度はきららもいうー!」「なら次は一緒だな」「んん゛そだねー!」あまりにも素直で可愛い。


『ごめんねみんな! 椅子はちょっと揺れるけど、落ちた人はいないから〜!』
『うん、今週はね!』
「……落ちたやついんのか。大丈夫か?」
「んふふっ! そういう設定ってだけだよぉ……!」
「そうなのか」

椅子が揺れてても轟は轟だった。轟の天然具合が絶妙に腹筋をえぐる。
その後も急接近してきたドラゴンだったり、火だったりに「お」とリアクションをする轟に笑った。


「とどしょどだったー?」
「すごかった。ドラゴンとか、炎とか、滝とかすげぇリアルだったな」
「でしょでしょー!」
「それはそうと、まぐるってなんだ?」
「マグルはねー――」

説明すると轟は「なんか、色々大変な世界なんだな」と神妙な顔をしていた。「あの主人公はすげぇ奴だと思う」「そだねー! 本当に英雄になっちゃうしね」「俺もあいつに負けないくらい立派なヒーローにならねぇとな」「……とどしょならなれるよ」ただのアトラクションだったはずなのに、轟は立派なヒーローになるという思いを募らせていた。
きららはあれー? そんな要素あったっけー? と思いつつ、真剣な轟に対して本心を述べた。


「なれるよ。だってとどしょキラキラしてるもん」
「キラキラ……ああ、おまえの作ったアイテムと個性のおかげでキラキラはするようになったな」
「そーゆう意味じゃなくて……夢叶えようって頑張るとどしょはキラキラしてるってこーと!」
「……俺が?」
「そーだよ。なんか体育祭終わってからとどしょ雰囲気変わったよねー。前より絡みやすいし、優しいし、それに強くもなってる!」
「そう、か?」
「うんうん。頻繁にアイテムメンテしてるでしょ? だからわかるよ。出力上がってんなぁとか、ちょっと直さないとだなぁとか。そーゆうの全部とどしょが成長してる証じゃん?」

轟に渡したサポートアイテムは手に直接触れるということもあって、最適解でありつつ、轟の成長に合わせてそちらも調整する必要があった。
轟の個性に耐えうるグローブでなくてはならないし、轟の個性を更に底上げできるものでなければならない。轟もそれを理解していた。きららはアイテムを持っていく度にとても嬉しそうに轟の成長を喜んでくれていたから。


「ありがとな」
「お安い御用まる!」

その後も人気のアトラクションを一通り網羅し、レストランで食事をして、またアトラクションを回って、小腹が空いたら食べ歩きできるフードを漁った。

あの魔法界の英雄が気になるならと、そちらのレストランも少し覗き、名物であるバターのビールを絶対飲むべきだと言って頼んだ。


「とどしょとどしょ。これ飲み方あんの。これをこうして……髭を作る!」
「ふはっ」
「お、とどしょが声上げて笑うとか激レアじゃん? 写真撮ってい?」
「かまわねぇけど……そうか、そうやって飲むんだな」

かまわねぇけどの最初の二文字くらいでもうきららは秒で撮っていた。いきゃめんすぐる。
轟もそういうものと理解してくれたらしく、同じように髭を作ってくれたが、髭があってもイケメンだった。
せっかくだから一緒に写真を撮ろうと思う。隣の席に移動してアプリを起動する。


「とどしょ〜、1たす1は〜?」
「2」
「……おけまる! とどしょきゃわ〜!」
「なんか目とかでかくなってたな」
「そういうアプリなの。加工無しでもかわいいが、加工ありだとほんとにきみ神だな??」
「? 俺は人間だぞ?」
「んふふっ、そんだけかわいいってこと〜!」
「おにかわってやつか」
「そう! おにかわ〜!」

思わずかわいいが過ぎてわしゃわしゃと轟の頭を撫でまわす。轟はきょとんとした顔でされるがままだった。
轟のギャル語彙も順調に増えつつある。このままいけばきららが何を言っても通じるだろう。

そのまま閉園時間まで遊び倒し、2人はホテルへと移動するのであった。


 


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