「とどしょー! お風呂行こー!」
「風呂……一緒に入んのか……?」
「ぶっはっ!」

珍しく表情をわかりやすく変えた轟にきららが思わず吹いた。
その後もツボに入ったのか「あひゃひゃひゃ……!」と笑い続けるきららに轟は「なんだ、違ったんだな」とほっとしていた。


「はぁ……笑った。お風呂行こーってのは一緒にスパまで行こってこと。中は男湯と女湯で別れてるからもち別」
「そうだったんだな。わりぃ、変な勘違いしちまった」
「いいよいいよ。ま、別にとどしょが一緒がいいってんなら、部屋で一緒に入ってあげてもいーよ」
「飾……冗談だな?」
「ありゃ。さすがにひっかかんなかったー?」
「おまえは俺をからかってばっかだかんな。さすがにわかってきた」
「えー、ザンネン賞」

あながち冗談でもなかったんだけどな、とこっそり内心で舌を出した。
なにせいいなと思っている男の子でなので。いいなってちょっと割引いた。正しくは結婚したいなと思ってる男の子である。恋は弱肉強食、勝ち取った者勝ちなのだ。

駆け引きも大事だけどとどしょあんまそういうの効かなさそう。からかうのはほどほどに、これは素直にアピールするべきかもしれないと、きららはスパをエンジョイしながら恋愛戦略を練るのであった。







「あれ、とどしょもうよかったの? サウナとかあったっしょー?」
「サウナ……ああ、あれは別に。やろうと思えば自分でできるしな」
「とどしょの個性万能だねぇ。アイロンとかもできそ」
「アイロン掛けか……ちょっとやってみっか」
「お。んならばこれでやってみ。替えのハンカチあるから失敗してもダイジョブだかんね」
「ああ」

きららの言うアイロンとはアイロン違いだったが、そんなことは些細な事である。
ごろっとベッドに俯せに寝そべりながら、きららはどこか真剣な表情でアイロンがけをしようとする轟を見ていた。
まず両手を使ってスチームを再現する。これは上手く行った。次は左を使って熱を宛てるのだが……これがものすごく大変だった。炎はほぼ使ってこなかったため、温度調節に難航したのだ。いける、と思ったのか轟が左手を近づけたはいいが、やはり思うようにはいかなかった。


「……ダメだな。うまく調節できねぇ。燃やしそうだ」
「でもスチームはできたじゃん! 個性ってねぇ……基本威力上げようって考えがちだよねん。わざと威力小さくとか意識することあんまないから、逆にむずいかもねぇ」
「……俺の個性、使い方がおおざっぱだって言われたことあるんだ」
「あーうん、とどしょザ・O型って感じ!」
「お。合ってるぞ。O型だ」
「ぽいぽい」

手を伸ばせば届く範囲に轟の頬っぺたがあったため、何気なしにきららはつん、と突いた。不思議そうな顔をする轟がクセになり、つんつんと優しく突く。「にゃはは。とどしょのほっぺ柔らか〜」「そうか?」「マジマジ」きららの気が済むまでやらせてくれた。本当に優しい。


「満足したか?」
「ちょー満足」
「それならよかった」
「とどしょは優しいね〜。それで優しいとどしょはおおざっぱなの気にしてんの?」
「ああ……細かい制御もできなきゃなんねぇと思ってる。ヒーロー活動でも必ず役に立つはずだからな」
「向上心高〜! とどしょがんばりやさ〜ん!」
「そうか?」
「そうそう!」

よしよしと紅白の頭を撫でる。めちゃくちゃさらっとしてた。髪もやはりイケメンでできている。







「これかなぁ……」
「……」
「こっちかな」
「……」
「せやっ」
「お」
「にゃはは! きららの勝ち〜!」

大定番、ババ抜きである。
基本的にポーカーフェイスであったが、ぴくっと眉が僅かに動いたのを見てババがわかってしまった。
轟は「よくわかったな」と素直に感心している様子で、「とどしょわかりやすいもん」と言うと「そうか?」と不思議そうな顔をしていた。
わかるよわかる、とどしょの顔面じっと見るとかなかなかできないもんね。照れちゃって顔背けちゃうかも。きららは眼福すぎてめっちゃ見たけど。

そんな風に遊んでいるともう夜も遅いわけで、いい加減寝るかという話になった。
ごろんと横になり、おやすみとあいさつすると轟はおやすみ3秒で寝た。寝つき良すぎ。
ごろっと轟の方に顔を向けて寝顔を盗み見る。ちょっと距離はあるが、なんか可愛かった。はぁ〜……めっかわすこ。

え〜……めっちゃ健全な多感な時期の異性の青少年が夜になんもないとか……ないとか……あるわなぁ〜。だってとどしょだもん。
とどしょならしょうがないな! ときららもすやった。こちらも寝ると決めてからおやすみ3秒であった。やはり全力でUSJで遊ぶとなると疲れるものである。

それはそれとして、寝起きのとどしょもさいかわだった。いつにも増してぽやんって感じ。てかとどしょ意外と寝相悪くてびっくりぽん。のびのびとしていて大変よき
そんでまぁ、ご飯食べて、なんやかんやしてチェックアウトして、無事に帰宅した。とどしょも楽しんでくれたようで初デート(仮)は成功に終わったのであった。







「おはよう緑谷、飯田、麗日」
「おはよう轟くん!」
「轟くんおはよう」
「おはよー!」
「これ、よかったらもらってくれ」
「え!? これ……もしかしてUSJの!? 轟くん遊びに行ったんだ!」
「ああ、楽しかったぞ。土産も色々あって迷っちまったんだが……飾が選んでくれたから間違いねぇと思う」
「飾さんと行ったの!? え、轟くんたちそういう感じやったん!?」
「そういうってなんだ……?」
「(あ、っとこれは……)ううん、なんでも……!」
「そうか」

夏休み中もヒーロー科は忙しかった。少人数での特別演習が組まれており、轟はUSJできららに見繕ってもらったお土産を配っていた。
同じ組分けだった蛙吹や爆豪にも声をかけ、土産を渡そうとしたのだが、爆豪からは「いらねェわ!」と吠えられた。


「そういうなって。このビーンズは中にはすげぇ味のがあるらしい。偉大な魔法使いでもトラウマになるレベルだそうだ。試してみねぇか?」
「誰が好き好んでゲロ味引き当てっか!」
「そうか……やっぱり爆豪でも無理なんだな」
「あ゛!? 無理なわけあっかよゆーだわ!! よこせ!!」
「「あ……」」

ピンポイントで引き当て、ブチィっとキレながらも爆豪は完食してみせた「どーだ舐めプ!? 俺に不可能はねェんだよ!!」「ああ、すげぇな」「とーぜんだわ!!」轟のすげぇなはきららの言った通りに言えば爆豪も受け取ってくれるということに対するすげぇなであった。入れ知恵が効いた。
爆豪はよほどまずかったらしく「他のもよこせや」と言ってビーンズをもらっていた。「全部やるよ。楽しんでくれ」と轟は席を立った。なんか爆豪が言っているが聞いていない。

余談だが、その後行われた特別演習は愛がテーマだった。
けれど結論から言うとそこに愛はなかった。実に奥が深い……深いのか? 多分深い物語であった。



 


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