「唸れきららの腕〜〜!!」
「おお! すごい!」
「素晴らしいですわ、飾さん。うちの美容師さんたちにも劣りませんわ」
「……え、うちの・・・美容師……?」
「ヤオモモすごいお嬢様なんだよ」
「がってん。こりゃお嬢様方に満足してもらわんとギャルの名が廃るな??」
「いや、私はお嬢様とかじゃ……! むしろスカンピンやし……」
「うちもそんなんじゃないから……!」
「んじゃお嬢様になった気分味わってもらわないとね〜! だいじょーぶ、デコることと着飾ることは同じだから!」

そう言ってきららのギャル力が唸りをあげる。
髪もお化粧も、ちょっとした服のアクセントにデコったりなどその腕は遺憾なく発揮された。発揮され過ぎて集合時間はオーバーした。が、可愛く仕上げたので男どもには許してもらおう。







「ごめん、遅くなって! ……って、アレ? ほかの人は?」
「まだ来てない。団体行動をなんだと思ってるんだ!」
「わりぃ、俺がメールに気付いてなかったから……飾、すげぇ慌ててたんだ」
「む。そうなのか……」
「ああ、女は支度に時間がかかるらしい」
「……なぁなぁ、やっぱ轟と飾って……付き合ってんのか?」
「付き合って……は、ねぇけど」
「なぁああにぃいい!? あの距離感でか!? オイラは騙されないぞ! あれは一夜を――」
「ごめん、遅刻してもーたぁ」

峰田が轟に詰め寄った瞬間、麗日が現れた。着飾った姿に峰田は轟への嫉妬も怒りも忘れ、上鳴と同様に「おお〜っ!!」と興奮した。大変良きだった。
続いて八百万や耳郎、きららも入って来て遅れてごめんと伝えた。


「わりぃ、きらら。支度大変だったろ」
「いやいや! とどしょのせいじゃないよ〜!」
「ええ、そうですわ。飾さんもうご支度されてましたのに、私たちの支度があまり進んでおりませんで……色々手伝ってくださっていたらこんな時間に……申し訳ありませんわ」
「そうだったのか」
「いやいや! それもあたしの好きでやったことだし! お待たせした男性陣の皆様は、この可愛い女子の姿に免じてゆるしてちょ?」
「「飾グッチョブ〜〜!!」」
「うちのクラスの女性陣が大変お世話になった。ありがとう、飾くん!」
「どいたマンゴ〜!」

レセプションパーティーなんて武装してなんぼである。メイクも髪もドレスも完璧に仕上げた達成感はすさまじかった。やっぱりおしゃれってウルトラスーパーあげみざわ。


「ねね、編み込んでアップにしてきたの〜! かわい?」
「? ああ、ばちかわだな。でも、飾はいつもめっかわ? だぞ」
「えーもう花丸蝶々! とどしょも最高にめっかわだよ〜!」
「そうか」
「あれで付き合ってねぇとか嘘だろ……」
「(轟くんがたまにああいう言い方するの、飾さんの影響だったのか……)」

きららは自分の赤いドレスと、轟の白い正装の組み合わせにひらめいたとばかりに轟の隣に並ぶと「みてみて、とどしょ。きららたち、2人合わせてとどしょカラー!」と無邪気に笑った。「お、マジだな?」「マジマジ」と2人してクスクス仲良く笑いあっているのを峰田は血涙を流しながら「逆に何でこれで付き合ってねぇんだよぉ、上鳴ぃ」と上鳴の腕を揺さぶった。「俺だって聞きてぇよ、峰田ぁ」そりゃそうだ。







爆豪と切島を待っていると、I・エキスポエリアに爆発物が仕掛けられたというアナウンスが流れた。
警備システムは厳重警戒モードに移行し、速やかに自宅または宿泊施設へ待機するように指示が出される。窓の防火シャッターが次々と閉められ、入り口も塞がれてしまった。
セントラルタワーの7番ロビーに閉じ込められたきららたちは、薄暗い中戸惑いの空気に包まれていた。


「携帯が圏外だ。情報関係はすべて遮断されちまったらしい」
「マジかよ……」
「エレベーターも反応ないよ」
「試しにデコってみたけどむりっぽー」
「マジかよぉぉ」
「爆発物が設置されただけで、警備システムが厳戒モードになるなんて……」

I・アイランドの警備システムはあの難攻不落の監獄、タルタロスと同等のものである。その警備システムを潜り抜け、そう簡単に爆発物を仕掛けることができるのだろうか。たとえ仕掛けられていたにせよ、ここまでの厳戒態勢には違和感があった。
緑谷はオールマイトがいるパーティー会場に行くことを提案する。平和の象徴、オールマイトがいるのならば大丈夫だろうという安心は、結果としては得られなかった。







パーティー会場ではオールマイトを含めたプロヒーローたちが拘束されていた。耳郎の個性でオールマイトから聞いた状況は最悪だった。
ヴィランがタワーを占拠し、警備システムを掌握していたのだ。この島の人々が全員人質にとられてしまい、動くことが出来ないのだ。すぐにここから逃げるように、それがオールマイトから受けた指示だった。


「オールマイトからのメッセージは受け取った。俺は、雄英高教師であるオールマイトの言葉に従い、ここから脱出することを提案する」
「飯田さんの意見に賛同しますわ。私たちはまだ学生、ヒーロー免許もないのに、敵と戦うわけには……」
「なら、脱出して外にいるヒーローに……」
「脱出は困難だと思う。ここは敵犯罪者を収容するタルタロスと同じレベルの防災設計で建てられているから」
「じゃあ、救けが来るまで大人しく待つしか……」
「上鳴、それでいいわけ?」
「どういうイミだよ」
「救けに行こうとか思わないの?」
「おいおい、オールマイトまで敵に捕まってんだぞ! オイラたちだけで救けに行くなんて無理すぎだっての!」

悔しさも、どうにかしたいという思いも彼らにはあった。
自分たちの手に負える問題ではない、けれどオールマイトの言葉に従ってそのまま何もせず逃げることに対して、本当にそれでいいのだろうかという思いもそこに存在していた。
きららはやっぱヒーロー科だなぁと思いつつ、多分これはもうお決まりだわなとせっせと隅っこでデコパーツを用意していた。


「オレらはヒーローを目指してる……」
「ですから、私たちはまだヒーロー活動を……」
「だからって……何もしないでいいのか?」
「それは……」

沈黙が場を支配した。みんな葛藤していた。救けたい。
そのあと一歩を踏み出したのは、緑谷だった。


「……救けたい」
「デクくん?」
「――救けに行きたい」
「敵と戦う気か!? USJでコリてないのかよ、緑谷!」
「ちがうよ、峰田くん。 僕は考えてるんだ。敵と戦わずに、オールマイトたちを、みんなを救ける方法を……」
「気持ちはわかるけど、そんな都合のいいこと……」
「それでも探したいんだ。今の僕たちにできる最善の方法を探して、みんなを救けに行きたい」

覚悟を決めた緑谷は一歩も譲らなかった。ただ救けたいという気持ちだけが緑谷を突き動かしていた。その姿が、メリッサには小さなヒーローに見えた。
メリッサが教えてくれる。I・アイランドの警備システムはこのタワーの最上階にあること。敵がシステムを掌握しているのなら、認証プロテクトやパスワードは解除されているはずで、自分たちにも再変更が行えるはずだと。最上階まで行くことができれば、みんなを救けることができるかもしれない。
戦いを回避してシステムを戻す。それが現時点での最善策だった。最上階には敵が待ち構えているが、システムさえ元に戻ればオールマイトたちが戦える。そうなれば一気に状況は逆転するだろう。

A組、ヒーロー科の生徒たちとメリッサが行くことを決めた中、轟が「おまえは……」ときららを振り返った瞬間、わずかに目を見開いた。みんなも一人静かだったきららの方に視線を向けると、山のようにデコパーツが積み上げられているのをみてぎょっとした。


「お。話し合い終わった感じ?」
「おまえ……なにしてんだ?」
「何って……救けに行くんしょ? なら、あたしの個性大活躍じゃん? ダサくデコれば性能ダダ下がり! 見回ってる警備システムもこれで楽々突破ってね。これ剥がせないってだけでみんなが貼っても効果あるから、つかってちょ☆」
「「飾様ーーーー!!!」」
「にゃはは、苦しゅーない。んじゃ、みんなにも順番にデコってくからちょっとまってな〜。身体機能爆上げしないとね〜道は険しいぞ〜!」
「いいのか?」
「いいもなにも、乗り掛かった舟だし。それに、ヒーロー救けるのが技術者でしょ?」
「……そうだな。頼りにしてるぞ」
「まっかせんしゃい!」

轟ときららのやり取りに、メリッサは昔、オールマイトがパパは自分のヒーローなんだと言ってくれたことを思い出していた。自分が憧れたヒーローの姿。
メリッサは今一度覚悟を決め、救けるために動くのだった。



 


戻る
top