実験場で足止めを買って出たきららたちは限界を迎えていた。


「エンスト!? うああああああ!!」
「飯田! ヤオモモ、弾を! ヤオモモ!? 飾まで!」
「そ、創造の限界が……」
「ごめ……あたしも……」
「オイラの頭皮も限界だ……」

飯田のエンジンはエンストを起こし、八百万ときららは創造の限界を迎え、息切れを起こしふらついていた。峰田の頭皮からも血が出ている。
警備マシンがワイヤーを伸ばし、拘束されてしまったのだった。







「! マシンが戻った……!」
「緑谷くんたちがやってくれたのか……!」
「私たちも合流しましょう」
「ヤオモモ、飾、大丈夫? 歩ける?」
「あたしよりヤオモモのがじゅーしょーだよ。肩かしてあげて」
「飾、オイラに寄りかかっても――」
「あー……気持ちだけ受け取っとくわ。お気遣いあざまる」
「オイラの身長がもっと高ければあああ!! くそおおお!!」
「ウェ〜イ」

警備システムが正常な状態に戻ったところで合流しようと動き出した。
あとはプロヒーローたちが解決してくれるだろうが、緑谷たちが心配だったのだ。耳郎が八百万に肩を貸し、飯田がアホになったままの上鳴を背負い、きららはふらつきながらもなんとかついて行った。







「轟くんたちも合流してたのか!」
「ああ、でもまだ終わっちゃいねぇ」

なんと博士が敵に連れ去られたらしい。緑谷はそれを追っていったようだった。轟たちももちろんそれを追うつもりである。飯田たちも状況を把握し、一緒に行くことを決めた。


「まって、そんなら爆ぴと切まるデコらせて」
「あ゛!?」
「切まるって……俺か!?」
「あたしの個性で性能爆アゲ。ないよりあったがいいっしょ!」
「ちょっと、大丈夫なの飾!? そんなフラフラで……」
「あたしじゃもうこれ以上役に立てそうにないから託すの。これがあたしの今できる最大限。最悪ぶっ倒れてもどっちにしろ役に立たないからプラマイゼロだし! んなればやった方がいいじゃん!?」
「飾……おまえ結構熱い奴だな……! 頼むぜ! な、爆豪!」
「勝手に決めんな!」
「んだよ、俺らだってしてもらった方が動きやすいだろ。おまえだって飾の個性がすごいのはわかってんだろ?」
「…………変なやつにしたらぶっ殺す」
「らじゃー! んじゃちょっぱやで仕上げんね」

ふらつきながらもさっさとデコを施していくきららを轟は心配そうに見つつ、それでもついてくると決めた時にきららが言っていた、ヒーローを救けるのが技術者だという言葉を思い出していた。きららも必死で戦っている。そのことに轟はおまえすげぇ奴だなと改めて思う。


「はいできた! がんばって、ヒーローの卵たち!」
「……あ゛!? おまえこれ!!」
「デザインに関するクレームは今回受け付けないから! そういうのはまた次回にして!」
「ぐぬぬぬ……次はマジで注文つけまくっからなァァ」
「覚えてたらなんとかするわ……覚えて……たら……」
「飾……!」

新たにすべてのパーツを作るのはちょっと難しかった。余っていた予めダサデコ用に作っていたパーツと、何とか作り出したパーツでキラっとデコったあげみざわデザインを作り上げたのだ。
爆豪もきららが限界を超えてそれでもやってくれたことを理解しているため、大変デザインに不服を感じつつも軽くなった身体といい、痛んで仕方なかった掌といい、確かに効果が早くも表れているのでなんとか飲み込んだ。次はめちゃくちゃ注文つけてやるから覚えてろよと歯軋りをするのであった。

やり遂げたことに安心したのか、きららはそのまま気を失ってしまった。
普段から鍛えているヒーロー科ではなく、発明ばかりしているサポート科の生徒である。むしろここまでよくついてきたと言ったところだろう。気を失ったきららを轟が背負い、緑谷たちのもとへと急ぐのだった。












きららが再び目を覚ましたのは、すべてが終わった後だった。
気付けば宿泊施設のベッドにいて、一緒の部屋に泊っている轟が「大丈夫か?」と声をかけた。


「あれ……あー……そっかぁ、あたしあそこで気絶したのか……うわぁ……かっこわる」
「? かっこ悪くなんかねぇだろ。おまえは立派だったぞ」
「そーかなぁ……」

ぶっ倒れてもとはいったが、正直マジでぶっ倒れるとは思っていなかった。完全にお荷物じゃん……みんなすまんといった気持ちである。


「ランニングでも始めよっかな……」
「いいと思うぞ。サポート科はあんま身体動かさねぇだろうし。健康にいい」
「とどしょ一緒やろ〜」
「俺はもうやってる。俺と同じ距離はおまえにはきつくねぇか?」
「じゃあ途中まで〜」
「わかった」

ちゃっかり約束も取り付けることに成功した。
それから轟が事のあらましを説明してくれた。明日予定されていたI・エキスポの一般公開は延期となり、轟たちがシステム復旧のために敵と戦ったことは、I・アイランドの責任者がヒーローの卵たちの将来に配慮し、公表しないことにしてくれたとのこと。
そして、戦闘の疲れを労う為に、明日はイベント延期の代わりに、オールマイトがみんなにバーベキューをご馳走してくれるらしかった。


「バーベキュー!? オールマイトちょー懐! マジあげみざわ〜!」
「オールマイトにあざまる水産よいちょまるだな」
「それな〜!」

その後も「パエリアあるかな?」とか「とどしょソース何派?」とか言った話をしているといつの間にか寝ていた。







「さぁ食べなさい!」
「いっただっきまーす!!」

見事にA組に囲まれた。違うクラスの人間なんてきららだけである。
けれどきららはコミュ力が高い方だったので、さっそく打ち解けていたし、もともと友だちだった芦戸や今回の大冒険で親近感を抱いた八百万らと談笑したりしつつ、やっぱり轟とよく一緒にいた。


「バーベキューなんて初めてですけれど、なかなかいいものですわね。お肉もお野菜も、とても美味しいですわ。今度家の庭でもやってみようかしら」
「ヤオモモん家の庭とかこのテラスの倍くらいありそ」
「ええ、そうですわね……五倍くらいあると思いますわ」
「マ!? もはや家というより城じゃん??」
「いえ、そんな……」

八百万とそんなことを話しながらパクパクと2人して平らげていく。2人の傍にはすでに食べ終えた皿と串が積み重なっていた。それを常闇が「無限……」と唖然としながら見ていると、同じくもぐもぐ食べながら見ていた轟が口を開いた。


「そんなに腹減ってたのか」
「ええ、昨日ずいぶんと脂質を使い果たしてしまいましたので補給しないと……あら、このラムもイケますわ! あっ、ソーセージもいただかないと!」
「このパエリアはマジ虹。至福〜!」
「よかったな。昨日食いたいって言ってたもんな」
「もうほんとオールマイト神対応すぐる……幸せ」
「よいちょまるだな」
「よいちょまる〜!」

幸せそうに口に運ぶきららに轟も柔らかく笑う。

そんなこんなで、色々あったI・アイランドの旅は結構充実したものであった。



 


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