「芦戸ナイスすぎる……! やっぱり女湯での裸の付き合いってのはこういうハプニングがつきもんなんだ……!!」
「おい峰田……さすがに他人の彼女のあれこれ聞くのはよくねぇよ」
「んだよ上鳴! おまえも飾のスタイルは絶賛してたろぉ!?」
「そりゃそうだけどよ……わり、轟。彼女のことそういう風に言われてたら嫌だよな……」
「……彼女って、何の話だ?」
「え。おまえと飾だけど……え、ほんとに付き合ってねぇの!?」
「付き合ってはねぇ」
「なに!!? んじゃなにか!? 付き合ってねぇけど一夜を過ごしたのかよ!? イケメンの特権ってやつか!? ワンナイト・ラブかよおおお!?」
「なんだそれ?」

漏れ聞こえていたあれそれに、大半の男子が気まずそうな顔をしていたが、性欲の権化はやはり一味違った。
上鳴も同じくそういったことに興味がある性分ではあるが、良い奴なのだ。クラスメイトの彼女――付き合ってないとは言っていたが、信じ難いのだ――に対してそういうことを彼氏がいる前であれこれいうのは気が引けた。
けれど、ここにきてまさかの本当に付き合っていないという事実に、上鳴たちはもちろん、話だけ聞いていた面々も驚く。かなり仲がよさそうであったし、なんというか、友だちの距離には見えなかったのだ。


「おまえらI・エキスポ一緒に行ってたよな?」
「ああ。招待状が余ってたからな。興味あるかと思って誘ったんだ」
「なんで飾誘ったんだよ!? おまえ友だちいねぇのか!?」
「友だちはいるぞ? 緑谷も飯田も友だちだ」
「轟くん……!」
「ああ、俺らは友人だ!」
「いやそうじゃなくて、なんで飾だったんだ? 海外じゃん? 女子誘うのって結構勇気いるくね?」
「? 別に……飾とはよく会ってるし、話もする方だ。それに泊り自体は初めてでもねぇし……」
「やっぱ泊まったことあんじゃねぇか!!」
「何!? そうなのか轟くん!?」
「お、おう。USJ行ったときに……」
「USJってデートの鉄板じゃんかよおおお!? なんでそれで付き合ってねぇんだおまえら!?」

もう阿鼻叫喚だった。まさかの泊りにUSJまで行っていた。
緑谷と爆豪は夏休みの特別演習で一緒になったときにもらったお土産を思い出し、あの時のかと完全に理解した。口ぶりからきららと一緒に行っていたのはわかってはいたが、てっきり日帰りかと思っていたのだ。


「……友だちとUSJ行くのって……おかしいのか?」
「全然おかしくないけど! けど……女の子と二人だけでってのはなかなかない、ような?」
「逆におめぇらそれで何もなかったのかよ!? 夜とか! 夜とか! 夜とか!」
「夜……個性でアイロン掛けできるか試してた」
「んだそれ!? どうやったらそんな展開になるんだよ!? 逆に面白いな!?」
「いやもう……もう……轟おまえそれでも男かよ!? 飾だぞ!? あの抜群のプロポーションと美少女っぷりの女が隣で寝てて、そのまま健全に過ごしたとか意味わかんねぇよ!? オイラならリトル峰田が黙っちゃいねぇぞ!?」
「ちゃんとした関係も結んでねぇのに、そういうことするのはよくねぇだろ。ヒーロー志望ならなおさらだぞ」
「ど正論で返してくんじゃねぇよおおおおお!!」
「てか顔こわ。轟、峰田が悪かったのはわかるけど、顔戻して。こえぇ」
「! わ、わりぃ」

体育祭までのガンギマリ顔を無意識のうちに晒してしまっていた。「……わかんねぇ」と小さく口にして、色々混乱している様子の轟に緑谷はもしかしてと感じるも、言っていいものかどうか悩んでいた。
飯田も飯田で、未成年の男女が同じ宿泊施設に泊るということに大変難色を示しつつも、いやでも轟くんは信用できる男だと色々葛藤していた。友人二人共大変である。
それを実にゆる〜く瀬呂がぶった切った。


「いや、もうおまえら両想いってやつじゃねぇの?」
「(瀬呂くんぶった切った!)」
「りょう、おもい……?」
「ぶっちゃけおまえらナチュラルにいちゃついてるし、付き合ってるようなもんだったじゃん」
「いちゃ……ついてたか?」
「それは……うん、僕もそう思う……」
「…………なんか、わりぃ」

緑谷は思い出していた。I・アイランドできららが倒れてしまったとき、当然のようにさっさと背負ってしまった轟を。その後の戦闘でもきららを守るように盾になっていたし、というかそれ以前にきららと関わりだしてから、轟はギャル語を解するようになるばかりか、たまに轟からもぽろっと出たりするのだ。正直付き合ってるものとばかり思っていた。


「えっと……でもほら、おまえら間違いなく両想いなんだし……今からでも付き合えばいいんじゃね?」
「両想い……俺、飾のこと好きだったのか……飾も……俺を……?」
「おまえっ! I・アイランドで最高に飾の王子ナイトしてて何言ってんだよ!? オシャレして可愛い? って聞かれていつも可愛いって言ったのどこのどいつだよおおお!?」
「? 飾はいつもめっかわだろ。飾のこと可愛くないと思ってる奴なんているのか……?」
「やめろ曇りなきまなこで聞いてくんな……!!」
「爆豪とかは思ってないだろ。なにせクソギャルだし」

瀬呂が面白がるように爆豪を指差した。
轟の無自覚の惚気も面白いが、ここは爆豪を巻き込んだ方がもっと面白いと思ったのだ。
突然話題に上がった爆豪はそれはもうキレた。


「ああ゛!? 俺をんなくだんねー話に巻き込んじゃねぇ!」
「いやいや、逆に可愛さ余って素直に呼べない的なやつかもよ〜?」
「そうだったのか?」
「ンなわけねェだろ!! 俺はあいつのこと可愛いと思ったことなんざ一瞬たりともねェ!! むしろ一回きっちり締めねぇと気が済まねぇ……!!!」
「まあまあ、なんだかんだ飾には助けてもらってんだから抑えて抑えて。轟もわかったろ? 少なくとも爆豪にはそういう感情はねえって」
「ああ。あんなに可愛いのにな……」
「おいこのクソップルが……あいつの可愛さがわからねぇなんてかわいそうみたいな目で見てんじゃねぇぞ……!!」
「逆にこんだけ飾可愛いって意識あって自覚なかったの最高に轟って感じするけどな」
「舐めプしてっからそーなるんだわ!」

轟もこれにはいい加減自覚する他なかった。きららがめっかわなのはそういう生き物だからだと思っていたが、しっかりどっぷり恋の沼に落ちていたからだった。
いやでも飾は可愛いだろ……いつもキラキラ輝いてんじゃねぇか……。わりと重症である。


「なんで俺……今まで気づかなかったんだろうな」
「まぁ、近すぎて気づかないってのはあんじゃね? おまえらの場合、傍にいるのが当たり前すぎたんかもな」
「……そう、かもしんねぇ」

きららが人気のある女子というのは轟も感じてはいるが、きららと一番仲のいい異性は自分だと自覚していたし、なんならすげぇ仲いいと思ってた。そしてそれは間違いじゃない。
今思えば確かに距離は近かった……かもしれない。可愛いだとか、好きだとか、そういうことも言ったし言われた。いや、近いとかじゃなくて多分なんかもう恋人的な距離感だった。
誰かに掠め取られる心配もなく、仲良く過ごせているから……色んなことに鈍感になってしまっていた。自覚すると一気に、今までの言動やらなんやらを思い出して恥ずかしさで項垂れた。項垂れていたから、峰田の蛮行を見逃してしまった。


「ヒーロー以前にヒトのあれこれから学び直せ」
「くそガキィイイィイ!!? って冷てぇええええ!?」
「……峰田、それは許せねぇ」
「ガンギマリじゃねぇか!? おめぇ自覚した途端これかよおお!?」

壁をつたって女湯へと乱入しようとした峰田を寸でのところで待機してくれていた洸汰くんが止めてくれた。落ちる峰田を更に襲ったのは、冷たい氷だった。
だってそれはダメだ。ヒーロー志望として、人としてやってはいけないことだ。いやそれも大事だが、まぁ、単純に……好きなやつの裸を他の男に見られたくない。

壁一枚を隔てただけの浴場では、きららの声もわずかに聞こえて……ああ、これはよくねぇ……と、落っこちた洸汰くんを救けてマンダレイの下へ急いだ緑谷と同じく、轟も風呂を後にするのであった。

冷静になると、自覚前の自分に疑問が湧いてきた。
――俺……よく部屋一緒で平気だったな。
無自覚が過ぎた。


 


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