温泉から上がったあと、きららは轟と会う約束をしていた。
普通に会いたいし、一応恋のライバル(?)出現でいい加減明確な押しを仕掛けようと考えていたのだ。


「飾」
「とどしょ。さっきぶり」
「ああ、さっきぶりだな」

あれ? ときららは轟がいつもとちょっと違う気がした。いつも落ち着いてるのに、なんかそわっとしている気がする。そう、これは……まるで冷たいそばが目の前に出てきたときのような……え、どしたん。


「とどしょ……なんかあった?」
「なんかって……なんだ?」
「いや、嬉しそうだなって……」
「……わかんのか?」
「うん。なんかそば見たときのとどしょっぽい」
「そば……」

何か衝撃を受けたような顔をなさっている。とどしょ意外と感情が顔にでるよね。素直すぎてきゃわ。
こんないきゃめなんならやっぱ周りほっとかないよなぁ、と思う。ちょっと余裕ぶっこいてたかもしれん。一番仲いい女子ってのに胡坐かいてたかも。
深呼吸をして、きららは覚悟を決めた。恋はいつだって弱肉強食。勝ち取るものだから。勝負をしかけるのだ。


「ねぇ、とどしょ」
「ん?」
「あたし、とどしょめっちゃ好き」
「お、おう……俺も……おまえのことめっちゃ好きだぞ」
「そぉれはうれぴよ。でね、あたしの好きは……付き合いたいとかのやつなんだけど――」
「俺も」
「……え、マ?」
「マジだ。俺も、そういう好きだ」

轟も緊張しているのか顔が赤くなっていた。これはマジなやつ。
正直きららはここで勝負が決まるとは思ってなかった。多分「今は恋愛に興味ねぇ」とか「ヒーローになるための勉強で忙しい」とかで断られるだろうなと思っていた。
え、待てよ。これ好きだけど付き合えねぇとかだったりするか?


「これ……付き合うでいい? ダメ?」
「ダメなわけがねぇ。俺らの気持ちが一緒なんだから、付き合わない理由なんてねえだろ」
「勉強の邪魔とかなったりしない?」
「今まで邪魔になんてなったことなかったろ? 俺は……自覚したのはほんのさっきだけど、ずっと前からおまえが好きだった」
「まってほんのさっき!? めっちゃホットじゃん!? これ自覚する前に告ってたら断られたパティーンでは??」
「いや………多分、断んなかったと思う。おまえの好意を跳ね除けたりできねぇ」
「とどしょほんと優しいね??」
「言ったろ、前から好きだったって。俺が優しいって思うなら……それは飾が俺の特別なだけだ」

……もう完敗なんだが。目的は200%達成したけど勝負は完敗。とどしょが神過ぎた。
いやでも恋は勝ち取ったし! 想像よりだいぶゆるかったけど、結果良ければすべてよし!
えーもう彼カノじゃん? 彼ぴっぴじゃなくて彼ぴじゃん? バイブス爆上がりでようちょまるの極みまる。


「とどしょ、ハグしてもい?」
「お。いいぞ。俺もしてぇ」
「じゃあ遠慮なく〜!」

めっちゃ勢いよく飛び込んだ。とどしょまったくブレなかった。体幹やばみ。え、まって……めっちゃがっしりしてる。とどしょ可愛くて綺麗な顔してるから、てっきりもうちょい細いと……いやギャップ!! すごいな!? さすがヒーロー科ツートップだわ!! 思ったよりだいぶ恥ずかしいぞこれ……!!
けれどそう思っていたのはきららだけではなかった。


「なんか……すげぇドキドキする」
「とどしょも……?」
「ああ、心臓がやべぇ」
「え……わ、マジだ」
「な?」
「ふはっ……とどしょもはずかしがったりするんだ。かわいー」
「そりゃ……意識くらいすんだろ……」
「……うん」

意識、意識かぁ……とどしょほんとにきららのこと好きなんだ。
まだ現実味がない。とんとん拍子に進んで、両想いのちのお付き合いまでいってしまった。好きぴにして彼ぴ。彼ぴっぴじゃない、もう彼ぴ。もうちょっとだけ、それを実感したいかもしれない。


「きららって、呼んでくれる?」
「きらら」
「素直〜! うん。これからは名前で呼んでよ。彼カノだし、彼ぴには名前で呼んでもらいたいし……」
「彼ぴって、彼氏か」
「そ!」
「わかった。きららは……俺のことなんて呼ぶんだ? とどしょか?」
「何て呼ばれたい?」
「そうだな…………思いつかねぇ。おまえが呼んでくれるなら、俺はなんでもいい」
「寛容〜! とどしょはいつもさ、きららがどんなデコしても受け入れてくれるもんね」
「俺はそんな強いこだわりねぇし……きららがいいと思ってるならそれでいいだろ」
「んん゛〜! 好き〜〜!」
「俺も好きだぞ」
「もう結婚しよ〜〜!」
「それは無理だ」
「そこは相変わらずじゃーーん!」
「? 俺たちはまだ結婚できる年じゃねぇから無理だろ」
「そういう!!」

がってん。ようやく謎が解けた。あーね、無理ってそういう……確かに無理だね??
でもそれ逆に言えば年齢クリアしたらいいんですかねぇ……と、きららはバスで見た手相を思い出した。とどしょの結婚線……めっちゃ早婚だったもんな。多分聞いたら答えてくれるだろうけど、もし「いいぞ」なんて言われたら絶対眠れなくなる。パワロダせんせから聞いた感じだと、明日から度を越えてハードなのにそれは困る。
きららはそれはまたの機会にとお預けにして、しばらくこのまま抱き合っていた。なんか……離れるタイミング逃したっていうか、離れるのもったいないなとか……まぁ、要するに……もうちょっとこのままでいたいってことで。







「付き合ったぁ!!? マジ!? おめでとーーーー!!」
「あざまるー!」
「ねね、詳しく聞かせて! 恋敵出現して即とかきららやるぅ!」
「にゃはは……恋は先手必勝、弱肉強食だしね〜。ま、でも詳しくは明日ね。今日は寝とかないとやばみだし」
「ええっ! そんなぁ!」
「あしみな、悪いこと言わないから今日は寝な? 絶対後悔すっから」
「お、おう……」

きららの真剣な様子に芦戸も思わず頷いた。有無を言わせない凄みを感じたのだ。
なんかきららって、尻に敷くタイプっぽいなぁ……と漠然と感じるのだった。そして、明日になると……芦戸はきららの言うことを聞いておいてよかったと心底思うのであった。

――地獄の強化訓練が皆を待っている。


 


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