二日目から始まった個性伸ばしは鬼ハードだった。
きららは砂藤、八百万と同様食べ物を食べ続け、更にデコパーツを絶え間なく作り出し、それらをデコっていくというエンドレス訓練であった。


「うっ……さすがにあきるってぇ……」
「でしたら、私のチョコレート召し上がられます?」
「俺のケーキもあるぞ。後ろの方まだ触ってねぇからそっちからとってくれや」
「やさしす。きららのクッキーもたべていーよー。シェアしよ」

まぁ、どれも甘ったるいんだけど。さとてぃーの個性は甘いものを食べることで身体能力が上昇するらしいし、ヤオモモの個性は言わずもがな、脂質が大事らしい。きららは特に気にしたことなかったけど、パーツ出し過ぎるとお腹すくし、多分似た感じの個性。

てかこれが結構シンドイ。食べっぱなしなのもシンドイし、パーツを作り続けるのもシンドイ。デザインもワンパターンになると意味ないし。シンドイ。シンドイの三拍子だった。
いやでもこれ伸びてる感じする。色々酷使されて個性は確かに伸びてる気がする。波動感じるわ。確かな実感はないけど。まぁ、多分伸びてる。







己の食う飯は己で作れ。みんなは個性伸ばし訓練で疲労困憊の中、身体に鞭を打ちカレー作りに励んでいた。


「手、貼っていい?」
「いいぞ」
「やった。炎めっちゃきれー! やっぱ映えるね!」
「そうだな。キラキラしてる」

火をつけて周る轟の左手にペタッとパーツを貼って炎を煌めかせた。
轟はその輝きに、これが始まりだったのかもなと少しだけ思った。少し前まであれほど憎んできたちからだったのに、緑谷に俺の力だと言ってもらえて、きららが煌めかせてくれた。誰かを喜ばせることができる温かい力なんだと、今の轟は以前とは違う感情で向き合うことができていた。


「んじゃあたしも作業にもーどろっと」
「なんか盛り付けるんだったか?」
「そ。とびっきり美味しくしたげるから楽しみにしてて」
「……おう?」

その言葉の意味がわかったのは食べる直前になってからだった。







「はい次、はーい」
「おお……カレーがデコられていく……!!」
「かーわいい!」
「にゃはは。可愛いだけじゃなくて味も上がってるんだよん。こんな時だからこそおいしいもん食べないとねー」
「こんな使い方できたのか」
「パーツは作れるってだけで別に市販のとかでも大丈夫だし。こうやってチーズとかハムとかを型抜きしてデコれば……ほら! 世界一美味しいカレーのできあがり〜!」
「す、すげぇ……!! 魔法みてぇ……!」
「魔法使いきららだ……!!」
「一家に一人飾だな……!」
「? きららは一人しかいねぇぞ? 過労死しちまう」
「にゃはは、そーいう意味じゃないけど、そう考えるとブラックだねん」

こうして店で出されると微妙な感じの味のカレーが、ランチラッシュに匹敵するカレーへと進化を遂げた。疲労困憊の身体にこのカレーは効いた。ものすごく染み渡った。


「きらら、うちに嫁に来ない?」
「にゃは――」
「それはダメだ」
「あちゃ……彼氏ストップが入ったならしょうがないな〜! 諦めちゃお」
「え!? そこ付き合ったのか!?」
「ああ」
「そゆこと〜」
「マジか! 昨日自覚して即とかすげぇな!? 行動力の塊じゃん!」
「まぁ、告ったのきららからだし」
「俺も昨日しようと思ってたら、きららが先で驚いた」
「そマ!? まってそれは知らんかった! え〜! じゃあちょっと待ってたらとどしょ告ってくれたの〜!? えーもったいないことした……もっかい付きあお」
「別れるのはいやだ」
「ならしかたないね〜!!」

新事実発覚にテンションが振りきれた。同じこと考えとったんかい。てかとどしょから告られるとか全人類の憧れでは?? それ逃がすとかきららおたんこなすがすぎた。
てか昨日自覚したの男子全員知ってるってどんな状況なんとどしょ……。どんな自覚の仕方したの。めっちゃ気になるんですけど。
いやぁ、それにしてもマジもったいないことしたなと思いながらきららはカレーを食した。

――だがしかし、神はきららを見放さなかった。食べ終わった後、神展開が訪れる。







「きらら」
「んー?」
「さっきの話なんだが」
「さっき……告る云々?」
「それだ。別れるのはいやだけど……告白ならもう一回するから、聞いてくれるか?」
「もち!!」

皿洗いも終わって、つかの間の自由時間。まさかの機会に恵まれた。食い気味に返事した。
改めて告白とか言われるとさすがにドキッとする。ドキッというかもう心臓はバクバクであった。バイブス上がりすぎでは。いやでも仕方ない、だって轟の告白なんだもの。


「きららのこと、すげぇ好きだ。付き合ってく……れてるな?」
「あーもうめっかわ〜! 何回でも付き合う〜!」
「何回でも……俺は一回でいい」
「別れたくないもんね」
「ない」
「別れないよ〜! ほんと好き!」
「ならいい。俺も好きだぞ」

轟の綻んだ表情にきららは悩殺された。可愛いが溢れている。めっかわどころじゃない、鬼かわだった。
けれど轟が何かに気付いたようにはっとして、「わりぃきらら、告白なら飾のがよかったか? 言い直すか?」と真面目に聞いてきたのがツボった。天然でかわいい。正直そんなのどっちでもいいよと思ったけれど、もう一回聞きたい欲がでてきて結局言い直してもらうのだった。


 


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