昨日は洸汰くんのおかげで成敗された峰田であったが、やはりヤツは一度で諦めるような人間ではなかった。昨日の一件で男子と女子の入浴時間はずらされたが、峰田はなんと男湯の扉をピッキングをして開け、用意していた小型ドリルを使い、覗き穴を作ろうとしていたのだ。
けれど、それは結果として失敗に終わる。A組の女子たちが峰田の行動を予測し、予めB組の女子に事情を説明して一役買ってもらったのだ。峰田は無事、先生たちの下へ連行されたのだった。


「いやぁ、それにしても峰田ってのすごいね? 執念ってやつ?」
「同じA組としてお恥ずかしいかぎりですわ……」
「ね、ほんっとサイテー!」
「でも逆になんか安心するかも」
「え!? きらら峰田に寛容なわけ!?」
「寛容っていうか……ほら、ヒーロー科ってすごいじゃん? 体育祭のときのおじろんとか、しょーだんとかさ、めっちゃ誇り高い感じだったじゃん? あたしからすると、みねたまるみたいなのはヒーロー科も俗っぽいのいるんだなぁってこう、身近? に感じれるっていゆーか」
「あー……確かに、体育祭の尾白くんたちすごかったもんねぇ」
「でしょー?」
「きらら同じチームだったんだもんね。じゃあ余計感じるものあったかー」
「それな。ばっちり影響受けて本気出しまくったし」

本気出し過ぎて3位という大健闘だったし、なんかスカウトも来たレベルである。
峰田にヒーロー科にもこういうのいるんだな、という親しみのようなものを感じても、それはそれとしてやはり積極的に関わろうとは思わないが。きららのタイプはめっかわなイケメンであるし。加えて天然で優しい性格ならなおよし、理想。そう、轟焦凍その人である。本当に理想が服を着て歩いていた。おまけに個性も夢見たものだし、これは運命に違いない。

その後、拳藤らがお礼と言って、お菓子をもってきてくれた。せっかくだから一緒に女子会をすることになるのだった。女子会といえばそう、恋バナである。







「それじゃ、付き合ってる人がいる人ー!」
「はーい」
「……って、きららだけかぁ」
「飾はなんか、予想通りだな。いると思ってた」
「そ? 言うて彼ぴできたの昨日だけど」
「昨日!? え、ってことは……A組かB組の男子か!?」
「そそ」
「きららの彼氏ねー、轟なの! 体育祭からずっと好きだったんだよね〜?」
「それな。どタイプすぎた。めっちゃアピールした」

拳藤たちは素直にすごいと感じた。なんというか、きららのアピールはすごく押しが強そうなイメージがある。怒涛のラッシュで勝ち取ったんだろうなと想像できた。


「きららちゃんと話してるときの轟くん、やっぱ雰囲気違うよね!」
「あー、それね、昨日思ったんだけどそば見たときの感じと同じなんだよねん」
「そば?」
「轟くんそば好きやもんね。毎日食堂で食べとる気がする」
「そういえばそうね」
「出かけたときもそば頼んでた。めっちゃ好きなんだって」
「つまりきららちゃんのこともめっちゃ好きってことだね! キャー! 素敵ー!」

きららからの惚気も提供したところで「片想い中の人いない感じ? きららもちょー聞きたい。好きな人の話とかおせーて」と話題を振った。恋バナは話をするのもいいが、聞くのも大変楽しい。
麗日が好きな人という単語に反応して真っ赤になり、これはもしかしてと思うも、逃げてしまった。ははーん、気になる人はいるけどちゃんと認めてはいない感じね。おけおけ、深くは聞くまいよ。


「お茶子ちゃん? なんだか疲れてるわね」
「いや、ちょっと動悸がおさまらへんだけ……」
「動悸が長引くようなら病院に行った方がいいわ」
「病院で治るといいなぁ……」
「(不治の病だもんねぇ)」
「大丈夫ですか? 恋の話が久しぶりすぎて、体に支障が出てくるなんて……。神様はなんと残酷な体質をお作りになったのでしょう」
「やっぱ女子は、適度に恋バナしなきゃダメなんだよ! 他に誰か、好きな人いないのーっ?」

だが誰もいなかった。恋バナらしい恋バナができたのはきららのみで、肩をがっくし落とす芦戸に「まあまあ」とポンっと肩を叩いた。でも正直きららもマジか、といった気持ちだった。ヒーロー科ストイックすぎん? 中学時代も勉強でそれどころじゃなかったとか。きららとか結構遊んでたわ。普通にそれなりに中学生らしい恋愛もしていただけに、このストイックぶりには内心滝汗であった。なんかすまん。科が違うにしても、同じ雄英生とは思えん。急にちょっとはずいぞ。
その様子を芦戸は見逃さなかった。恋バナセンサーが反応したのだ。


「きらら……もしかして、中学時代とか彼氏いた?」
「にゃはは、なんのこ――」
「い・た・よ・ね?」
「…………うん」
「もーこうなったら洗いざらい吐けこのモテ女ーー!!」
「見境なしすぎんか!?」

結局洗いざらい吐かされた。いやでも別にそんな特別な恋愛なんざしてないし。至って普通だし……。てか特別って言うなら間違いなく今だし。


「あ、今轟のこと考えたでしょ」
「だからっ! なんでわかるしっ!?」
「恋する乙女の顔してたーー!」
「ああもうっ! あしみなこそ好きな人できたら覚えてなよ〜! 洗いざらい吐かせてやる〜!!」
「あははっ! いーよー!!」
「言質とったかんねーー!!」

こうして二人でじゃれあいつつも、なんだかんだ恋バナは続き、彼氏にするなら誰がいいとか、自分たちが男子で男子が女の子なら誰を彼女にしたいかとか、一日入れ替わるなら誰とか、理想のタイプとか……進まないなりに、なんだかんだと盛り上がったのだった。


 


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