林間合宿3日目も相変わらず死ぬほどキツかった。けれどきららは確かに個性が伸びているのを感じていた。以前より出せるパーツの数が増えているし、デザインも進化している。試しに両サイドにいる八百万と砂藤の身体にデコらせてもらったが、これが結構いい効果を発揮していた。
おまけにきららの個性の影響で、砂藤の腕が上下するたびになんかキラっとしていたし、八百万が創造するものはキラキラ輝いていた。両サイドがキラキラしているとモチベは高まる一方であった。


「ヤオモモ宝石とか出せそ」
「出せますわよ」
「マ!?」
「創るには構造や必要な原子が何かを理解していなければ創れませんが……それすら分かれば生物以外でしたらなんでも創れますわ」
「やばたん。子々孫々お金に困んないね??」

実に簡単に宝石が八百万の腕から出てきた。ブローチだのネックレスだの、指輪だの……ほんとにすごかった。生まれも規格外のお嬢様であるが、個性といい、約束された金持ちだなと感心していると「よろしければ差し上げますわ」と実にあっさりくれた。「これ宝石だけどいいの……!?」「どうせ処分してしまいますので」「マジか。じゃあ遠慮なく〜! あざまる〜!」ありがたい一方で、創造製とはいえ、宝石を何のためらいもなく処分できる八百万に、きららは生まれの違いを痛感するのだった。







「お? 男子肉抜きなん?」
「ああ、枕投げが白熱しちまって、その罰則でな」
「枕投げかぁ……楽しいよね。枕投げなら仕方ない。白熱するものだし」
「確かに、すげぇ盛り上がった」
「盛り上がった結果肉抜きはぴえんだけどね〜」
「ぴえん……?」
「悲しいなぁ……ぴえーん、みたいな感じ?」
「なるほど。じゃあ俺もぴえんだ。肉抜いた肉じゃがはちょっと悲しい」
「よーしよしよし、肉はどうにもしてやれないけど、きららちゃんが美味しいじゃがにしてあげよ〜ね〜!」
「魔法かけてくれんのか。よろしく頼む」
「り」

やたら男子の訓練がハードだなぁと感じていたが、枕投げが原因だったらしい。女子が女子会をして楽しんでいたように、男子たちも盛り上がっていたもよう。盛り上がりすぎて罰則まで食らったが。まぁ、それも合宿の醍醐味だろう。
昨日のカレー作りでデコった際に、魔法使いだの魔法だの言われていたのもあって、轟はこれを魔法だと認識したらしい。大変きゃわである。聞けばB組の男子も同じ罰を与えられているようだったので、B組の方にもお邪魔してたったかデコらせてもらった。
最初は半信半疑であったB組も、いざ口にすると上がりに上がったグレードに涙していた。肉が抜かれたただのじゃがだろうが、美味いものは美味いのだ。この瞬間だけはここにいる誰よりきららがヒーローであった。


「てかここまでくるとさ、きららの個性ってどこまで効くのか気になってこない?」
「どこまでって?」
「ほら、黒焦げになったパンをデコって、それは食べれるのかー? みたいな」
「食べれはすると思うけど健康には悪いと思うよー。あたしが出来るのはクオリティを上げることだけ。黒焦げのパンをデコっても、焦げる前の状態には戻せないし」
「ちょっとマシにするみたいな感じか。じゃあカビ生えたパンは?」
「バカ。それこそ無事じゃすまないし、そもそも食おうとすんな!」
「いや食わねぇよ!? でもちょっと気になるじゃん!?」
「にゃはは。まぁ、カビパンは論外かな」
「そりゃそうだ!」

カビは生えたままだけど、ちょっとマシになったパンとは。あまりにも論外だった。







そうして和気藹々と食事を終えると、きららのもとに青山がやってきた。


「ねぇ、君の個性って、キラキラさせるんだよね?」
「お? そだよー!」
「お願いがあるんだ☆ 僕のネビルレーザー、もっとキラメかせてくれる?」
「! もち!! まっかせて!!!」

もうそうこなくっちゃ的な展開だった。やけにキラメいた奴いんなとは思っていたが、この男、デコに理解がある。これはもっとキラキラできるぞとバイブスが上がったが、まぁそんなうまい話もあるわけがなかった。


「ダメ! その色は使わないで!」
「え、ダメ!?」
「僕には合わない☆ こっちを使って」
「これぇ!? 大分奇抜な感じになるけどいいん?」
「奇抜じゃなくて、唯一無二☆ 僕のキラメキをアピールしなくちゃね☆」
「(まぁじか)おけまる……んじゃこれをこうして……ど?」
「ノンノン! もっとまばゆく!」
「んんんっ、こんな感じ!?」
「違うっ、エレガントなデザインで!」
「エレガント……エレガント……こう?」
「そんな感じ☆ そのままキラメかせてね☆」
「おけまる!!」

注文がめちゃくちゃ多かった。なんかすごいこだわりがあった。めちゃくちゃ奇抜なんだが。いや唯一無二といえばそうなんだが。物は言いようだな。
まぁ、クライアントの要望に応えてこそのサポート科である。きららもせっかくヒーロー科の生徒と関われるチャンスであるから、頑張っていた。
今まで個人的にデザインしていたのは轟ばかりであったし、轟はきららがいいと思えばそれでいいというスタンスであるし、一緒に個性伸ばしをしていた八百万も砂藤も温和なタイプでそこまで自己主張が強くない。きららがデコったデザインにも特に注文をつけてくることはなかった。
逆に言えば、青山のようなこだわりの強い生徒と交流できたのは、一番の収穫かもしれない。


「これでど!?」
「んー……」

青山はくるりと回っては鏡でいろんな角度を映し、それはもう細部まで確認していた。正直ドキドキする。精一杯をぶつけたが、青山のお眼鏡にかなうかどうかはわからない。
確認が終わった青山が手鏡をしまい、今度は髪を整えだした。これは気に入ったのか? 気に入らなかったのか? どっちだ? 子唾を飲んで見守っていると、青山がネビルレーザーを出し、そのキラメキぶりを確認すると、グッドサインを出した。


「僕の理想通りだ、ありがとう☆」
「!! ……や、やったあああ!!」
「君すごいね。これからもよろしくお願いするよ☆」
「あざまる〜! ご贔屓にしてちょ〜!」

こうしてきららは技術者として一歩前進するのであった。
確かな手ごたえを感じる。きららは合宿に来てよかったと、掛け合ってくれたパワーローダーに感謝した。


 


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