「腹もふくれた、皿も洗った! お次は……」
「肝を試す時間だー!!」

肝試しの時間がやってきた。森の中ということもあって大変雰囲気が出る。
A組の賑やかし組である芦戸と上鳴はそれはもう楽しみにしていたが、そんな彼らに悲劇が訪れた。


「その前に大変心苦しいが、補習連中は……これから俺と補習授業だ」
「ウソだろ!!」
「すまんな。日中の訓練が思ったより疎かになってたので、こっち・・・を削る」
「うわああ堪忍してくれえ、試させてくれえ!!」

これも立派なヒーローになるためである。きららは引きずられていく芦戸たちに「どんまーい! 補習ファイト〜!」とエールを送ったが、返ってくるのは嘆きと悲鳴だけだった。遊べないというのは辛いものである。

肝試しはA組とB組の対抗戦だった。
脅かす側の先攻はB組で、すでにスタンバっている。A組は三分おきに二人組で出発し、ルートの真ん中にある名前を書かれた札をもって帰ってくる。
脅かす側は直接接触こそ禁止されているが、個性を使った脅かしネタを披露してくれるらしい。


「創意工夫でより多くの人数を失禁させたクラスが勝者だ!」
「やめて下さい汚い……」
「マジで全力の肝試しじゃん。ウケる」
「なるほど! 競争させる事でアイデアを推敲させ、その結果個性にさらなる幅が生まれるというワケか。さすが雄英!!」

組み分けはくじで行われた。A組は20人で5人が補習に行っており、本来なら一人余るところだったが、きららがA組に混ざっていたため、ちょうど組み分けすることができた。


「みどりんよろぴ〜」
「み、みどりん!? それって僕のこと!?」
「うん。他にいなくない? みどりってつく人」
「そそそそそ、そうだけど……! 今までそんな風に呼ばれたことなんてなかったから恥ずかしいというかなんというかその……」
「そかそか。まぁ、あだ名って呼ばれるうちに馴染んだりするからそんな深く考えなくていーよ。もっとかるーく、チル友の一歩的な?」
「チル友とは」
「一緒にいてくつろげる友だちって感じ」
「くつろ……!? きゅう……」
「え!? ちょ、みどりん!? しっかりー!」

きららとチル友になった姿を想像した緑谷はキャパオーバーで倒れてしまった。クソナード街道を爆走していた緑谷少年には、根っからの陽ギャルであるきららと仲良くなるなんて色々夢にも思わなかったのである。


「クソナードが」
「緑谷、大丈夫か?」
「顔ゆでだこだけど大丈夫っぽい」
「緑谷倒れたって!? じゃあ緑谷に代わって俺と組もうぜ飾ー!!」
「目スゴイ血走ってる。やばたん」
「峰田、代わるなら俺が代わるからいいぞ」
「あ!? 俺がクソデクと組むわけねーだろ! デクと舐めプ野郎よりはおまえのがマシだわ! 代わるなら俺と代われ!!」
「おっと、きららモテ期じゃん?」

さすがにそういう意味で言われているわけではないと理解はしていたが、言わずにはいられなかった。
峰田は欲望に忠実すぎるし、轟は相変わらず天然で、爆豪は緑谷と轟が嫌いすぎた。


「まぁ、あたしら最後だし……さすがにそれまでにはみどりんも起きるだろうから大丈夫だよ」
「それもそうだな。もし起きなかったら俺と一緒に行こう。そうすりゃ寂しくねぇだろ?」
「ふふっ、そだね、寂しくないね〜!」
「結局彼氏様がもってくのかよおおお!!」
「諦めろ峰田。パートナーがいる相手にちょっかいを出すものじゃない」

轟の言い方が可愛かったので思わず笑ってしまった。いちいち可愛いったらありゃしない。
その間に血涙を流す峰田を障子が回収してくれた。結局、緑谷が復活したのは……二組目だった爆豪と轟が出発した後だった。







――悪夢の始まりは急に訪れた。
いや、きららたちが気づかなかっただけで、本当はもっと前からそばにあったのかもしれない。人知れず準備をして、牙を剥かんと機会を伺っていたのかもしれない。


「何この、焦げ臭いの……」
「?」
「黒煙……」
「え、山火事……!?」

猛暑が続き、葉が乾きやすい時期には山火事が起きやすい。きららはそれらを考えて疑ったが、マンダレイたちはそうではないとプロとしての勘が告げていた。
すぐにプッシーキャッツが対処しようと動こうとすると、侵入者の声と個性がそれを阻んだ。


「飼い猫ちゃんはジャマね」
「何で……! 万全を期したハズじゃあ……!! 何で……何でヴィランがいるんだよォ!!!」
「ピクシーボブ!!」
「やばい……!」

オネェ風の敵がピクシーボブの頭を打ち、ピクシーボブはそのまま意識を失ってしまった。
他にトカゲの異形型の敵もおり、さすがにきららもあの黒煙は敵の仕業なのだと合点がいった。

雄英の敵襲撃に伴い、万全を期したはずの林間合宿。楽しい肝試しだったはずのそれは、本当の意味で肝を試されることになる。
悪夢はまだ、始まったばかりであった。


 


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