「ご機嫌よろしゅう、雄英高校!! 我ら敵連合開闢行動隊!!」
「敵連合……!? 何でここに……!!」
「前に雄英襲撃したってやつらじゃん。しつこっ」
「この子の頭潰しちゃおうかしら。どうかしら? ねえどう思う?」
「させぬわ、このっ……」

頭から血を流し、気を失っているピクシーボブの頭に、オネェ敵が武器である磁石棒をゴリっと押し付けた。
虎がピクシーボブを救けんと動こうとしたところ、それを止めたのはトカゲの敵であった。


「待て待て、早まるなマグ姉! 虎もだ。落ち着け。生殺与奪は全てステインの仰る主張に沿うか否か!!」
「ステイン……!あてられた連中・・・・・・・か……!」
「そしてアァそう! 俺はそうおまえ、君だよメガネ・・・君! 保須市にてステインの終焉を招いた人物。申し遅れた、俺はスピナー。彼の夢を紡ぐ者だ」

トカゲの敵、スピナーが取り出した武器は夥しい数の刃物が一つの剣となって集められたものであった。だいぶえぐい。思わず緑谷ときららは「わっ……」「えぐ……」と声を出した。
そこに一歩、虎がズン、と進み出る。


「何でもいいがなあ、貴様ら……! その倒れてる女……ピクシーボブは最近、婚期を気にし始めててなぁ。女の幸せ掴もうって……いい歳して頑張ってたんだよ。そんな女の顔キズモノにして、男がヘラヘラ語ってんじゃあないよ」
「ヒーローが人並みの幸せを夢見るか!!」
「虎!! 「指示」は出した! 他の生徒の安否はラグドールに任せよう。私らは二人でここを押さえる!! 皆行って!! 良い!? 決して戦闘はしない事! 委員長引率!」
「承知致しました! 行こう!!」

きららも指示に従い、飯田らと一緒に施設に戻ろうとすると緑谷が先に行くよう促した。緑谷はマンダレイに「僕、知ってます・・・・・!!」と告げると行ってしまった。何を知っているのかはわからなかったけれど、マンダレイが任せたということは大事な事なのだろう。
きららたちは後ろ髪をひかれながらも、施設へと急いだ。自分たちがいてはプロの足手纏いだと理解していたからだ。







そこからはなんだかあっという間だった。
施設につくと、きららたちはマンダレイのテレパスでA組B組総員の戦闘許可をイレイザーヘッド……相澤が出したことを知らされ、敵の狙いの一つがかっちゃん……すなわち爆豪であることが伝えられた。
敵の数名は逮捕に至ったが、それ以上の敵がワープゲートの個性もあり、逃げおおせた。そして最悪なことに、爆豪も敵に奪われてしまったのであった。


「もうすぐ救急くるからがんばって……!」

きららは救急が来るまでの間、個性を使って毒ガスを吸って意識不明の重体であるB組の生徒や、敵と会敵し重傷となった生徒やピクシーボブたちの身体機能をあげていた。


「くっ……飾さん、これを……!」
「ヤオモモ! 頭すごい怪我してんのに……!」
「大丈夫です。飾さんの個性で少し楽になりましたから……耳郎さんたちを救けるためですもの」
「っ……ほんと、ヒーロー科って……! もうこうなったらどんと来いだし!!」

八百万が創造してくれた簡易的な医療器具をデコって性能を上げる。頭から血を流して意識朦朧としているのに、八百万は無理を押して力を貸してくれた。そのことにきららは言い知れない何かを感じる。ヒーロー科の人間は揃いも揃って特別だ。どんな時も、どんな状況でも、誇り高く限界を超えてくる。みんながみんなそうじゃないのかもしれない、でもきららにはそう思えて仕方なかった。

爆豪が連れ去られたことに対して、何も思わないわけじゃない。敵を間近で見てまったくの恐怖を感じなかったわけでもないし。多分きららも、何かしてなきゃ落ち着かなかったのだと思う。


「ああもう、みどりんすごいボロボロじゃんなにこれ〜!」
「緑谷は大体いつもこうだ」
「そだね〜! 体育祭のときもボロボロだった〜!」
「ボロボロじゃねぇときのが珍しいかもな。今回は特にひでぇが……」

そういう轟もまったくの無傷ではなかった。ムーンフィッシュとかいうダツゴクした死刑囚と会敵したらしい。その他にも色々。爆豪とペアでずっと一緒に行動していた分、轟の悔しさもきららは感じていた。

そりゃ悔しいよなと思う。轟はヒーロー志望として救けたいとか、守りたいっていう思いがとても強い。
直前まで一緒にいて、それでも手が届かなかったという悔しさが轟の中で渦巻いていた。

けれど、かける言葉が見つからなかった。大丈夫? は違うし、爆ぴは大丈夫だよ、なんて何の根拠もない。敵が何で爆豪を狙ったのかなんてわからない。殺されない保証だってない。
でも何か言葉をかけてやりたい。気休めじゃなくて、もっとこう……轟が前を向けれるような。そんな何かを。

その時、救急が到着した。ブラドキングが通報していた救急や消防が到着したのだ。
プロは……起きた時には次を見据えているものだ。爆豪だって、ラグドールだってそうで、誰も何も諦めてなんかない。まだ、終わってない。終わりじゃない。そんな当たり前のことにきららは気付いた。


「とどしょ。まだ終わってないよ」
「きらら……?」
「爆ぴのこと諦めてる人なんていないし、爆ぴもあんなんだし。みんなも……重体者も、重傷者も多いけど……誰も死んでない。まだ、終わってない」
「……ああ、おまえの言うとおりだ。まだ終わってねぇ」

――まぁこんなんあたしに言われなくても、とどしょわかってるだろうけどねぇえええ!
それでも言わずにはいられなかった。きららは自分に出来ることが微々たるものだと理解している。でも微々たるなりに頑張ろうと思っているし、やったるぞぉお! と燃えていたりするのだ。

轟が暗い気持ちになったときこそ、少しでも煌めかせたいと思う。
希望を与えられる、そんな魔法を。

でもまさか、本当に爆豪を救けに行くなんて……そのときは夢にも思わなかったけど。


 


戻る
top