「むり……しんどい……キラメけない……」

きららは一度渦巻いてしまったモヤを消すことが出来ず、八百万への嫉妬を抱えたまま寮生活をスタートさせることになってしまった。
パワーローダーに発目共々、工房にある発明品を片づけるように言われ、作業をしている最中も屍のようだった。


「珍しいですね。あなたがそんなに落ち込むなんて」
「あきらん……もうやばいの。どんくらいやばたにかっていうと、きららがヒーロー科だったらなぁとか考えるレベル」
「それは重症ですね!」
「そう、マジ天変地異……!!」

サポート科の二大発明狂と称されるきららが、サポート科以外の科をたらればといえど検討するなんて、ありえなさすぎた。ここまで発明に狂った人間も珍しいというのに。
発目もさすがに心配になったのか、わけを尋ねることにした。


「何があったんです?」
「んー、何がって言うか……当たり前のことに気付いたっていうか……」
「煮え切りませんね。はっきり言ってください」
「んんっ、要するに……ヒーロー科のある女の子にやきもち焼いてんの〜!」
「? なんでまた」

発目にはさっぱりわからなかった。やきもちの意味は知っているが、この目の前のギャルとは無縁そうだったので。根っからの陽キャラであるし、細かいことを気にするような性質でもない。
合宿中にどうやら意中の彼とは交際に発展したようだが、まさか同時にやきもちなどというものを持って帰って来るとは予想外である。


「……その子はさ、マジすごいの。個性もすごいし、頭も良くて、性格も良い! でもちょっと抜けてて……こうなんていうの……? プリプリしてる」
「ふむふむ、それで?」
「そんで……当たり前に彼ぴと一緒に危険なところにも行けちゃって、彼ぴも多分、かなり信頼してる……」
「それでそれで?」
「……きららも彼ぴと一緒行きたかったなって思った。遊びじゃないってわかってるけど、危険だってわかってるところでも一緒に行く選択肢のある人間? でいたかったんだと思う」
「なるほど。嫉妬ですね!」
「そういってんじゃ〜ん! あ〜なんでこんなんなるかなぁ……! やきもちとか今まで焼いたことないのにさ〜!」
「それは……それだけ彼氏さんが好きってことでは?」
「それな〜〜!!」

その通り過ぎた。好きすぎて辛い。
きららは自分に自信がある方だったし、別に八百万に自分の魅力が劣っているとかは思っていない。思っていないけれど、なんか嫌なのだ。芦戸や発目なら大丈夫。多分、女子会で一緒に過ごした大半の人間が大丈夫だ。

それはもしかしたら女の勘かもしれない、と思うのは、ばったり出会った芦戸と話してからだった。







「やきもちぃ……!?」
「なんでちょっと嬉しそうなのあしみな〜!!」
「いやぁ、百戦錬磨のきららもやきもち焼くんだと思ったらつい……! ごめんごめん!」
「百戦錬磨って……そんな言うほど恋愛してないんですけどぉ……」
「私からしたらそんなもんなの! そっかぁ……やきもちかぁ……」

工房を片づけようととりあえずゴミを処分しようと外に出たところ、ばったりと芦戸に出くわした。
芦戸にその後のお付き合いについて聞かれ、発目に吐き出してもまだ晴れなかったもやもやを芦戸にも話すと、それはもう楽しそうだった。こっちは真剣である。


「ヤオモモかぁ……これ、もしかしたら私のせいかも……」
「なんであしみなのせいなの〜?」
「ほら、私が最初にヤオモモが隣の席で騎馬組んでるって話したじゃん? もう第一印象がとっくに恋のライバル的な感じになってたんじゃない?」
「あー……あーうん、それは……あるかも。あのときはマジ意識した……」
「でしょー?」

きららは体育祭の時を思い出した。芦戸に言われて、八百万の試合を食い入るように見たし、そのおかげで常闇戦で突破口を開けたくらいである。
これはもしかして、擦り込みのようなものだろうかときららは考えた。最初からそういう対象として意識してしまったから変に重くとらえているのかもしれない。


「私から言ってもあれだけどさ、別に轟とヤオモモはそういう感じじゃないよ?」
「そうなん……?」

どこか縋るように見つめてきたきららに、芦戸が胸を押さえて顔をそむけた。


「うっ……まってきらら。その顔は私に効く……顔がいい……!」

同性だし、別に芦戸にそっちの気はなかったが、それでもきららの顔はかなりタイプなのだ。アイドルだったら絶対推してた。熱愛発覚した日には諸手を挙げて祝福しただろう。推しよ幸せになってくれと。だがきららは一般人である。現実に戻った。


「いや……決して恋愛じゃないんだけど。ヤオモモは体育祭からちょっと自信なくしてたらしくてね。期末で轟とチームアップすることになったんだけど、そこでなんか色々あったみたいで……轟のことはかなり信頼してるっぽいけど……わあ!! ごめんきらら泣かないでーー!!」
「え……いや、泣いてない……し? あれ……」
「泣いてるじゃんんんん!! ごめんねほんとごめんんん! 信頼してるけどそれは恋じゃないから安心してねって言おうとしたんだけどおおお! ごめん不安になるだけだったねええ!!」

がばっと芦戸に抱き着かれたきららは何のことだかわからなかったが、ぼたっと水が落ちてきて泣いてることに気付いた。正直自分自身にドン引きした。いや、こんなんで泣くとかマジか。
きららが混乱していると、芦戸の方がわんわん泣き出してしまった。きららを傷つけてしまったと思ったのだ。発端も自分にあると責任を感じていた。


「あしみなのせいじゃないよ〜! めんごめんご。あたしもちょっとメンブレなうでティアコントロールできないんだわ……」
「ティアコントロールは笑うってえええ!」
「おー笑って笑って。参ったなぁ……めんごよあしみな。弱くてすまん寝」
「ぜんぜんいいよおおおお!! そんなきららも大好きだよおおおお!!」

あーもう、あしみなマジマブ。好きぴの極み。もはやしゅきぴって感じだった。
抱き合って泣く少女が二人。それに大変困惑した様子で声をかける人物がいた。


 


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