芦戸は今度こそ大丈夫だろうと思い、空気を読んで早々に退散していた。あとは二人でごゆっくりと言わんばかりの表情だった。きららも今度はそのまま見送った。後で詳しくちゃんと話そうと思う。
轟も幾分か落ち着いた様子のきららに安心し、おそらくずっと言いたかったことを切り出した。


「俺の彼女が何か悩んでるって発目から聞いたんだが……それは解決したのか?」
「え!? あきらん!? とどしょあきらんと連絡先交換してたっけ……!?」
「いや。たまたま会ったんだ。アイテムぶちまけてて、それを回収する手伝いをな」
「あーうん、なるほど。たくさんあったでしょ? おつまる」
「まぁ、色々あったが……結果的に畳や障子戸が手に入ったから俺も得したようなもんだ」
「そういえば持ってたね畳。なんに使うのこれ……?」
「部屋を和室にリフォームするんだ。フローリングもカーテンも、いちいち消すのも着けるのも立たなきゃなんねぇ照明も落ち着かねぇ……」
「劇的大改造じゃん? それ大変っしょ? 手伝うー!」
「いいのか?」
「もち!」
「なら頼む」

そのままA組の寮まで行って、轟の部屋まで着いたのできららは油断していた。悩み云々の話はもう流れたとばかりに思っていたのだ。
けれど轟はしっかり覚えていたし、何なら部屋を整えながら話そう。外よりいいだろという考えでいたのだった。しっかり話は続けられた。


「それで、何を悩んでたんだ?」
「うぐ……忘れてなかったかぁ……」
「忘れるわけねぇ。大事なことだろ」
「大事って……」
「きららが悩んでんだから、力になりたいって思う。役に立てるかはわからねぇけど……一緒にどうしたらいいか考えたいし、おまえが困ってんのに、何もできないのは悔しいだろ」
「んんっ……とどしょスパダリすぎぃ……!」
「すぱだりってなんだ?」
「ものすごく理想的なダーリンってことぉ……」
「ダーリン……じゃあ、きららがハニーか。スパハニ? ってやつか?」
「とどしょそうゆうとこー!」

あまりにも神だった。これを素でやっているのだから恐ろしいものである。天然って怖い。
当たり前のようにきららを理想的な彼女だと伝えてくれるし、好意はそれはもう溢れんばかりに伝わっていた。だから、きららも素直に話すことが出来た。


「あのね、笑わないでほしいんだけど……」
「おまえが悩んでて笑うわけないだろ?」
「いやうん、えっと……あー笑うっていうか、呆れるっていうか……いや、とどしょ困っちゃうか」
「俺が困る? なんだ? なにかしてほしいのか?」
「何かしてほしいわけじゃなくて……あのね、きらら………ヤキモチ焼いちゃって」
「ヤキモチ……ヤキモチってあれか、嫉妬?」
「うん……」
「なんで焼いたんだ?」
「……ヤオモモがうらやましくて……」
「八百万……?」

轟は怪訝な表情を浮かべた。八百万が羨ましいと思う事柄に特別心当たりがなかったのだ。轟はきららが口を開くのをゆっくり待っていた。とりあえず聞かなきゃわかんねぇ。


「前からね、ヤオモモはちょっとだけ意識してたんだ。とどしょの隣の席で、騎馬も一緒に組んでたっていうから」
「それはそうだが……。! 俺がおまえの誘いを断ったからか!? すまねぇきらら、あの時の俺は自分の左側を受け入れられなくて、親父の力だって思って憎んでたんだ。おまえが嫌だったとか、そういんじゃねぇんだ。ごめんな」
「え!? いやそれはあんま気にしてない! ちゃんとその後も取り付けたし! 実際とどしょあたしのアイテム使ってくれてるし……ほんとそれは大丈夫!」
「それなら、いいんだが……」

轟が騎馬を組むのを断った理由は最初から聞いているし、別にそこを気にしたことはなかったが……轟にとっては真っ先に思い当たることであったらしく、自分のその言動がきららを傷つけたのではないかと落ち込んでいた。そんなことはないので安心してほしい。


「なんかさ、I・アイランドでもヤオモモすごかったし、合宿でもすごい良くしてもらったしさ、いろんなことがすごい子だっていうのはわかるし、それでとどしょが頼るのも納得ってゆーか……」
「待て、頼るってなんのことだ?」
「え……一緒に爆ぴ救けにいったじゃん?」
「それはそうだが……発信機を取り付けたのは八百万で、それが俺らが爆豪に繋がる唯一の道だった。受信デバイスを創ってもらうだけの話だったんだが……ストッパーとして同行するっていうから一緒に行っただけだぞ? 特に何かを頼ったつもりはねぇんだが……」

そういわれるとそのような気もする。けれど、芦戸から期末試験で何かあったという情報だけを得ていたきららは、少しだけ踏み込んだ。


「……期末試験でチームアップしたんでしょ? なんかあったって聞いた」
「なんかってなんだ?」
「きららも聞きたい……体育祭で自信なくしてたヤオモモとなんかあったって……」
「ああ、あれか。……俺、最初から八百万の意見聞かなかったんだ。一方的にこうしろって押し付けた。でも、それじゃ相澤先生には通じなくて……もっと話し合ってもよかったんじゃないかって言われて、そこで初めて八百万の意見も聞くべきだったなって思ったんだ」
「う、うん?」
「八百万はすっかり弱気になってたが……あいつは作戦立案に長けてる。司令塔として力を発揮するタイプだ。そういう奴だと思ったから、俺は委員長決めの時あいつに一票入れた。実際八百万が初めから考えてた策に乗ると驚くほどすんなり条件達成したよ。それからはすっかり元の調子に――!?」

轟が照明を取り付け終わり、きららの方を見ると今にも泣きそうになっている顔にぎょっとした。慌てて駆けつけ抱きしめた。何か失言した。きららを傷つけた。轟の頭の中は大パニックであった。


 


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